卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「ク、クク……クハハハハハ! 証明してみせると来たか! 不可能の命題を覆すと来たか!」
先ほどの婉曲的な表現はなんだったのか。ボクの宣言に対して、きっぱりと
「おねえさまならできますわ♥ だって、おねえさまですから」
「それは『トートロジー』って奴ですよ明日香さん……」
絶対的な信頼を寄せてくれることはありがたいけれど、実際にボク自身が
ボクは運営、あるいはこいつの思惑に乗ってあらゆるプレイヤーを焚きつけただけだ。
いわば、ボクは
ボク自身にもいまだ見えていない、空想上の可能性だけを提起した最悪の扇動家。
でも、ボクは謝らないし、むしろ悪いことなどしていないと開き直る。そして多くのプレイヤーも、全部承知の上で煽られてくれるだろう。
なにせ――ゲームというのは、壁が高いほど達成感も大きいのだから!
それにせっかくこいつがわざわざ
むしろ、プレイする動機が増えたくらいだよね?
「まあ、今回はボクの勝ちということで。いつでも挑戦しに来てくれていいんですよ」
「わざわざそんなことをせずとも機会は設けられる。その日を楽しみにしておくんだなァ。あっ、そうそう。俺に勝った褒美だ。ついでに1つ情報をやろう」
「ほう。なんですか?」
「【加護】とは【
そう言うと男は一瞬にして視界から消え去る。あたりを見渡しても姿はない。
最初は【『クロノス』】による時間停止を使った移動だと思っていたのだけど、それならばボクたちは止まった時間を観測できるはず。なにか別のカラクリがあるようだ。
それにしても――ああ見えて、あの人は悪い奴ではなかったようだ。確かに最初はむかついた。こいつがこのゲームの元凶なんだ、死ねハゲクソボケと思った。
しかし、会話を続けていくうちに別の視点も見えてきた。確かに彼は金の暴力でプレイヤーを圧殺する課金厨に違いはないが、同時に別の目的があることも読み取れる。
それは悪役としてのロールプレイ、あるいは破滅願望主義といったところでしょうか。彼は
この最悪のゲームに一般プレイヤーをつなぎ止めるための行動だったのは間違いない。けれど、プレイヤーを引き止めたかった真の理由、それは
彼は望んでいる。一般プレイヤーが課金プレイヤーに勝利するその瞬間を。
あるいは、それでも魔王が勝利してしまうこともあるかもしれないけど――それもまた、悪役ロールの結末としては正しいのでしょう。
「だとしてもゲームサーバー全体を止めるスキルは致命的に迷惑ですよね。他のところでも止まっていたんですか?」
「今、めりぃさんから返信が来ましたわ♥ 向こうでも止まっていたらしいです♥」
掲示板ウィンドウがポップアップし、ホログラム文字が宙に浮かぶ――
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>プレイ中だが、こっちも止められた。あんなん連発されたらゲームが成立しないぞ
>偶然敵から攻撃される直前に止まったおかげで動き出した直後に対応できたわ。サンキュー課金
>こっちは止まってない。チャンネルが違うのか?
>↑卍さんは配信許可チャンネルで活動してるらしいぞ
>今日まで一度も止まったことなかったよな。もしかしてプレイヤーに配慮していた……?
>↑プレイヤーに配慮して自重してくれる良心的課金厨。やっぱ神だわ
>こんなゲームに1億円課金するってマジ??
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「なるほど、違う
オンラインゲームでは1つの場所に多くのプレイヤーが訪れるとモンスターが枯渇してしまい、プレイに支障をきたしたり、エリア全体が重くなったりすることがある。
乱暴に言えば、寸分の狂いもなく同じ構成のマップがいくつも用意されていて、場の混雑状況などに応じてプレイヤーはそのマップ間を移動できる。
つまり、時間を停止したとしても、その迷惑を被るのは全体から見ればわずかだということだ。
被害範囲だけ見ればごくわずかだ。とはいえ、常識的に考えれば頭のおかしい仕様だ。
「他の【
「少なくとも判明しているもう1つは迷惑がかかるような能力ではなさそうですが♥」
「ああ、【『アイテール』】ですね」
空を自在に駆けることができる【
「しかし、ボクたちはその【
本来ならば【
これはボクたちが持つ、【
しかし【『アイテール』】に関してはそれでいいとして、問題は【
極論すれば、ボクたちが使えるテクニックは、相手もすべて使える。
努力とテクニックによって相手を上回れば【
これに対抗するには、誰にでも使えるテクニックだけでは足りない。擬似的であっても、自分だけの力が必要になるんだ。
〈
まあ、それは【
「そうそう、おねえさま♥ もしかして先ほど、〈
「ああ、《運命変転》のことですね。あれは明日香さんのものとは違って、簡単な自己暗示程度の効果しかありませんよ」
「自己暗示?」
「そう、やる気がない、負ける、つらい。そんな感情を捨て、ポジティブシンキングへと逆転させる――ただ、それだけです」
心臓を握られたような圧迫感が、逆に闘志へと転じていく。
ただそれだけの暗示が、このゲームではいちばん強い。
自分の勝利を信じられない者に勝利は与えられない。〈
『
【
持っているだけで精神的な優位を得られるからだ。
勝利の確信、敗北の言い訳。これらの感情へとつながる絶対的な説得力を持つがゆえに最強だ。
前言を翻すようだけど、その優位性をはねのける絶対的な自信と、それを支える説得力さえあれば、特別な力なんて必要がないのだろう。
「……そろそろ帰りましょうか。図らずとも目標は達成しましたし」
「そうですわね♥ 次は他の【加護】を探しちゃいます?」
「ふふ、いいですね! 奴らの悔しがる顔が目に浮かぶようですよ! みなさんも、【加護】を探してみてくださいね!」
そして、翌日。驚くほどあっけなく視聴者さんから【加護】の発見が報告された。
ネガティブをポジティブに変換する。絶望を希望に変える、そんなただの自己暗示。ただそれだけの行為に、値千金の価値がある。