卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第387話 関数

 ボク達がユーキさんを視認したのと同時に、彼女はゆっくりと振り返る。

 

「荒罹崇さんにゆうたさん、それからメグさんでしたか。ようこそ、私のお城に」

 

 ユーキさんが挨拶をすると、物陰からひょっこりと女性が顔を出す。

 

「"作者"さんもいらっしゃるんですね」

 

「こんにちは、卍さん。ユーキちゃんに誘われてね、この場所に住まわせてもらってるの。いつも応援してるよー。楽しませてもらってるし」

 

 "作者"さんは発展しきった未来の果てで、退屈という病に侵されてしまったお人だ。新しくなったこの世界で彼女を楽しませられているのなら光栄な話だ。迷惑もかけられたけど、ボク達にとっては創造主みたいな方ですしね。

 

「早速だが、本題を話してくれ。また世界の危機でも訪れたのか?さらなる上位次元からの侵略でも――」

 

 ゆうたさんはユーキさんに状況の説明を促す。

 

「世界の危機というわけではありませんね。強いていうなら――【フォッダー】の危機というべきでしょうか」

 

「【フォッダー】の危機、なのです?」

 

「それは一大事ですね……!」

 

 【フォッダー】で起きたこれまでの事件はそのすべてが彼女の手のひらの上だった。AIが暴走した事も、『異形』がログインしてきた事も、それこそ世界の危機ですら彼女の想定内だった。

 

 そもそも、あらゆる事象を『仕様です』で片付ける【フォッダー】は、多少の危機では揺るがないはずだ。それこそアカウントのハックでもされない限りは外部ツールでさえも許容するだろう。

 

 そんな【フォッダー】に迫る危機とは一体……。

 

「【フォッダー】のサーバーが攻撃されているんです。強制的に回線を切らないと乗っ取られそうな勢いだったので、容易に復旧もできません」

 

「サーバー攻撃、ですか?」

 

 それこそピンと来ない話だった。ユーキさんは腐っても世界最高峰の能力を持つAIだ。彼女の作り出した世界に乗っ取られるような脆弱性があるとは思っていなかった。いや、ゲーム中に存在する数々の『仕様』を踏まえれば、脆弱性くらいはあって当然と考える事もできるけど……。

 

 ユーキさんはどんよりとした表情で俯く。それに対して、ゆうたさんはさらに質問を投げかける。

 

「技術的に敵が上回っているという事か?」

 

「そうかもしれませんね。存在しない筈の脆弱性で扉を破っている。仮定と結果が一致しない。入力からは考えられないような出力が返ってくる。これは――」

 

「〈魔導〉、ですか」

 

「あるいは『異形』の特殊能力かも知れませんね。『異形』のことなら、それを作り出した"作者"さんが詳しいのでお聞きしたのですが……」

 

「『ウォッチドッグ』ならあり得るかなって言ったんだけどね。電脳空間の時間を操作する『異形』だよ。本来なら返される筈のエラー出力を止める事で、通常の動作では生じない筈の脆弱性を作り出すの」

 

「ただ、『ウォッチドッグ』は私にとっては既知の『異形』です。当然ながらそれを想定した上でコーディングしています。関わっているとしても、他の要素と組み合わせているのでしょう」

 

「『ウォッチドッグ』……そんな『異形』がいるんですね」

 

「他に『異形』の候補がないのなら、後は〈魔導〉だな。荒罹崇の妹が詳しいのではないか?」

 

「確かに灑智はなぜかやたらと詳しいですけど……ユーキさんと比べてどうなんですか?」

 

 なんで詳しいのかは全く知らない。【フォッダー】に関わるまでは普通の美少女だと思っていたのに。とはいえ詳しいのは間違いないけど、専門家のユーキさんと比べるとどうなんでしょう?

 

「あの御方から助力を得られるのであれば、お願いしたいですね。知り合いにも詳しい人はいますが、彼女はそれを遥かに越えていますよ」

 

 ……なんでそんなに凄いんですか?疑問符付きの感情表現(エモート)を浮かべて首をひねっていると、ユーキさんが補足してくれる。

 

「本人に聞いたわけではないですが……。恐らく彼女は〈魔導〉の『関数』、その中身を覗くことができるのでしょうね」

 

「〈魔導〉の『関数』……なるほどな」

 

「どういう事なのです?」

 

「一説によると、〈魔導〉は偶然性によって生まれた魔力を引数とする『関数』だという仮説があるんだ。俺達は魔力をその『関数』に渡しているだけだが、現行の技術では観測できない領域で変換処理が行われ、返り値として〈魔導〉の結果が生じる」

 

「つまり灑智は人類にとってブラックボックスである変換の過程を覗くことができる、と。後で本人に聞いてみようかな?」

 

「どうしてそんなことが出来るのかはわかりませんけどね。彼女ならあるいは【フォッダー】をハッキングする事も可能かもしれない、そんなお人です」

 

「そんな事をするような性格じゃありませんけどね。いや、ボクにいたずらをするためとかならあり得るかも?」

 

 そんな感じで情報を共有してもらっていると、"作者"さんが呟く。

 

「〈魔導〉かー。私達が現役の時に見つけたかったな。そうしたら、世界が楽しくなったかも知れないのに」

 

「"作者"さんが楽しみを見つけていたら、ボク達は生まれてなかったかもしれないですからね。ちょっぴり複雑な話です」

 

 とりあえず灑智に情報を共有するということで合意は取れた。『オグメレンズ』から灑智に通話をかけてみる。すると1コールで灑智が応答してきた。

 

「もしもし、灑智?今時間ってあります?ちょっと聞きたいことが――」

 

「すいません。異世界からの侵略者を処理してて、あまり手が離せなさそうです!ごめんなさいっ」

 

 一体なんの話????

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