卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
目標を見定めたボク達は公園を出て、工場へと向かう。ひび割れたアスファルトを踏みしめながら、ボクは考える。
恐らくはこの世界の支配階級である上位次元の存在にとって、インフラの整備は意味をなさないのだろう。このぼろぼろの道路を使うのは、己の肉体を持つ下位次元の存在だけだ。
そんな高尚な存在であれば下位次元の存在になど目もくれず勝手に過ごしていればいいのだが、そうは問屋が降ろさないらしい。
道路を改めて観察すると、かつては我々の世界で言う自動車のような物体がこの道を走行していたのだろうと、損傷の大きな偏りから読み取れる。
しかしそんな景色も今や遠い昔といったところだろうか。
思考を巡らせながらも辺りを警戒しつつ慎重に歩みを進め、やがて工場の入り口に辿り着いた。その道中に人の気配はなく、やはり工場の中に人が集中している事が読み取れる。
「この辺りの建物は人が住んでいませんね。この工場の中で寝泊まりしているようです」
今にも崩れそうなぼろぼろの家に比べれば、この工場はまだまともだ。大地震が起きればわからないが、少なくとも自然倒壊は起こらないように見える。壁にも比較的新しい塗装が施されていて、整備された施設という印象だ。
入口には巨大なシャッターが設置されており、その横には従業員用の出入り口として黒い扉があった。扉の高さは150cmといったところか。ここで暮らしている人々にとってはちょうどいい高さなのだろうか。
「さて、ここまでやってきたが……どうする。怪しまれるのでは無いか?」
「そこは臨機応変に立ち回っていきましょう」
ボクは扉に手を掛けてノブを回す。どうやら内開きのようで、鍵も掛かっていない。ギギギと嫌な異音を立てながらもゆっくりと扉を開けたその先には、清潔感のある受付があった。
「おかえりなさ……あの、どちら様ですか?」
窓口に立っていた女性がボクらに誰何する。身長は165cm。早くも扉の構造に適合しない体格の人が現れた。
ボクが〈ロールプレイング〉で彼女の思考を読み取ろうとしていると、それよりも早く"作者"さんが口を開く。
「私達は異世界から観光に来たんだよ」
「ちょっと、"作者"さん!?」
「話を合わせても時間がかかるだけでしょ。極端な話、彼女の持つ情報は卍さんが〈ロールプレイング〉で引き出せるんだし、それよりも建設的な話をした方が良くないかな?」
まあ、そうなんですけどね。会話で情報を引き出さずとも、ボクは視界に入れた時点で相手の情報をすべて引き抜ける。
それに彼女らの思考パターン的には、上位次元の存在に密告されるといった可能性も低そうだ。"作者"さんも〈ロールプレイング〉でそう判断したのだろう。
「異世界から観光ですか!……つまり攫われた訳では無いのですね?」
「なるほど、この建物の構造に相応しくない体格だと思っていたが……」
「ちょっとゆうたさん、セクハラですよ。いや、異世界の方にもこの感覚があるのかはわかりませんが」
改めて彼女の姿を見ると、機能的にはボク達とほぼ変わらない構造である事が読み取れる。強いて言うなら、耳が尖っているくらいだろうか。優しい風のような魔力が周囲に滲み、その特性を象徴する緑色の髪がうっすらと光を放っている。
「あの、もしよければ私を……。みなさんをここから連れ出していただけませんか?」
「あなた達は攫われた側という事なのです?」
「私はそうです。中で作業されている方々も、半分くらいは別の世界から攫われてきました。みんな過酷な労働を強要されて……頭が破裂してしまった人も居るくらいです」
「頭が破裂……いったいどんな労働なのです!?」
「……私は受付を任されているのですが、今なら問題なさそうですね。みなさんにご案内差し上げたいのですが、よろしいですか?」
「構いませんよね?」
「あぁ。移住が許されるかは国家――世界間の問題になるかもしれないが、情報を得ておくべきだろう」
「異議なしなのです」
という事でボク達は女性に工場内を案内してもらう事になった。
受付の横にある通路を抜けて、女性がゆっくりと扉を開く。
扉の先には――カプセルホテルがあった。
人がちょうど寝られるくらいの小さなスペースが大量に並び、その中で寝転がったまま手元の作業を続けている様子がうかがえる。
「異様な光景だね。そして一般的に想定される過酷な労働のイメージとは違いそうだ」
その光景を前にして"作者"さんが多少上ずった声で感想を述べる。不謹慎な話だが、彼女にとっては完全に未知の感覚であり、『面白い』のだと思う。面白さは彼女にとって死活問題でもあるため、わざわざ窘めようとは思わない。
「手元にあるのはコンピュータか。何を作っているんだ?」
「あの部屋……。作業者の魔力が吸い上げられているようです。大気の魔力が薄いのはこのせいでしたか」
カプセルの中には灯りがついているが、《『心眼』》で見るに、どうやら魔力で動いている。コンピュータもそうだ。自分のカプセルの事は自分で賄い、それでも余った魔力はさらに吸い上げられ、魔力バッテリーへとプールされていく。
「灑智。あの人達って――」
「はい、明らかに魔力の生成量が多い人が優先的に配置されています。一般的な魔力量であれば部屋の中にある設備を維持するのにも足りないはずです。もちろん、異世界の人は魔力量が多いという傾向もあるのかもしれませんが――私の知る別の異世界には、特段にそういった傾向はありませんでしたね」
先の襲撃についても動機が見えてきた。上位次元に達しようとする存在を排除したかったというのも間違ってはいないが……それとは別に、灑智の魔力を狙う目的もあったんだ。
灑智が居れば、わざわざ自給自足できる魔力の持ち主を集める必要なんて無い。手当たり次第にかき集め、コンピュータ作業に従事させられる。
では肝心の話として、そうまでして集めた作業者に何を作らせているのだろう?
そう改めて疑問に思った矢先、女性が説明してくれた。
「彼らは――『娯楽』を生成しています」