卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第395話 神作家になろう

「娯楽を生成してる……。なるほどね、支配者サマは私と同じ立場なわけだ」

 

 "作者"さんが納得したといった様子でうんうんと頷く。彼女は退屈という病に侵され、暇つぶしのためにボクらの世界を作ったお人だ。感じ入るものがあったのだろう。

 

「まぁそれにしては――この世界の技術は終着点にも達していないけどね。〈魔導〉という技術を知らなかった私が言うのもなんだけど、暇を潰せそうなことはいくらでもあると思うけど」

 

「科学技術の発展はあくまで肉体の存在する物理の世界の領分であり、上位次元の存在はそこにさしたる意味を持たないのでしょう」

 

 もっとも……物理の世界に法則があるのと同様に、上位次元の領域にも一定の法則が存在するとは思うのだけど。

 

「みなさまの言うことは断片的にしか理解できませんでしたが……。そう、指導者様方は私達に持て余した暇を潰すための娯楽を求めているのです」

 

 そう告げながら、女性は部屋の片隅に置かれていたタブレットを手に取る。そしていくつかの創作物を表示してみせてくれた。

 

「『転生したら、神でした〜上位次元を統べる万象の王として三千世界を革命します〜』『今世から追放された私はユニークスキル【超進化】であらゆる生命を超えてしまいました。万物が土下座してきますがもう遅いです』……か。ジャンルにも偏りがあるな」

 

「神とか上位次元とかがテーマに指定されてるのです?素人目に見ても書きづらそうなのです」

 

「はい、みなさん血反吐を吐きながらアイディアを絞り出しています。全ては『神作家になろうコンテスト』のために……」

 

「『神作家になろうコンテスト』?」

 

「はい。そのコンテストで優秀な成績を収めると、今の劣悪な環境から解放され、快適な空間での執筆が可能になったり、あるいは特別な業務を任せられるのです。かくいう私もそのコンテストで最高ダイヤモンド賞を獲得して、受付の業務を任せられています」

 

「ちなみに、どんなタイトルの話で優秀賞を獲得したんですか?」

 

「『上位次元を統べる絶対神をパシリにしてみたw』です」

 

「な、なるほど。絶対神をパシリにするほどの存在とは何者なのか、興味を惹かれるタイトルですね……?」

 

「娯楽のジャンルについての話はもう良いだろう。それよりも、上位次元の指導者そのものについて聞きたい。何か能力のようなものがあるのか?どうやって下位次元の存在に過酷な労働を強要している?」

 

 確かに、娯楽のジャンルについての話は脱線しすぎでしたね。ゆうたさんの軌道修正に乗って話を戻そう。

 

 ゆうたさんが尋ねると、女性は恐る恐る話を始める。

 

「……万物を捻じ曲げられます」

 

「……いわゆる、『全能』という奴ですか」

 

「次の瞬間にはこの工場が消えてなくなってしまうかもしれない。そんな恐怖によって支配しています。彼らは爆発や炎上という原因の果てに結果を導き出すのではなく、存在を、因果を、そのまま消滅させることができる。彼らは世界を思うがままに改竄できるのです」

 

「そんな力があるとしたら、ボクらの『全能』は児戯に等しいですね」

 

 だが、ボクらの世界に攻めてきた侵略者はそんな恐るべき力を使っていなかった。その理由があるとしたら――。ボクは灑智を襲った機械を作った開発者の思考を改めて再現する。この世界についての情報を得た今のボクなら、さらに深く潜れる。表層の思考だけではなく、知識の領域へ……。

 

「灑智。無尽蔵の魔力があれば、同じことができそうですか?」

 

「私であれば、行使できます。既存の〈魔導〉に該当する能力はありませんが、私は新たな〈魔導〉を作れますので」

 

「決まりですね。お相手の能力、その源は〈魔導〉にあります。【フォッダー】についても、新規の〈魔導〉でハッキングしているのでしょう」

 

「つまり相手は灑智と同等レベルの存在ということか?」

 

