卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第339話 グラットンイーター

「見つけたっす。恐らくボスっすね。後ろに階段があるけど封鎖されているようっす」

 

「ボスを倒せば開くのかなー?」

 

 らくらく快適なダンジョン攻略を続けながらも、スイッチやギミックを押し、最短経路でここまでやってきたボク達。【モーションアシスト】はボスモンスターのいる場所を指しているので、他にもスイッチがあってそれを押せば封鎖が開くなんてことはないでしょうね。

 

 ボスモンスターは真っ黒な体毛を持つ狼さんだ。しかもかなり大きい。今はああああさんのナノマシンに搭載された投影映像機能でボスモンスターを観察しているのだけれど、だだっ広い大部屋の面積のおよそ1/3を、その狼さんが1匹で占有している。異様としか言いようがない。

 

 身体の大きなモンスターはその分動きが遅かったりするのがゲームでは定番の設計だけど、ゴーレムすら光の速度で動くようなゲームでそんな欠点があるとは思えない。

 

 あの体躯を活かして広範囲に強力な攻撃を光の速度で仕掛けてくることは間違いないはずだけど……。

 

「あの…巨体じゃ……通路通れない……」

 

 以前に【A−YS】でもありましたね、〈地形嵌め〉。巨大なゴブリンが大部屋から通路に入れず、攻撃もできずに困ってるところを一方的に仕留められるという、残念すぎるボスモンスター。

 

 あの時は灑智も一緒にその手段でゴブリンを倒していたんですよね。だからその経験をした我が妹がダンジョン作成で同じような失敗をするとは思えない。むしろそういった経験で慢心したプレイヤーを騙す(トラップ)のようにも見える気がします。

 

 一応ぷにりんさんの矢とああああさんのナノマシンがあれば射程も届かないほど遥か遠くから一方的に攻撃できますけど……どうしましょうかね。

 

「絶対何かしらの反撃はあるっすよね。付与(バフ)は最大限に掛けておくべきっす」

 

「とりあえず【イグニッション】はフル装填でいきましょう。可能性は高くないですが、ワンキルできる可能性もあります」

 

 【イグニッション】1回分でもプレイヤーや通常モンスター相手なら問答無用、一撃で倒せるレベルの付与(バフ)スキル。さすがにボク以外に掛けた場合は基礎威力の兼ね合いもあって一撃は難しいのだけど、重ね掛けすれば話は別だ。

 

 そしてぷにりんさんなら、基本的にはいくら重ね掛けしても1度使えば効果が終了するはずの【イグニッション】を【ピアースショット】で無限に使い回せる。

 

 今のところは5本程度の矢を浮かせている状態だけど、ちょっと時間をかけてもいいのなら【イグニッション】込みの超火力を持つ矢をいくらでも継ぎ足していける。

 

 一撃はさすがに無理かもしれないけれど、【ピアースショット】を量産した数に物を言わせる物量戦術なら間違いなく刈り取れるはずだ。

 

 さっそくいくらかの準備期間を挟み、みんなに【イグニッション】を最大まで重ね掛けした状態で【ピアースショット】を20個程度量産する。そして【煈颷の刻印】も適用した上で準備完了!

 

 さぁ、さっそく戦闘開始だ。ぷにりんさんが20個の【ピアースショット】を勢いよく発射する。放たれた矢はダンジョンを右へ左へ曲がりつつ、ボスモンスターである狼をめがけて最短距離で突き進んでいく。

 

 そして大部屋に突入してからは一直線で、光の速度で狼に迫り――それらすべてが突き刺さる。

 

 矢が命中し、モンスターの頭上に出現したゲージの減りを確認する。どうやらHPが高いなんて低次元の話ではなかったらしい。ゲージが1mmも減っていない。

 

 ゲージが減っていないとは言うけれど、ゲージが動いていないとは一言も言っていない。重要な点はそこだ。

 

 端的に言えば――HPが回復している。本来のHPゲージの枠を突き破って、バーが横に伸びているのだ。

 

「ダメージを回復に変換した……?」

 

 結果的にダメージは与えていないわけだけど、それでも攻撃を加えたという事実は残ったらしい。プレイヤーという明確な敵を認識した狼――【グラットンイーター】は大口を開けて黒い球のようなものを発射する。

 

 黒い球は一直線に大部屋を突き抜け――迷宮の壁を〈トンネル避け〉のようにすり抜けて、本当の意味での最短経路でボク達へ襲いかかる。

 

 迷宮の壁はすり抜けられないんじゃなかったんですか!? サイドステップで攻撃を回避しつつ、試しに【ゲールウインド】を〈トンネル避け〉のつもりで発射するが、壁を突き抜けることはできなかった。

 

 〈トンネル避け〉は簡単に言えば量子単位の世界で隙間をうまい具合に突き抜けていくテクニックなのだけど、この壁には一切の隙間が存在しない。にもかかわらず、相手のスキルは当然のように一方的に壁を突き抜けて攻撃できる。

 

 ゲーム内スキルの強いところだ。()()()()()()()()()()()()。ある物理法則に従って動く〈トンネル避け〉や〈バタフライタクティクス〉などのテクニックは、道理を封じられたら成立しない。しかし、ゲームのスキルには道理なんて存在しないんですよね。

 

「迷宮の壁が関係ないなら離れている意味はないっす。アイツの大部屋に向かうっすよ!」

 

 ああああさんの提案に従って、ボクらは光の速度で大部屋に向かう。このダンジョンの広さは光の速度を前提として作られていないので、道筋さえわかっていれば到着するのはほんの一瞬。セカンドはもちろん、マイクロにもナノにも満たない時間で狼のもとにたどり着いたボク達は、さっそく攻撃を……というわけにもいかない。

 

 なぜなら相手の能力はダメージを回復へ変換するスキルと推定される。そのからくりを見破らなければ、攻撃は無駄どころか相手を利する行動になる。

 

 黒い球――どうやら魔法の類ではなく質量を持った鉄球らしい。それを口から垂れ流すように乱射し続ける【グラットンイーター】。ご丁寧にも回避ができないように首を左右に振りながら横一列に転がしてくるのがいやらしい。

 

 【グラットンイーター】の巨体と同様に鉄球もまたとてつもなく大きい。天井の高さすら超えた超巨大な球がごろごろと大量に迫ってくるのは恐怖しかない。

 

「みなさん、回避手段はありますか!?」

 

 ボクは【テレポート】で球をすり抜けて回避できる。

 

 めりぃさんも先ほどの戦闘で【テレポート】が使えることはわかっている。

 

 ああああさんは小型の【女神像】を握りしめている様子を見るに、対処可能な職業(クラス)を呼び出したのだろう。

 

 

 ぷにりんさんだけは、対抗手段が存在しない。

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