卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第342話 感受誘導、あるいは

 相手の中身が明日香さんであろうと、やることは変わらない。壁を迂回するか【テレポート】で突き抜けて【グラットンイーター】の下にたどり着き、スキルに頼らない攻撃で削り取るだけ。

 

 幸いにも相手のHPはボスモンスターにしてはそこまで高くない。先ほどまで長々と戦っていたのは【イグニッション】による強化が施された一撃が回復に転化されてしまったからだ。そのままダメージを与えられていたら間違いなく一撃で葬り去っていた。そんな程度の耐久力だ。

 

 めりぃさんはお得意の【テレポート】で壁を貫通できるはずだ。ボクも【イグニッション】を追加すれば【テレポート】で同じように抜けられる。ああああさんは知らないけど、たぶん突破手段があると思う。この程度の状況に対応できないわけがありませんし、彼は〈魔導〉の使い手でもありますからね。

 

 しかし、ぷにりんさんだけはその手段を持たない。

 

 彼はおそらく【アーチャー】以外の職業(クラス)を取得していない。今から【女神像】を渡して【メイジ】を取得させることはできるけれど、【テレポート】だけでは出力が足りない。【テレポート】にボクの【イグニッション】による補強が必要な時点で大きなタイムロスを生む。

 

 彼の主力スキルである【ピアースショット】もボスモンスターの持つ特性によって封殺されており、ああああさんやめりぃさんの持つ火力に比べれば微々たるダメージソースにしかならない。

 

 その点で言えばボクもまた主たる火力源となるスキルを封じられている状況ではあるけれど、それでもいくらでも手はある。

 

 いずれにせよぷにりんさんはこのままでは足手まといになってしまうかもしれない。

 

 けれど――ボクはきゅーとな後輩たるぷにりんさんにそんな扱いはしたくない。むしろ1番ど派手な活躍をしてもらわなければ困ります。今日ダンジョンで知り合ったばかりとはいえ、ボクの後輩さんなのですから!

 

「ぷにりんさん、ボクが今からとっておきの秘技を伝授します」

 

「……?」

 

 ボクが話している間にもめりぃさんとああああさんは明日香さんの下へと全力で向かっていく。あるいはこのまま放置してても、勝ててしまうかもしれない。確かに明日香さんは圧倒的な熟練度(プレイヤースキル)を誇るプレイヤーではあるけれど、めりぃさんもああああさんもまた歴戦のプレイヤーだからだ。

 

 ボスモンスターとしてアバターを行使しようとも【サイキック】のスキルを使いこなそうとも、やはり応用性に関しては2つの職業(クラス)スキルを使いこなす人間アバターが上回る。強力な効果付き装備を持たないただの敵モンスターであればなおのことだ。苦戦はするだろうけれど、勝てない道理はない。

 

「明日香さんのやってたことと同じです。『異形』のオーラを持つぷにりんさんであれば、同じことができると思いますよ」

 

 相手に特定の感情や思考を強要する絶大なる力〈感受誘導〉。明日香さんやとがみんが時折行使していた()()はTRPGプレイヤーとしての実力だけではなく、『異形』のオーラを自在に使いこなす触手による影響が大きいと見ている。

 

 恐怖という感情を受動(パッシブ)に与え続ける『異形』の力の方向性を強引に捻じ曲げて、別の感情や思考を誘導しているのだろう。〈神なる行動(ディバインアクション)〉がテクニックとして扱われるのにもかかわらず、《SANチェック》を模倣できるプレイヤーが少ないのも、『異形』の力を得るという経験を成し得ていないからこそだ。

 

「そう――その力の専売特許は明日香さんではなくぷにりんさんにあります。試してみませんか?」

 

「……うん……!」

 

 ボク達が会話をしている間にも戦況は変化している。壁の向こう側で戦っているが故に正確な状況は判断できていないけれど、どうやら明日香さんは壁を貫通する鉄球をゴロゴロと無差別に転がしてこのエリアの雑魚モンスターを倒し、【サイキック】のレベルを上昇させているようだ。

 

 【キネシス】を獲得すれば鉄球を臨機応変に行使できるし、【ブロールート】によって干渉力を底上げすれば、めりぃさんの突撃を緩和できる。あるいは自身に攻撃スキルを撃ち込んでHPを回復させることも可能だろう。単純に職業(クラス)補正によるステータス増強にもつながる。

 

 そんな状況で悠長なことをしている場合じゃないかもしれない。それに本当の意味で『異形』の力を使いこなせるのは『異形』だけなのだから、『異形』の力を持たないボクはアドバイスすることしかできない。

 

 けれど、ぷにりんさんならできるはずだ。このゲームのテクニックを短時間でスポンジのように吸収し、〈神なる行動(ディバインアクション)〉までも行使できるようになった彼であれば……!

