卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第370話 コントロール奪取

 【シフトチェンジ】により、アリンドさんに狙われているボクと、後方にいる明日香さんの位置が瞬時に入れ替わる。

 

「厄介な奴から潰したかったが――ここにいる面子は全員厄介だから関係無いな!」

 

「お褒めに預かり光栄ですわ♥」

 

 アリンドさんは構わず距離を詰め、剣を振り下ろす。対する明日香さんが選んだ一手は――。

 

「――《SANチェック》、です♥」

 

「今更そんな小手先の〈魂の言葉(ソウルワード)〉で――ぐぅっ!?」

 

 小手先の〈魂の言葉(ソウルワード)〉。アリンドさんがそう評した筈の恐怖の呼び水は、今回も確実に仕事を果たした。

 

 確かに『異形』の存在により、この世界は恐怖に慣れている。最初は誰もが気絶した、ابتسامةさんの屈託のない笑顔すら、人々は克服した。それと同種の恐怖を発揮するだけの〈魂の言葉(ソウルワード)〉に屈する筈がない。そう考えるのも無理はないが――。

 

「お生憎様ですが、恐怖を克服した私の判定は一味違いますわよ♥」

 

 『アクタニア』という恐怖の上限値を乗り越えた彼女の恐怖は、従来のそれを遥かに上回る!

 

 思わずたたらを踏むアリンドさんに対して、明日香さんが【サイハンド】の力を込めた張り手を打ち込む。本来なら絶対的な物質干渉力の差がある筈だが、根源たる恐怖の脅威により、アリンドさんは自ら後退った。

 

 そこで我に返った彼は改めて剣を振り下ろそうとするが、明日香さんは«テレポート»で後方へ大きく距離を取る。勇者の一撃は虚しく空を切った。

 

「……二度目の《SANチェック》は無いんだな?」

 

「《SANチェック》は二度打ちできませんわ♥恐怖に慣れた探索者についての規定がありますもの♥」

 

 同種の現象に対する《SANチェック》は繰り返さない。これは思いを力に変える〈魂の言葉(ソウルワード)〉を最大限に発揮させるための原則であり、恐怖の鮮度を損なわないためのテクニックでもある。

 

 さらなる恐怖が訪れることがない、そう()()()()アリンドさんはその場に留まりスキルを発動させる。

 

「【レジェンドヴァリアント:ギガントスタンプ】」

 

 その言葉と同時に、アリンドさんの剣は一瞬で巨大化する。全長10mを超える大剣が現れ、彼はそれを横薙ぎに振るった。

 

【ギガントスタンプ】

[アクティブ][近接][攻撃][物理]

消費MP:12 詠唱時間:2.5s 再詠唱時間:30s 効果時間:5s

効果:[武器]の[攻撃判定]を[増加]させる。[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。

 

「間合いの勝負になりそうだからなっ!」

 

 剣から『全能』の衝撃が放たれ、広範囲へ絶大な暴威を振るう。めりぃさんはまだ戻らない。ならばここを受けるのは――。

 

「〚エデン〛っ!」

 

 おもむろに灑智が前線へと躍り出て、ほんの一瞬だけ〈魔導〉の障壁を展開させる。ただそれだけで絶大なる暴威は凪のように消滅した。

 

「ワンセンテンスさえあれば、今の私にも〈魔導〉が使えますよっ!」

 

 そして【ストレージ】から取り出した槍を全力で投擲する。常識ではあり得ない回転フォームから放たれた槍は光の速度を超えて突き進み、アリンドさんの心臓を掠めて貫いた。

 

「流石だな!だが――」

 

 彼を突き抜けた槍は大きく旋回し、ブーメランのように帰ってくる。最初は灑智がそのように仕込んだのだと思ったが――。

 

「身体を掠めた時に『全能』でコントロールを奪ったんですね」

 

 指を鳴らすだけで嵐を呼び起こす『全能』の力だが、実際には起点となる事象はなんでも構わない。足を踏み鳴らしてもいいし、瞬きでもいい。つまり、アリンドさんは槍への当たり方を調節することで命中後の挙動を制御したんだ。

 

「【勇者】である俺にはかすり傷で済んだが――お前はどうだ?」

 

 灑智の放った光を超えた速度にさらに出力を上乗せした槍は目にも止まらぬ速さで贈り主の下へと帰還する。

 

「ガードジャス――」

 

 防御スキルを発動する間もなく灑智は貫かれ、HPは『1』にまで減少する。猫姫さんの作った料理の効果で全損は免れたが、槍の勢いは止まらない。続けてその後方にいる明日香さんを目掛けて突き進む。

 

「あら、【サイキック】に投擲をぶつけるなんて、ナンセンスですわよ♥」

 

 槍は瞬時に動きを止め、その場でくるりと方角を反転させる。物理エネルギーの暴力は確かに強力だが、スキルを使えばなんてことはない。

 

【キネシス】

[アクティブ][アイテム][補助]

効果:[アイテム]を[任意]に[移動]させる。

 

「あんたはゲームのスキルについては疎い方だと思っていたんだがな」

 

「おねえさまに追いつく為に、勉強は欠かせませんもの♥」

 

「えっ、今の槍ってそんな簡単に防げる奴なんですかっ!?」

 

 余談だが、灑智もまた彼女と同様に【サイキック】であり【キネシス】を習得している。

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