卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第34話 世界の果て

 寿美礼さんの【鑑定屋】を後にし、今度こそ本当に本当の出発だ。【ガベジー荒野】をひたすら北上する。

 

 道中では、機械で作られた犬のようなモンスターや、キャタピラで走行するドラゴンが出てきたけれど、所詮は街エリアのお邪魔キャラ程度の存在だ。鋼鉄の牙を剥いてはくるが、実のところ紙同然に脆い。

 

 搭載されたマシンガンでこちらをちまちまと削ってくるのが地味に厄介だが、下手をするとソファーに座っているだけで相殺できてしまう程度のダメージだ。

 

 ゲーム世界の銃は、現実と違って所有者のステータスによって威力が変わることが多い。だから一般人でも高ダメージを叩き出せる現実(リアル)()()に比べると、汎用性に欠ける節がある。

 

 逆に言えば、ステータスの高いプレイヤーが使えば強いのかもしれないが、今のところは敵が使ってくるものしか見た覚えがない。実装されていないのだろうか。

 

 こうしてモンスターを倒しながら荒野を抜け、ついにボクたちは【世界の果て】へと到達する。

 

 見下ろすだけで背筋が寒くなるような断崖絶壁がそこにあった。

 

 ここから先は作られていません、と身も蓋もなくプレイヤーに制限を突きつけるオープンワールドの境界線。

 

 向かい側にもかろうじて同じような絶壁が見えるのだけれど、基本的には世界がただの箱庭ではないことを表現しているだけの背景だろう。

 

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>オープンワールドなのにこういう都合の良い地形があると萎えるよな

 

>↑そこでディカプルガイアプロジェクトという神ゲーがあってだな

 

>確かに観光スポットと言われてるだけあって他にもプレイヤーが来てるな。こんなに何も無さそうな場所なのに

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 やはり人気の観光スポットなのか、それとも効率のいい狩場でもあるのか。視線を巡らせると、焚き火を囲んで雑談するパーティや、断崖に向けて延々と感情表現(エモート)を連打しているソロ勢など、十数名のプレイヤーが思い思いに時間を潰していた。

 

「今は何もありませんが、アップデートで何かが追加されたりするかもしれませんね。さて、それで【祠】はどこにあるんでしょう?」

 

「ぱっと見では見当たりませんね……♥」

 

 お便り自体がガセだということはないはずだ。他のお便りも確認したが、同じような情報提供はいくつかあったので、【祠】があるということは間違いないと思う。

 

 ちょっとそこらの人に聞いてみようかな。そう思っていると、断崖絶壁の近くに立っていたプレイヤーが面白いことを始めた。

 

 そのプレイヤーは躊躇なく身をかがめ、崖へ向けて跳躍したのだ。

 

 まさか自殺? なんて思う間もなく、直後の行動でその意図を理解する。

 

 彼は1枚の板を取り出し、足裏にバシバシと叩きつける。そう、

 

「【エアジャンプ】! 【エアジャンプ】! 【エアジャンプ】! 【エアジャンプ】!」

 

 断崖絶壁の向こう側にたどり着こうとしているのだ。

 

「殺キリト戮くん頑張ってー!」

 

 付き添いの女性プレイヤーが応援の声を上げるたび、彼の影はひと呼吸ぶんだけ遠くへ伸びていく。

 

 しかし、わずかに距離を稼いだところで焼け石に水だ。理論上は無限跳躍が可能と噂される〈ロードウィング〉だが、実際にはMPという最大の問題が立ちはだかる。

 

 ジャンプの合間にポーションを使ってMPを回復していたようだが、やはり限界は訪れる。

 

 【エアジャンプ】の連鎖は終わり、キリトさんは底の見えない断崖絶壁へ真っ逆さまに飲み込まれていく。

 

「殺キリト戮くーんッ!!!! 【コールグループ】!」

 

 それを見ていた推定アスナさんが瞬時に召喚スキルを発動させる。するとキリトさんはすぐにこちらに戻ってきた。デスペナルティを受けないための保険が用意してあったようですね。

 

 人目も憚らず抱き合う2人を見て、わずかにためらいはしたものの、思い切って話しかけてみることにした。

 

「すいません。もしかして、向こう側を目指していたんですか?」

 

「ああ、そうだ。あんなご大層に大地が見えているんだ。行かないほうがおかしいだろ?」

 

「MP的にはちょっと無理じゃないかなー、と思ってたけどね?」

 

 さすがですね。このような偉大なる冒険者がいらっしゃるとは! ヒロインも含めてセットでロールプレイしてるだけのことはありますね。そこらの量産ネームとは格が違いますよ!

 

「なるほど。そしておねえさまもこれから同じことをする必要があるみたいですわ♥ ほら、見てくださいませ」

 

 ボクたちの会話には混ざらず、霧の帳しか映らない断崖の向こうを凝視していた明日香さんだったが、話は聞いていたらしい。けれど、同じことをする必要があるってどういうことだろう? 確かに興味深い検証だけど……。

 

 向こう側を見続ける明日香さんに倣って、同じように断崖絶壁の先へ目を凝らしてみたけれど……。特に目新しいものはないようだけど。

 

「あ、ごめんなさい、スキルを使っていたんでした♥ 【ギフトパス】【対象:クレヤボヤンス】」

 

「あっ、視界拡張系のスキルですね。ありがとうございます」

 

 明日香さんから【サイキック】のスキルをお借りして、もう一度向こう側を覗いてみることにした。

 

 【クレヤボヤンス】は特定の座標を俯瞰視点で見ることができるスキルだ。これを使えば、遠くの様子も確認できるだろう。

 

 そしてスキルを使って向こうの大地を見てみると、すぐにわかった。霧の向こうで、灰色の屋根がちらりと揺らめく。

 

「あー、【祠】。あっち側にあるんですね」

 

「そうですわね、あんな露骨な建物が未実装の背景だとは思えません♥」

 

 気づかなかったら、延々とさまよっているところでしたよ。

 

「向こうに行くのが目的ってことなら、協力しないか?」

 

「ありがたいです。一蓮托生でこの断崖絶壁を突破しましょう!」

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