 

「……むむ……!」

 

「自分が放つ『異形』のオーラに精神を集中してみてください。普段は相手を恐怖させるための特殊なエネルギーを放っているようですが、それに指向性を与えていくんです!」

 

 『異形』のオーラそのものを操った経験はボクにはないけれど、とがみんがアクタニアに『異形』にされてしまった時の経験から使い勝手の推測はつく。

 

 魔力とも全く違う、物質界に影響を与えない『イメージ』の顕現。かつての『世界』における至高のチカラ。

 

 だんだんとぷにりんさんの放つ『異形』の力が1点に集約しているのを肌で感じ取る。ピリピリと肌が焼け付く錯覚が走る。

 

 気のせいだ。何も起きてない。にもかかわらず、刃物で突き刺されるような鋭い痛みがボクを襲う。

 

 辛い。苦しい。痛い。それでも、視聴者が巻き込まれるのを瞬間的に感じ取り、カメラだけは明後日の方向に向けた。

 

 ……いや、痛みなんて本当はない。ぷにりんさんの放つ根源たるオーラを直接感じ取ったことで、痛いと錯覚しているだけなんだ。

 

「その調子ですっ……!」

 

 本来なら痛みという不快感を与える機能がオミットされているはずのVRMMOで、直接的な苦痛を浴びせられたボクは苦悶のあまり、思わず表情を歪めた。

 

 けれど、完成は近い。『異形』の放つオーラによって痛みという錯覚を与える存在は今までいなかった。

 

 視認しただけで苦痛を齎す『異形』。迷惑極まりないが、ここまでくればたどり着ける。あとはオーラの指向性を変化させていくだけ。

 

 そして本来世界になんの影響も及ぼさないはずのチカラが収束し――最高峰の『異形』が持つ『権能』がここに顕在する――!

 

 

《……《『停止』》……!》

 

 

 『全能』を震わせ、か細い声が響き渡る。

 

 その声は貫通不可能の壁を突き抜け、ダンジョンを一直線に走り抜け、【グラットンイーター】……そしてその中の人である明日香さんに突き刺さる。

 

『……!これは……!』

 

 次の瞬間、【グラットンイーター】はぴたりと動きを止める。

 

「……やった……?」

 

 ぷにりんさんは壁の向こうを観測できていないようで、ボクに成否を尋ねてくる。

 

 大丈夫、間違いなく成功してますよ。

 

 

 明日香さんはこの力に対抗する術を知ってはいたはずだけど、さすがの明日香さんでも、本来この場にあるはずのなかった『権能』に即断で対処することはできない。

 

 そもそも、この『権能』に従来の対策手段は意味を成さないはずだ。

 

 かの神の持つ『権能』とは同一の効果性能を行使してはいるが、そもそもの熟練度が違いすぎる。自分の『権能』の仕組みもわかっていない神なんかとは比べ物にはならない。一瞬で解除するなんてことはできないだろう。

 

 そして論ずるまでもなく当たり前のことだけど、光速戦闘の環境においてほんの一瞬の隙は死にも等しい。

 

 ああああさんの放つ〈魔導〉の一点照射によってHPを全損させる【グラットンイーター】。

 

 とどめこそ刺したのはああああさんだけど、これは間違いなくぷにりんさんの力によって得られた結果だ。

 

 スポンジのようにあらゆる技術を吸収して雨後の筍のように成長していくぷにりんさんを眺めながら満足げな表情を浮かべていると、チャットが届いた。

 

 

屠神 明日香>よりにもよって、私を相手にアイツの権能を使いますか?普通♥

 

 ご、ごめんなさい。

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