 ゆうたさんの疑問にボクは首を振る。

 

「いえ、恐らくは魔力が足りていないのでしょう。人的リソースで溜め込まれた膨大な魔力を利用し、現象を引き起こしている。他所の世界に攻め込む時には、保有できる魔力量にも限界があるようです」

 

「根拠は〈ロールプレイング〉?凄いね、情報を導き出す能力ではトップクラスだよ。ただ、確証を得ないとね」

 

 "作者"さんの言う通りだ。〈ロールプレイング〉は、あくまでボクが得られた情報をもとに対象の思考を再現し、解を導き出す技術だ。ボクの再現に狂いがあれば、間違った解に達してしまう。

 

「確かここの施設ではカプセルホテルの運営で余った魔力はバッテリーにチャージされるのでしたよね?そのバッテリーは……」

 

「えっと……。この工場で必要な分以外は全て指導者様が持ち帰ってしまいます」

 

「ここ以外にも工場があるのです?」

 

「はい。他の工場のことは存じ上げないのですが、万を越える数の工場が存在していると聞きました」

 

「どうかな、灑智?それなら足りそう?」

 

「そうですね……それらの工場がこの工場と同規模だと仮定した場合……。収容されている人たちが平均的な魔力量であれば、不足するでしょう。しかしこの工場を見るに、間違いなく上澄みレベルの実力者が厳選されているはずです」

 

「その場合は潤沢な魔力が溜まっていてもおかしくないってことですね」

 

「それならその魔力を横取りしちゃえば勝てちゃうんじゃない?」

 

 とはいえそれは完全な軍事的行為だ。【フォッダー】のサービス提供を妨害された恨みはあれど、一般人であるボク達の判断で実行するべきではない。

 

「まずはユーキさんに報告しましょうか。そうすれば彼女が上に投げてくれるかもしれません」

 

「あの、私たちのことも……」

 

「報告はしておく。恐らくユーキなら放っておかないだろう」

 

「じゃあ、戻るのです?」

 

「えー?戻るのー?私はもうちょっと観光してみたいな」

 

「危険もありますからね。"作者"さんは上位次元の人に襲われたら対処できます?できないでしょ?」

 

「卍さんが一緒にいてくれたら平気だもーん」

 

 ボクがいても対処できる自信が無いから言ってるんですけど……。そうは思ったものの、可能な限り"作者"さんのわがままは叶えてあげたいのも確かだ。

 

「それではお姉様は残られますか?私は……ごめんなさい、あまり長くいると魔力を探知されかねないので……」

 

「うん、じゃあみんなを連れて戻ってもらえる?ボクは"作者"さんと自分、二人分の〚テレポート〛なら賄えるから」

 

 灑智に他のみんなのことを任せると、彼女はゆっくりとボクの前へ近づいてくる。そして腕を開き、ぎゅっとボクを抱きしめた。

 

「な、なんですか?突然の甘えたさんですか!?……いや、これは……」

 

「私の余剰魔力を少し分けました。恐らく〚エデン〛を120秒くらい展開できると思います。〚テレポート〛にも使えるはずなので、危険があったらすぐに戻ってください」

 

「わかりました!これだけの助力があれば百人力ですよ!」

 

「俺も残るべきかとも考えたが……報告と準備が先決だな」

 

「卍さん、気をつけてくださいなのです!」

 

「大丈夫ですよ、ただの観光なんで。ちょっと見て回ったらすぐに戻ります」

 

 そして灑智達は〚テレポート〛によって元の世界へと戻っていく。

 

 転移が発動する直前に、ゆうたさんが口を開いた。

 

「何かあったら俺を呼べ。すぐに駆けつける」

 

 そう言い残し、この世界から消失する。言葉を返す隙もなかった。まるで言い逃げだ。

 

「ふふっ、なんですかそれ。アニメかなんかのセリフですか?」

 

「そんなに心配しなくてもいいのにね。ただの観光だよ」

 

「敵地の、ですけどね。さてっ、どこを見に行きます?」

 

「敵の本拠地!」

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