卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
ユーキさんに会いに行くことを決めたボク達だが、どこにいるのかなんて情報は持ち合わせていない。なので、ひとまずいつもの公園へ向かうことになった。ボクがユーキさんに初めて会い、その後も度々やり取りを交わした『ARスポット』だ。
ゲームからログアウトし、『テレポーター』を使用していつもの公園へと向かう。
「みんな、考えることは同じというわけですか」
そうして訪れた公園の光景を前にしてぽつりと呟く。恐ろしいまでに混み合っている。以前はボールで遊ぶ人やベンチでゆったり会話する人がいて、のどかなスペースだったのだけど……。
まるで何かのイベントでも始まるのかというくらいに人が集まっている。念のためにとネットで情報を検索してみたが、特にイベントが始まるという情報もない。けれど用事もないのにたまたま集まっているというわけもなく、おそらくはユーキさんを探しているのだろう。
「混み合ってはいますが、疎らでもありますね。見渡す限りでは特定の場所にユーザーが集まっている様子がない。ユーキさんはいないのでしょう」
「残念なのです。メールにも返事がなくてこの場所にもいないなら、コンタクトを取る手段はないのです」
ユーキさんの知り合いと思われる人たちに連絡を取る手もありますが、ここにいないということは会いたくないということかもしれませんしね……悩ましいです。
「ようやく来たのか、荒罹崇ならもっと早く来ると思っていたのだが」
そう後ろから呼びかけられて振り向くと、そこには白銀の鎧に身を包んだ男がいた。ゲームの中でもないのに、随分とふぁんたじーなアバターを使っているらしい。
「ゆうたさんですか!あなたもユーキさんに会いに?」
「ユーキに会いに、というよりは……荒罹崇を待っていたんだがな」
え、ボクを待っていた?なんでしょう。でーとのお誘いとかでしょうか。お相手がゆうたさんなら吝かでもないのですが、ボクはみんなの荒罹崇でもありますからね。
「ユーキの居場所を知っている。今から会いに行くぞ」
ゆうたさんに連れられて、ボク達は『テレポーター』を経由して、遠く離れた田舎町にやって来た。田舎町というより、廃墟と呼ぶほうが相応しいか。前時代的な木製の建物が打ち捨てられており、人の気配はまるでない。
「ここにユーキさんがいるのです?」
「あぁ、俺も詳しくは知らないのだが……この建物の地下にいるらしい」
道すがら、ゆうたさんから事情を聞いた。どうやらユーキさんからコンタクトがあったらしく、ボクがあの公園に来たら連れてきてほしいと頼まれたのだとか。
だったら直接ボクに連絡してほしいとも思ったのだけど……自分から様子を見に来るようでないとダメだと思ったのでしょう。
「さて、この辺りの床に隠し通路があるはずだが……」
「ここなのです。《『第六感』》ですぐにわかったのです!」
寂れた部屋の中に入り、中央を見ると、確かに違和感がある。床の切れ目は緻密に隠されており、五感では観測することができないようだが……何かがある。
「無理やり破壊すれば通れそうですが、スマートじゃないですね。開閉スイッチを探しましょう」
辺りを見渡すと、部屋の奥の方に本棚があった。数冊の本が入っているだけで、収納スペースのほとんどが空いている。
「ゲームなら本を抜くか入れるかで隠し扉が現れるのが定番ですが……」
〈ロールプレイング〉でユーキさんの思考を再現し、どのような仕掛けがあるかを考える。彼女はゲーム的な仕掛けが好きだろうし、その上で斜めに捻ってくる。答えはすぐに出た。
「うーん、なんだろうなのです。やっぱりこの本棚が関係していると思うけど……すかすかなのです」
「こういう仕掛けでは、ぎっしりと本が詰まっているものだからな……。いや、そうか」
ボクが動こうと思ったその時、ゆうたさんがおもむろに本棚へと近づく。そして一冊の本を手に取ると――全能の力で複製した。
複製を繰り返しながら、次々と本棚に本を収めていく。棚が本で埋まったところで、床が動き始めた。
「さすがですね、ゆうたさん。どうしてわかったんですか?」
「この本棚を見れば誰もが本の数に着目する。だからこそ仕掛けの軸もそこにあると思ってな」
床の移動によって部屋の中央には階段が現れた。ボク達はゆっくりと慎重に降りていく。他にもなにか仕掛けがあるかもしれませんからね。
階段を降りた先には、黒色の『透過ドア』があった。特定の条件を満たした物体だけが通れる扉だ。招待された身であるボク達はなんの問題もなく通行できるだろう。
まず最初にゆうたさんがくぐり抜け、次にボクが通る。最後にメグさんが通ろうとして少しだけ突っ掛かったようだけど、承認が下りたのか、すぐに通れるようになった。
扉の先には体育館くらいの広さのだだっ広い空間があった。そしてその巨大な空間には所狭しと様々な機材が置かれており、その様相からは『研究室』という印象を受ける。
そしてごちゃごちゃした機材に紛れるように、蒼い髪の少女の姿が目に映る。間違いない、ユーキさんだ。