卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第352話 固有魔導

ボクが『VRステーション2』から外に出ると、笑顔の灑智が出迎えてくれた。

 

「おかえりなさいっ、お姉様っ!」

 

「ただいまー。灑智のダンジョン、楽しかったですよ!」

 

 星型の感情表現(エモート)を飛ばして灑智に気持ちを伝えると、灑智の笑顔がさらに輝き出す。

 

 その輝きと共に、莫大な魔力の波が彼女の全身から垂れ流されていた。

 

「いつもよりかなり魔力が多く見えますね。なんだか寒くなってきましたよ?」

 

「普段はしっかり栓を閉めているのですが、今日は久々に開けちゃいましたからっ」

 

 どうやら【フォッダー】の中で魔力を使うには、こっちの世界でも魔力を解放する必要があるらしい。この街には一足早い冬が訪れそうだ。

 

 お返しにボクも魔力を放出して防ごうとするが、やはり灑智の魔力量には到底敵わず、呆気なく押し返されてしまう。

 

「普段から凄い魔力だと思ってたけど、それでも制限されていたんだねー。驚きました」

 

「わたしも灑智から突然魔力が流れてきたときはびっくりしたよ♥」

 

 ボクと灑智の会話に、横からとがみんが口を挟む。どうやらログアウトしてボクの配信を見ていたらしい。そのまま灑智の頭をなでなでし始めた。

 

「えへへっ、私は魔力だけが取り柄なのでっ」

 

 灑智の取り柄はもちろん魔力だけではない。先程の戦いでも多彩な技を披露してくれた。

 

「先程の戦いだけ見ても、魔力だけではなく、〈魔導〉の扱いにも秀でていると思いますけどね。なんですか、〚エデン〛って。聞いたこともないですよ」

 

 ネットで検索しても、そんな〈魔導〉の名前は出てこない。ほとんどの〈魔導〉は百科事典サイトに名前と効果説明が記載されているはずなのだけど、〚エデン〛という〈魔導〉は載っていない。それに――。

 

「〚ノア・イース〛もですね。こちらの〈魔導〉についてはそもそも普通の〈魔導〉なんですか?」

 

「〚エデン〛は一般には知られてないというだけで普通の〈魔導〉ですよ。〚ノア・イース〛は……『固有魔導』と呼ばれる分類ですね」

 

「『固有魔導』?」

 

「人には元来より魔力の性質に由来する独自の〈魔導〉が備わっていることがあるんですよ。その多くは発動条件がわからないまま埋没してしまうのですが、一部の限られた人材はその力を見出して突出した『魔導師』になることがあります」

 

「へー。となると、〚ノア・イース〛は灑智の『固有魔導』なんですか?」

 

「いえ、これは他の人の『固有魔導』ですね。私は魔力の性質を変化させることができるので、あらゆる『固有魔導』を再現できるんですっ」

 

「何それ、凄い」

 

 『固有』の〈魔導〉だって言ってたのに、それを自在に再現できるの?灑智はやっぱり凄いなぁ。

 

「ねね。わたしにも『固有魔導』はあるの?あと荒罹崇にも♥」

 

「とがみんとお姉様には『固有魔導』はありませんね。もう少しだけ魔力の流動性が高ければ発現した可能性もありますが……」

 

 魔力の流動性か。〈進化(エボルド)〉で変化させることができれば、後天的に『固有魔導』を覚えることもできるのだろうか。

 

「なんにせよ、『固有魔導』なんて使えなくてもお姉様は強いですっ!私が保証しますよっ!」

 

「えー?じゃあわたしはー?」

 

「とがみんは妹ですから私の方が強いです!」

 

「もう、わたしがお姉ちゃんでしょ♥」

 

 とがみんと灑智が感情表現(エモート)を散らしながら互いに自分が姉だと主張し合う。そんな様子を微笑ましく眺めていた。

 

「じゃあ大会で決着をつけよう♥」

 

「そうですねっ!魔力は使えませんが、お姉ちゃんとしてとがみんを倒してみせます!」

 

 どうやら【フォッダー】の大会で決着をつけることにしたらしい。とはいえ――。

 

「大会の開催日はおろか、どんな大会が開かれるのかも確定していないんですけどね。【願いの石】集めの締め切りはそろそろ終わりのようですが……」

 

 単純な【シングル杯】のルールだとは思わないほうがいいだろう。生産系に特化したプレイヤーも参加できる仕組みになっているのだから。

 

 ボクの予想では、生産プレイヤーも土俵に上がることができる【サバイバル杯】のルールが使われると思う。それだけで決着をつけるのか、複数段階の試合を経て優勝者を決めるのかは定かではないけれど――。

 

「あくまで予想ですがね、職業共通スキル枠にはいくつかの生産系のスキルを入れておいたほうが良いと思いますよ」

 

「やっぱりそうなるよねー♥」

 

「ボクも明日からは生産系のスキルについて習熟を深めていきますよ。手動生産には技術も必要ですからね」

 

 ランダムガチャの生産は資材が限られる【サバイバル杯】の環境には向いていない。手動による生産のパターンを調べておいたほうが良いだろう。

 

「あとは予備の『VRステーション2』も買っておかないとね。誰かさんに壊されるかもしれないし♥」

 

「だ、大丈夫ですよ。私は大会では魔力を使うつもりはありませんしっ」

 

「そういえば、めりぃさんにも謝っておかないとですね。人様の機器を壊すなんて、大炎上してもおかしくありませんよ」

 

「はい、反省してます……」

 

 メッセージ機能を使ってめりぃさんに連絡を取ると、すぐ返事が返ってきた。

 

「デート1回で許してくれるそうですよ。めりぃさんの懐の広さに感謝ですね。当然灑智も一緒ですよ?」

 

 もちろんゲーム内での話。次の配信はめりぃさんと灑智を交えて遊ぶことになりそうだ。

 

 そんな明日の予定をスケジュール表に書き入れて、ボク達は再び灑智のダンジョンでの出来事について語り合う。

 

 恐るべき魔力の暴威から始まった姉妹の対決は、のんびりとした家族の雑談によって幕を閉じた。




魔導その9 『ノア・イース』
どこかの誰かの固有〈魔導〉らしいです。世界の全てを水で満たし、安らかな眠りと可逆的な死に誘います。この空間では〚ノア・イース〛の発動者以外が行使する全ての〈魔導〉が発動を禁じられます。
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