卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
嵐のように迫りくる蒼の針を〈流水誘導〉で逸していく。ボクだけではなく、後方にいるああああさんとぷにりんさんにも当たらないよう、大きく大胆に捻じ曲げる。
本来の〈流水誘導〉では、そこまで大きく軌道を逸らせない。濁流は時に水路を無視して新たな道を彫り進めるものだ。
しかし今のボクにはそれができる。通りやすい道筋を作るのではない。ボクが刻んだ道筋以外を否定することでそれを成し遂げた。
「〚エデン〛で〈流水誘導〉を形成しましたかっ」
「灑智みたいにはできませんが、一瞬の起動で方向を変えることくらいはできますよ」
「〈魔導〉の『応用』……お姉様は良い『魔導師』になれそうですね」
針の嵐を抜けて、ボクは【アブソーブ】の有効射程圏内に突入する。《『心眼』》で灑智の体表に〚エデン〛の膜が張られているのを確認できた。
「ああああさん!」
ボクの呼びかけにああああさんは行動で応えた。後方から大量の〚アンチマジック〛が放たれ、不可視の波動が灑智に命中すると〚エデン〛の膜が消滅する。
「【アブソーブ】!」
すかさずボクは【アブソーブ】を発動させて灑智のHPを『1』だけ残して喰らい尽くす。【パインサラダ】を食べていましたか。
ボクは間髪入れずに〈観察破壊〉を発動し、残ったHPを削り取ろうとしたが――。
「急速な自動回復。【モンク】の【黙想】ですか」
「〈魔導〉で戦うなら
【黙想】
[パッシブ][スイッチ][条件:素手]
効果:[自身]の[HP]を[継続的]かつ[大幅]に[回復]させる。
【黙想】の回復を超えるには〈観察破壊〉では足りない。
「〚ライトニングボルト〛!」
その時、ああああさんの〚ライトニングボルト〛が『ナノドローン』を通じて灑智の四方から放たれる。1つ1つは通常攻撃にも劣る一撃だが、手数によって圧倒的なダメージを与えるああああさんの王道戦術だ。
ボクは〚ライトニングボルト〛の経路に〈流水誘導〉を張り巡らせ、周囲の魔力で威力が減衰するのを抑える。これが決まれば――。
しかし期待も虚しく〚ライトニングボルト〛は蹴散らされる。
ああああさんの〚ライトニングボルト〛と同じ数の雷が放たれ、そのすべてを相殺したのだ。
「『ナノドローン』無しで僕と同じ数の〈魔導〉を起動した……!?」
「〚アンチマジック〛で消しても良かったんですけど――」
「【メテオ】!」
間髪を入れずに【メテオ】を発動するが、次の瞬間に隕石は雷に撃ち抜かれて消滅する。
「疾さを求めるなら〚ライトニングボルト-0〛ですからね」
灑智の〚ライトニングボルト〛は明らかに光速を超えている。彼女の弁では、〚ライトニングボルト-0〛は世間で広く出回っている〈魔導〉よりも優れた〈魔導〉なのだろう。
その隙に灑智は〚エデン〛を再展開する。状況は振り出しに戻った……か。
いや、正確に言うなら振り出しではない。あの数の〚ライトニングボルト〛を無動作で放てるのなら、ああああさんの〚アンチマジック〛を相殺することもできるんだ。
「もはや〚エデン〛を剥がす手順を踏んでいる場合ではないですね」
「ですが〚エデン〛は外界から隔てる〈魔導〉。此処にいないプレイヤーをターゲットには取れませんし、当たりませんっ」
自慢気に胸を反らす灑智だが、1つ疑問がある。
「外界から隔てるというのなら、どうしてこうやって会話できるのでしょう?その姿が見えるのでしょう?」
「〈魔導〉だから、としか言いようがありませんね。原理は確かに外界から隔てる〈魔導〉なのですが、仕様としてわざわざ姿は見えるし、声は聞こえるようになってるんです。有害な影響は受けませんけどね」
つまり有害な光線や音は都合よく無効化された上で灑智に届くということか。世界の法則として見るなら穴はない。無敵に等しい〈魔導〉だろう。
けれどそれはあくまで例外的な話だ。本質としては、そこにいないから対象に選べない。そこがないから攻撃が通らない。
しかし対象に選んでしまえば攻撃は通る。
ボクは【女神像】を起動し、サブ
そして【ジョーカー】から【メイジ】のスキルを引き抜いて起動させる。
「〈生命よ、等しく魔眼王の糧となれ〉――【ネガティブゲイズ】!」
「なっ……!」
【ネガティブゲイズ】
[アクティブ][キャラクター][視界][妨害][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[ステータス]を[指定]する。[効果時間中][視界]の[キャラクター]の[指定][ステータス]を[下降]させる。
視界型の発動スキル、【ネガティブゲイズ】。視認している相手を対象に効果を発動する明日香さんの得意技だ。
その効果により灑智のAGIを大きく引き下げ――確信を得る。
「どうやら対象に取れたようですね」
眼鏡越しだろうが望遠鏡越しだろうが関係ない。如何に距離が離れていようが関係ない。そんな魔眼のスキルは世界を隔てていても対象に取ることができる。
「でも私は【黙想】の効果で高い自然回復能力がありますよっ。視界型のスキルは継続ダメージを与えるスキルが多いですが、炎属性の恩恵も受けずに削り切れますか?」
「大丈夫ですよ。最近のアップデートで追加されたスキルがあるんです。それがこちらです!」
次の瞬間、宇宙空間に激しい破裂音が鳴り響く。
ボクの頭上に赤や黄色の炎の花が炸裂する。それと同時に灑智のHPが急激に削れていく。
【ファイアワークス】
[アクティブ][上昇][視界][聴覚][攻撃][支援][炎属性][魔法]
消費HP:25% 詠唱時間:20s 効果時間:4m 再詠唱時間:30s
効果:
[聴覚]で[観測時]、[ダメージ]を[与える]。
[視界]で[観測時]、[追加HP][追加MP]を[獲得]する。
「お宝探しのイベントで手に入れた新スキルが、こうも役立つとはね!」
「……っ!」
灑智は慌ててボクに〚ライトニングボルト〛を撃ち込むが、AGIを下げた影響もあって僅かに遅い。このくらいなら〈トンネル避け〉で避けきれる!
「けれどそのスキルは聴覚が起点ですっ。耳を塞いでしまえば――あれれっ?」
どうやら〈セルフゾーン〉で聴覚を遮断したようだが、ダメージは変わらない。聞こえない振りをしていようとも音は耳に届いている。その情報を処理していないだけで観測をしてしまっているんだ。
【不死鳥の加護】の効果が適用され、さらなる追加ダメージを継続的に与える。
回避の難しい大技を選んだのか、周囲一帯の世界がぐにゃりと歪みかけるが――。
「ああああさん!」
「対処済みっす、範囲がでかいだけの大技は〚アンチマジック〛のカモっすよ」
すぐに正常な状態に戻り、攻撃は不発に終わる。
「さぁ、次はどうしますか?対処する札は――」
「ちょっとした外法を借りさせて頂きましょうか――〚ノア・イース〛」
魔導その8 『ライトニングボルト-0』
雷を撃ち放つ〈魔導〉です。従来の〚ライトニングボルト〛よりも威力が高く、燃費も良い。
本来の〚ライトニングボルト〛はこの形で、広く流通している〈魔導〉の方が威力と燃費を悪化させた応用〈魔導〉なんですって。