卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第397話 四面楚歌

「さて、建物の中は……随分と無機質な部屋ですね」

 

 ボク達が壁から入り込んだ場所は、無機質な小部屋だった。一面が真っ白な空間で、家具などは何も置かれていない。一見するとなんのためにあるのかわからない。ただの空き部屋かと思ったが……。

 

「なるほど。ここは倉庫でしたか」

 

 視界を切り替えて《『心眼』》の視点で確認すると、上位次元の物質で作られた機械の部品が置かれていることがわかる。どうやら次元が違っても、道具を扱うという点は変わらないようだ。

 

「あっ、見てみて!強そうな剣がある!」

 

 "作者"さんが指差す先にはシンプルな見た目の剣があった。強そうかと言われると微妙だけど、上位次元の剣だと言われれば確かに強いかもしれない。

 

「見た感じは特殊な能力はなさそうですけどね。ただの物体に過ぎませんよ」

 

「そうなの?ちょっと残念かも」

 

 しょんぼりする"作者"さんだが、こんなところに無造作に置かれている武器が強いはずがない。

 

「ここはボク達の世界に攻めてきた機械の構成部品を置く場所みたいですね。随分こぢんまりとしているようですが」

 

 ネジや外装パーツが棚の上に雑に置かれている。手作業で組み立てているのだろうか?倉庫にしては在庫も少ない。あの機械が何千、何万と押し寄せて来る心配はしなくて良さそうだ。

 

「さて、これで満足しましたか?そろそろ〚テレポート〛で帰り――」

 

 そう"作者"さんに声を掛けようとした矢先、部屋の入口からひょっこりと誰かがやってきた。

 

「あ」

 

「え」

 

 《『心眼』》でしか観測できない生命体がそこにいた。身長は約130cmで全身が蒼白く輝いている。フォルムは人間とほぼ同じだが、眼だけが闇のように暗く、周囲の光を飲み込むかのようだった。

 

 間違いない。この施設を管理する上位次元の存在だ。

 

「侵入者が出たぞ!」

 

「だから来たくなかったんですよー!」

 

「楽しくなってきたね!」

 

 お姫様抱っこで抱えられながらご満悦の"作者"さんに心の中でため息をつきつつ、〈トンネル避け〉で部屋を出ようとして……あれ、身体が引っかかった!?

 

 よくよく壁を確認すると、先程までとは違って蒼く発光しているのが伺える。上位次元のバリアか何かを展開されているようだ。

 

「〈トンネル避け〉が駄目でも〈魔導〉なら……っ!?」

 

 即座に〚テレポート〛を起動させようとするも、魔力が即座に霧散する。なんなんですかこの施設は!?入る時はガバガバだったのに、出ようとしたら急に要塞になりましたよ!?

 

「なにやら『魔法』を発動しようとしたようだが、残念だったな。我の魔眼は全ての魔力を壊す!」

 

「なんなんですかその謎設定はー!?」

 

 仕方ない、ここは全能で片付けるしかない。脚で地面を軽く踏み鳴らし、衝撃波を走らせる。鋭い衝撃が眼前の存在を目掛けて駆け抜けるが――。

 

「ふん、下層の次元からの攻撃なぞ効かんわ。大人しくしろ」

 

「やはり上位の次元の『バタフライ・エフェクト』をアシスト無しで演算するのは無理がありましたか……!」

 

 余裕たっぷりに偉そうに佇んでいるからまだいいものの、このままではまずい。

 

「おや?卍さんってばもしかしてピンチ?」

 

「大ピンチですよ!これは『邪旺院』の力とやらを解放するしかないか……?」

 

 そうは言ったものの、安易に施設へ侵入したボクが全面的に悪いこともあって、怒りのパワーは全く湧いてこない。

 

 〈ロールプレイング〉で怒りを演ずる気すら起きないのは、この期に及んでまだなんとかなると高をくくっているからだろうか。

 

「ほう、まだ隠し玉があるのか!面白い。見せてみよ。我の力で捻り潰してやる」

 

 目の前の上位次元の存在に、まるで脅威を見いだせない。状況的には追い詰められているというのに、ただ子供が偉そうにしているようにしか見えないのだ。

 

「……えぃっ」

 

「ひゃっ!?」

 

 《SANチェック》すら使う必要がない。ただの〈感受誘導〉の範疇で恐怖を浴びせただけで、甲高い声で悲鳴をあげる上位存在さん。間違いない、この子は恐怖に対してまるで耐性がない。

 

「命が惜しければ後ろを向いていてくださいね」

 

「わ、わかりました!生意気言ってすいません!」

 

 ボクの命令に従って大人しく後ろを向いた。魔眼だと言っていたからにはこれで〈魔導〉が使えるだろう。やれやれ、これで後は〚テレポート〛を使えば――。

 

「何をしている!『魔法』を封じろ!」

 

 怒鳴るような叫び声と共に、くるりと振り返る上位存在さん。遅かったか、どうやら仲間がやってきたらしい。

 

「お姫様抱っこをしながら軽口を叩いて対処できるような状況は終わったようですね」

 

「つまりそれは降りろって事?」

 

「いえ、軽口を叩かなければお姫様抱っこをしながらでも対処できますよ。しっかり掴まっててくださいね」

 

「そのセリフ自体が相当な軽口じゃない?」

 

 不思議と不安感はない。ボクの腕の中でそわそわしている"作者"さんと同じく、ボクの精神もこの状況に昂っているのだろう。

 

 激しい怒りに支配された負の力ではなく、楽しさに溢れた正の力で、この状況を切り抜けていきましょうか!

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