卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
ボクは妖精さんを灑智に目掛けて撃ち出した。妖精さんはぱたぱたと翼を羽ばたかせながらも光の速度で駆け抜けていく。しかしボクが広げた魔力の領域を抜けて灑智の領域に突入したところで急激に速度を落としていく。まるで何かに阻まれているかのように――。
光速における戦いにおいては光速に至らない存在を仕留めることなど赤子の手をひねるよりも容易いことだ。灑智が全くの無動作で生成した白くて鋭い針のような〈魔導〉が妖精さんを撃ち抜く。瞬間、ボクの手に握られていた杖が粉々に砕けた。
「一撃で耐久力が削られたっ……!?」
妖精さんはボクの持つ杖と連動しているから、妖精さんが攻撃されることによって杖が破壊されるという理屈は理解できる。けれど基本的に【フォッダー】では装備品は戦闘中に早々に破壊されるような代物ではない。限りなくインフレした火力を持つボクの炎属性スキルでさえ相手の装備を戦闘中に破壊したことはなかった。
破壊された装備は修復すれば取り戻せるけれど、少なくともそんな悠長なことをこのタイミングでしている時間はない。実質的に妖精さんは封じられたものとして考えるべきだ。
「ふふっ、次はお姉様ですよっ!」
「めりぃさんー!守ってください!!」
「りょーかいー!死んでくるねー!」
新たな針を射出し続ける灑智に対してめりぃさんはせめてもの抵抗として馬を走らせて立ち向かった。けれど意味がなかった。針はそのままめりぃさんに突き刺さり、HPを全損させて消えていく。
スキルによる補正もなしに〈魔導〉による暴力だけで耐久性能に特化しためりぃさんを葬った。そんな恐るべき火力を誇るか細い針は嵐のように乱れ飛ぶ弾幕の1つに過ぎない。
残りの針はボクをピンポイントに狙って恐るべき勢いで殺到しているけど過剰火力にもほどがありますよ!
《……《『止めて』》……》
「その力は『異形』のオーラによる〈感受誘導〉込みで成立する『権能』……。意志を持たぬ私の魔力を止めることはできませんよ」
ぷにりんさんが『権能』で攻撃を阻止しようとしたけれどその可能性は予測していた。だからあえてボクは棒立ちでその場に留まる。
すべてがめりぃさんを一撃で全損させる程の絶大なる攻撃力だ。耐えられるわけがない。
しかし――針はボクに届く寸前で消失した。ボクが何かをしたわけではない。【ホームリターン】で戻ってきたああああさんが止めてくれたのだ。
「いかに強力であろうと所詮は〈魔導〉っす。出力にかかわらずすべての〈魔導〉を打ち消す〚アンチマジック〛の敵ではない」
そんな〈魔導〉があるんですね。〈ロールプレイング〉で発動方式を学習しつつ、次の攻撃に備える。
「〚アンチマジック〛ですか。それならこれはどうでしょう?」
灑智はそう言うと先ほどのように針を生成してああああさんを目掛けて勢い良く射出する。先ほどまでの針とは違い、その色は蒼く――。
「何度やっても同じっすよ。〚アンチマジック〛で――」
ああああさんがその言葉を紡ぎ切ることはなかった。針に貫かれて一瞬にしてHPを全損させる。
「ああああさんー!」
----
>草
>やられてて草
>アンチマジックで消せない魔導ってマジ?
----
「〚アンチマジック〛で消せないことを疑問に思っている方もいらっしゃるようですね。お姉様ならこの理屈、わかりますか?」
灑智がにこにことボクに問いかける。〈ロールプレイング〉を使えば答えを盗み見ることもできるが、そんなことをするまでもない。
先の白い針と蒼い針は明らかに違う攻撃方法だった。《『心眼』》で見ればそれくらいのことは読み取れる。
〚アンチマジック〛は対象となるオブジェクトを間違えたかのように効力を発揮せず、ああああさんを貫いた。その答えは――。
「――蒼い針は〈魔導〉ではない。ただ純粋に細く固めただけの魔力、そういうことですよね?」
光速を減衰させる程の濃密な魔力を一点に集約させてそのまま射出した。〈魔導〉に変換して超常を振るうのではなく、エネルギーをそのまま振るったのだ。
「魔力は物質界に干渉する。私の『表層魔力』が冷たく凍えるのと同じ原理です。その性質をそのまま振るえば世界すら壊すことができる。こんな使い方をゲームは想定していないので、〈魔導〉と違って減衰もありませんよ」
灑智のように膨大な魔力を持っていれば、という話だ。ボクの魔力で同じことはできない。
周囲に広がる魔力も同じだ。彼女の魔力は投射攻撃を著しく減衰させる。【メテオ】を放っても灑智に届く前に消滅してしまう。
それなら――。
「【イグニッション】――【アブソーブ】!」
キャラクターをシステムとして対象に選ぶ【アブソーブ】であれば減衰しない。
しかしそれも無駄な選択だった。
「対象に取れない?」
「〚エデン〛。自身を外界から隔てる〈魔導〉です」
外界から隔てる、つまりそこにいない扱いになっているということか。明らかに視認できているにもかかわらず、その場にはいないとシステムが認識している。
「これを突破できないなら、私の勝ちですね、お姉様っ」
そう言って灑智は再び蒼い針を生成し、射出する。ああああさんもめりぃさんもまだ戻って来ない。ぷにりんさんは何もできずに立ち往生しているだけだ。
――それなら魅せてあげましょうか。
「お姉ちゃんとして妹には負けられませんよ!」
ボクは【テレポート】で蒼い針を躱して前方に転移し、灑智の発する膨大な魔力の空間に踏み込んだ。その質量に圧倒されそうになるが、〈トンネル避け〉によって魔力の隙間を潜り抜けて灑智を目掛けて加速する。
灑智は次々と新しい針を生み出してボクを目掛けて射出する。濃縮された魔力には一点の隙間も無く、〈トンネル避け〉で回避できそうにない。〈トカゲの尻尾避け〉で四肢を切り離し、マクロ単位の動きで回避する。
そして灑智に肉薄した――。
「〚アンチマジック〛!」
ああああさんから見様見真似で学習した〈魔導〉で〚エデン〛を解除し、即座にスキルを発動させる!
「【アブソーブ】!」
魔導その6 『アンチマジック』
ありとあらゆる〈魔導〉を威力を問わずに一瞬にして消し去ります。どんなに強大な〈魔導〉であっても問答無用で無効化できますが、発動した瞬間に仕事を終えた〈魔導〉はタイミングの問題で無効化出来ないのだとか。魔力の消費量も極めて低く、覚えておいて損は無いでしょう。
余談として、〈魔導〉によって稼働している重要な設備にはダミーとなる効果の無い〈魔導〉が大量に張り巡らされており、無効化するのは非常に困難です。
魔導その7 『エデン』
物質に纏わせる事で存在を外界から遮断する〈魔導〉です。物質的な干渉を無効化し、逆に中から外へ一方的に干渉する事が出来ます。本来なら一瞬の維持にも途轍も無い魔力を消費する〈魔導〉で、攻撃に合わせて瞬間的に行使するのが王道なのだとか。