卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「敵地の、ですけどね。さてっ、どこを見に行きます?」
「敵の本拠地!」
「言うと思いましたよ!ダメダメ!ダメです!危険なことはしません!」
「えー、良いじゃんじゃん。卍さんが守ってくれるし」
「ボク達が来ていることがバレたら大騒ぎですよ。戦争になるかもしれないし……」
「相手だって機械の兵士を既に送ってきてるんだから別に同じようなもんでしょ」
確かにお相手さんは既にこちらへ仕掛けてきているんですけどね。
どれだけ説得しても"作者"さんは折れない。もう前言を撤回して帰っちゃおうか?とも思った途端に「あー退屈で死んじゃいそうだなー」「死んじゃったら卍さんのせいだなー」などとわざとらしく呟き出した。こんな強かな人が死ぬわけないとも思ったが、それでも何も言い返せない。
「わかりましたよ!ちょっとだけですからね?受付さん、上位次元の方がどちらにいらっしゃるかってわかりますか?」
「いえ……。定期的にバッテリーを回収しに来られる以外のことは何も……」
申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる受付の女性。こちらのわがままですから気にしなくていいんですよ。
「それならボク達の世界に機械を送った人がいる座標に行くしかありませんね。あそこは軍事拠点っぽくて嫌なんですけど、仕方ありません」
そしてボク達は受付の女性に感謝してから工場を後にする。工場の外に出て方角を確認すると、とことこと歩みを進めた。
「〚テレポート〛を使うと魔力がもったいないし転移先の状況もわからないので、徒歩で行きましょうね」
「道中の観光もしたいからそれでいいよ。ちなみに徒歩だとどれくらい?」
「3日くらいですね。まぁ飽きたら走ればすぐですから、まったり行きましょう」
光の速度で動ける今の人類にとって、惑星内の距離感は意味を為さない。"作者"さんも《『心眼』》で見る限りではある程度の〈
壊れかけの家が立ち並ぶ住宅街を抜けると、高めのビルが目立ち始める。入り口を見ると自動ドアになっているようだが、恐らく可動はしないだろう。
「どうします?どこかの建物に入ってみます?」
「いや、いいよ。技術レベルはだいたい知れてるし。あの自動ドアも電力で動くタイプでしょ?〈魔導〉の資料があるなら考えたけどね」
今この世界を支配している上位存在は魔力をエネルギーとして活用しているように見える。しかし先ほど訪れた工場を除けば魔力をエネルギーとして活用していた形跡は見られない。
「ボク達の世界とは異なる世界にしては……やけに文化が似ていますよね。確かに技術レベルは違いますが……」
「もしかしたら平行世界なのかもね。技術の土台が出来てから分岐したのかも」
"作者"さんの仮説を聞いて、ボクは周囲の地形に超音波を送り込む。その反射から地形情報を組み立てていくと……。
「なるほど、この地形は……わかりません!」
「あはっ、そりゃそうでしょ。世界地図の地形情報と比較すればわかるかもだけど、今はネットも見れないしね」
ボクのお手上げ宣言に"作者"さんは苦笑する。もっと広い範囲を計測すればわかるかもだけど、あまり手を広げすぎると敵に観測されてしまうかもしれない。
それからしばらく談笑しながら周囲を眺めたが、異世界特有の目新しいものは無さそうだ。やはり観光するなら上位次元の存在が関わっている場所のほうが良さそう。
「じゃ、走りますか。周囲の地形はくずさないでくださいね?」
「それくらいは言われなくてもわかってるよー。心配なら抱っこしてよ」
「心配だから抱っこしますね」
そう言ってボクは"作者"さんをお姫様抱っこの体勢で抱き上げる。
「ちょ、ちょっと!?大丈夫だって言ってるじゃん!」
「わがままなお姫様ですね、遠慮しないで大丈夫ですよ。それじゃあ行きますね」
ボクは地面から軽く宙に浮かぶと、全速力で飛翔する。あまり高い所を飛ぶと見つかってしまうから、地面に沿うように飛ぶ。風切る音すら立てないように〈流水誘導〉で緩やかな通り道を作り、流れに沿って駆け抜ける。
街を越え、山を越え、森を越え、目的地まで一直線に駆け抜け、ようやくたどり着いた。ボクは飛翔をやめてゆっくりと地面に着地する。
「ようやく見えましたね。あれが軍事基地でしょう」
「あー怖かった。それで……あれが基地なの?」
巨大な豆腐のような建物が荒れ果てた荒野にぽつりと佇んでいる。それ以外に周囲には何もなく、不要な建物は撤去されたのだろう。
「一応、光学的には見られないように細工していますが……上位次元の存在が光を観測手段にしているとは思えませんから、注意してください」
周囲の光を明後日の方向へ飛ばして一応は隠密を試みているが、他ならぬボク自身は同じことをされても《『心眼』》で観測できる。
そもそもボク達の世界に攻めてきた機械は視覚では観測できなかったし。普通の観測方法しかなかったら上位次元の存在同士でお互いを視認できないことになってしまう。
「注意してくださいって言っても、私ってば下手っぴだから視覚でしか観測できないしなー。卍さん、任せたよ!」
「本当にお姫様ですね!憎たらしさすらきゅーとに見えてきましたよ」
仕方ないのでお姫様抱っこを継続しつつ、豆腐へと近づいていく。せっかく観光に来たのに豆腐を眺めておしまいなんて言ったら間違いなくごねるからだ。そういう所も逆にかわいい。
「この豆腐、扉がありませんね。上位次元の存在であればすり抜けられるからでしょうか」
ぺたぺたと壁に触れてみると、簡単に壊せそうな材質ではあるが……。当然ながらそんなことをしたらバレるどころの騒ぎじゃない。壁の向こうに誰もいないことを確認して、〈トンネル避け〉で潜り込むことにした。
こんなの、もはや観光じゃないです。敵地への侵入調査なんですけど!?