卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第345話 冷たい魔力

 宇宙空間には背景以外に何もないとは言ったけど、少し進んでみると変わった物が置いてある事もある。

 

 一軒家くらいの大きさの丸い岩だ。そこには草木が生い茂っていて、超小規模の惑星のように見えたり、あるいは砂漠のような岩だったり。大きさは天体と比べればミニチュアにもほどがあるのだけど、多種多様な岩がふわふわと宇宙空間を漂っている。

 

 軽く調べてみると、どうやら採取ポイントになっていたり、現在のボクたちの能力ならまったく苦戦もしないような弱いモンスター(かわいい)がその小さな惑星で暮らしているみたい。

 

 ここまでついてきた【アイズ・ファミリア】さんは緑が生い茂る惑星で暮らしていくようで、ぴょこんと飛び乗ってだらけ始める。このままついてきても仕方ないし、お別れの時だろう。ばいばい【アイズ・ファミリア】さん。

 

「ううー。ファミリアさんー!あたしの抱き枕に就職してよー!」

 

「はいはい。いいから行きますよ、めりぃさん」

 

「ちょっとまってまってー!もうちょっと可愛がってからー!」

 

「またぷにりんさんに捕まえてもらえばいいじゃないですか」

 

 そう説得してめりぃさんを連れて無理やり先に進んだけど、そこから先は【アイズ・ファミリア】が1度も出てこなかったという。

 

 騎士の能力は一通り確認したので、そこからはぷにりんさんが追い返していき、新しいモンスターが出た時だけ試しに戦ってみる。エンカウントの度に戦闘を繰り返すのと比べれば大幅な時間短縮ができてありがたいのだけど、灑智から怨嗟の声が聞こえてくる気がする。

 

 仕方ないじゃないですか。これってボク1人で攻略させる気、ありました?MNDが高い方の騎士はボクのスキルで魔法防御力を抜けるみたいですけど、これが2〜3体くらい一緒に出てきたら詰みますよ。

 

 外にいるであろう灑智に言い訳の思念波を飛ばしながら宇宙を進み続ける。やがて最終地点と思わしき場所にたどり着いた。

 

 本当に最終地点なのかはまだわからない。でも、そうとしか思えない。

 

 たまに小さな惑星が浮いている以外は本当に何もない。そんな代わり映えのしない世界で、明らかに異物としか思えないオブジェクトが浮いているのだから。

 

 異物としか思えないオブジェクト――それは1枚の扉だった。装飾も何もないシンプルな木製のドアだ。

 

 ファンタジー世界を舞台としたゲーム【フォッダー】ではよく使われるタイプの扉で、珍しくもないのだけど――いくらなんでも宇宙空間に存在するべきモノではない。そのあまりにも似つかわしくない不自然さが、この扉の先こそが最終地点であると確信させてくれる。

 

 これで本当になんの関係もないドアがふわふわ浮いているだけだったら笑っちゃいますけどね。

 

 【モーションアシスト】もあの扉を指し示しているのは間違いないのだけど、一体何が出てくるのか、とても緊張しますね。

 

「ではめりぃさん、先頭をお願いしますね?」

 

「えー!卍さんが行ってよー!お姉ちゃんなんでしょー?」

 

「下僕が口答えするんじゃありません!ほらほら、【ナイト】が前衛なのはどこのゲームでも常識ですよ!」

 

「もー!じゃあちゃんと付与(バフ)かけてよねー?【イグニッション】とか」

 

「……がんばる」

 

「これでしょうもない敵が出てきたら拍子抜けっすよ?」

 

 そんなほのぼのとしたやり取りをしながら、めりぃさんが扉に近づいてがちゃりと扉を開く。

 

 

 ――その瞬間、とてつもなく膨大な謎の圧力が扉の中から外へ解放される。

 

 まるで洪水のように溢れ出す謎の力――魔力。その絶大な圧力を間近で受けためりぃさんは扉の前から弾き飛ばされ、ボクたちのはるか後方へと吹っ飛んでいく。

 

 めりぃさんが――物質干渉力に特化しためりぃさんが吹っ飛んだ!?その衝撃を考察する間もなく濁流の如く溢れ出す魔力はボクたちを包み込んでいく。扉の入口にはめりぃさんを吹き飛ばすほどの魔力圧がかかっていたようだけど、さすがに宇宙空間という限りなく広い世界に飛び出してしまえばプレイヤーを吹き飛ばすような圧力は生じない。

 

 しかし魔力は扉から無尽蔵に溢れ続け、まるで宇宙そのものを覆い尽くしてしまうかの如き勢いで世界を埋め尽くしていく。そしてそんな魔力をその身に受けたボクの感じたことは――。

 

 

「冷たい」

 

 

 小学生レベルの感想だけど、この事実からはいくつかの情報を考察することができる。まず魔力は保有する人によって傾向が違い、例えばボクの場合は暑いらしい。だからボクが近づくと心なしか暑苦しくて、地味に嫌われていたというのが灑智から聞いた話だ。

 

 そして灑智はそんなボクの暑苦しい魔力を相殺することでそれをフォローしていたのだとか。

 

 

 冷たい魔力、宇宙を覆い尽くさんとばかりに広がる魔力量。

 

 最悪の想像が脳裏によぎる。そしてその最悪の想像がほぼ確実に現実のモノになると、ボクの直感が告げていた。

 

 

 この世界に顕現してしまえばすべてが壊れる、そう本人が豪語するほどのチカラ。ボクは姉という立場でありながら、その一端しか目撃したことはない。

 

 けれどその一端だけを見ても世界をひっくり返すことのできる力であるということは知っていた。

 

 

「お姉様……夢が叶いましたね。同じVRゲームを一緒に遊ぶ。〘リアルステーション〙なんてその場しのぎの紛い物ではなく、同じ立場で――対等な関係で」

 

 扉の中から現れたのは予想通りの人物――ボクの妹だった。

 

「やれやれ、あなたがこの世界に来たらバーチャル世界が崩壊してしまうんじゃありませんでしたか?」

 

「そのための『不壊』、そして広大なフィールドです。この扉までたどり着くのに、みなさんはそこまでの時間を要しなかったとは思いますけど、このエリアは広い。私達が住む宇宙と同規模といった所でしょうか。いずれは壊れますけど、それでも戦いを繰り広げる程度の猶予はある」

 

 ボク達の住む宇宙と同程度の大きさ。灑智は本来の力を発揮するために、とんでもないスケールのマップを構築した。にもかかわらず、壊れるのは時間の問題だという。

 

 想像もつかないくらいのスケールの話に思わず頭を抱える。意味がわからない。なんでこの子はボクの妹なんですか?

 

 

「さあ、お姉様――遊びましょう?私が本気で戦えるのは生涯で1度、この時だけ。楽しんで頂けたら嬉しいです」

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