卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第389話 あの人

 画面の中で千日手を続ける灑智を凝視しながら、ボクは呟く。

 

「【フォッダー】を縛られることがこんなに厳しいことだとは思いませんでした」

 

「【OA-YS】を遊んでいた時も戦いづらかったのです。それでも今まではゲームの中で戦っていたけれど――今回の敵はゲームの外にいる。私なんかじゃお力になれないかもです……」

 

 どんよりとした空気が立ち込める。だが、その淀みを切り裂くようにのんびりした声が響いた。

 

「いやいや、そんなに困る事?私だって下位の次元から簡単に下剋上されちゃったんだけどな?」

 

「でも【モーションアシスト】がなければ……」

 

「いや、【モーションアシスト】がなくても簡単な全能くらいは使えるだろう?そこの"作者"をやり込めた時のことを思い出してみろ。相手は明らかにこの世界を観測している。その観測手段を用いれば、逆に干渉を掛けることができるはずだ。無論、相手がその対策を怠っている場合に限られるがな」

 

「なるほど!」

 

 そもそもかつての仮想世界からこの世界に来た時も、《『位階上昇(アセンション)』》だけで突破したわけではありませんでしたね。モニター越しに光や音を流し込み、全能を引き起こすことで最後の障壁は打ち破られた。

 

「とはいえアシスト無しで上位の次元に全能を適用させるのは難しいのです。あれはその場の状態に応じて複雑な計算が必要なのです」

 

 メグさんが疑問符の感情表現(エモート)を浮かべながら疑問を呈する。蝶の羽ばたきが巡り巡って大嵐を呼び込むとしても、それはさまざまな要因が重なって生まれる偶然の事象だ。その偶然を必然にするには、正確に周囲の環境を認識した上で計算し、羽ばたく必要がある。

 

 それにあの機械を倒したところで侵略者の攻撃は止まらない。対策も簡単だ。機械が観測した情報を認識する前にノイズを流し込んでおけば、緻密な計算はすぐに破綻する。

 

「【モーションアシスト】を限定的にでも起動する方法は無いんですか?」

 

「今の私の技術力ではアシストの適用に莫大な魔力が必要になります。灑智さんなら運用できるかもしれませんが、まずはあの機械を引き剥がしてこちらに来てもらわないと……」

 

 やはりそうですよね。となれば、対策されることを前提に灑智と戦っている機械を全能で引き剥がし、この場所へ〚テレポート〛で来てもらうしか――。

 

 そう考えたところで、思考の片隅に違和感が引っ掛かる。《『直感』》とは少し違う。純粋に何か情報を見落としているような……。

 

 成功の確証はないけれど、まだ試しておらず、考慮にも入れていなかった勝ち筋がいくつか残っている。

 

『ユーキさん!見ているんでしょう?そろそろ〚ノア・イース〛の発動も選択肢に入れますっ!』

 

 灑智が虚空に向かってそう叫ぶ。〚ノア・イース〛……。世界の全てを支配し、全ての〈魔導〉を封じる究極の〈魔導〉だ。

 

 その性質上、発動と同時に世界の全ては魔力の水で覆われる。その水の中でも生物は問題なく活動を続けられるはずだが――代償として世界のあらゆる場所で〈魔導〉が封殺される。『魔力自動車』も『テレポーター』も『インターネット』も、その全てが停止する。

 

「世界中で大きな被害が起きるでしょうね……。さすがに私の一存で決めるわけには」

 

「でも、灑智さんが苦しそうなのです!なんでなのです?攻撃は受けてないのに……」

 

「……〚ノア・イース〛を起動するための魔力がもうすぐ不足するのだろう。世界の全てを水で満たすなど、並大抵の魔力ではできない。『ラプラスの悪魔』としての力を行使するつもりなら、地球だけを覆うのでは済まないはずだ」

 

 いや、〚ノア・イース〛を切る前に――まだ試せることはある。

 

「そうだ、あの人をお呼びしましょう!」

 

「あの人?」

 

 ボクは『あの人』の思考を〈ロールプレイング〉で再現し、その行動パターンから現在位置を割り出し、〚テレポート〛でこの場に呼び出した。

 

《なんだなんだ?……げっ、荒罹崇……さん》

 

「なんだとは失礼ですね。とがみんならともかく、ボクはあなたに嫌われるような事はしていませんよ?」

 

「危険な『異形』さんをこの秘密基地に無断で招待しないで欲しいんですけど……」

 

 ユーキさんがボクの軽率な行動を嗜めるが、緊急事態なんだから仕方ない。「まぁ、良いですけどね」と最後には納得したような表情を見せた。

 

 呼び出したのはアクタニアさんだ。言葉によって他者を変質させる特殊な能力を持つ『異形』の人だ。同じようなことができるぷにりんさんでも良かったけど、強引に呼び付けるなら彼のほうが後腐れがないからね。

 

「なるほどなのです。アクタニアの力で私達を〈進化(エボルド)〉させる、あるいは――」

 

「現地で戦っている機械を能力で仕留めるか、だな。後者については難しそうだが」

 

 機械と呼称している通り、灑智と戦っている正体不明の存在には自意識がない。アクタニアの力は意志の力による自己変化を促進する能力だから、無機物には効果がないのだ。

 

《なんだかわからないが……《『説明していただけますか?』》》

 

「良いでしょう。ですが時間がないのでイメージをあなたに転写しますね」

 

《なんだか怖いからそれはやめてくれ!?》

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