卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第406話 遊びの土俵の外側で

「というわけでお疲れ様でした!一回戦は楽勝でしたね!」

 

 本当に冗談抜きで楽勝だった。念願の【フォッダー】公式大会……その本戦ともなれば、仮にこれが創作なら、本一冊分は軽く超えるレベルの激戦になるかと思ったのだけど。

 

「ゼプテンさんが削ってくれなければ、もっと激戦になったかもしれないのです」

 

 メグさんの言う通りですね。勝負には相性というものがある。大火力の全体マップ攻撃には耐えられないけれど、普通に戦えば強敵だった存在も中にはいたはずだ。たとえば――。

 

「ふえーん、一回戦落ちですの!慰めてくださいまし!」

 

 試合が終わってから真っ先にボク達の下にやって来た猫姫さんなんかはその筆頭だ。

 

 本来なら装備を持ち込む事が許されない【サバイバル】において、料理による基礎ステータスの向上は大きなアドバンテージとなる。それも本来なら材料を厳選しなければ良い料理は作れないのに、猫姫さんはその辺の葉っぱとかでも最高品質の料理を作れてしまうのだ。仮に装備を持ち込めなくて、かつゼプテンさんがいなかったとしたら、【サバイバル】における最上層のプレイヤーだったはず。

 

「かわいそうなのです、なでなで。まぁ私達は突破したんですけどねです!」

 

 猫姫さんを撫でるメグさんを微笑ましく眺めつつ、一回戦を突破したプレイヤー達も横目で観察する。どうやら8つに分かれた組のうち、試合が既に終わっているのはボク達の組だけらしい。さもありなん、といったところか。

 

 一回戦が終わってしまった以上、今日の予定は特にない。今も戦っている友人達を応援したり、あるいは慰めたりする日になりそうですね。

 

 それじゃあボクもまずは目の前のきゅーとな猫姫さんを可愛がりますか。そう思ったその時、視界が暗転して――。

 

 気がつけば、ボクは現実世界に戻っていた。

 

「まさか、またサーバーが……!?」

 

 急いで『VRステーション2』から飛び出すと、灑智が教えてくれる。

 

「またゲームがダウンしてますっ。せっかく良い所まで行ってたのに……」

 

 なんでもない日ならともかく、念願の【フォッダー】公式大会の日にサーバーがダウン……。当然ながら大炎上は免れない。既に試合が終わっていたボク達にはわからないが、他の組は仕切り直しだろう。

 

 やっぱり、そりゃそうなるか。諦観のため息を漏らしつつも、冷静に状況を分析する。

 

「荒罹崇がゼプテンを倒したからじゃないの?」

 

「……もしかすると引き金はそれかもしれませんが……。どちらにせよ、この結末は必然だったでしょうね」

 

 大人しくゲームを遊んで、それで終わるはずがなかった。彼の目的はあくまで〈進化(エボルド)〉であり、遊びは手段に過ぎない。

 

 ボクは〈ロールプレイング〉でゼプテンさんの思考をもう一度再現する。最初に対面した時は正確な再現ができなかったけれど、情報が増えた今なら――。

 

「――どうやら、本格的に侵攻を進めるようですね。ユーキさんのいる地下室に向かっているようです」

 

「それなら私が迎撃に向かいましょうか――いや、ごめんなさい。どうやら〚世界結界〛が攻撃を受けているようですね……。私はそちらに向かいます」

 

「大丈夫ですよ、ボクがはっ倒してきます。とがみんも来ますか?」

 

「いや、私はいいかな。どうせ荒罹崇だけで足りるでしょ、まあダメそうだったら呼んでね♥」

 

 とがみんはボクの感情を汲んでくれたらしい。普段なら喜んで一緒に来そうなところで引き下がる。

 

 そう――ボクの心は今、怒りに満ちている。ゲームを散々ぶち壊してくれたゼプテンさんにお灸を据えてやらなければならない。

 

 ボクは〚テレポート〛を起動し、ゼプテンさんの前に立ちはだかる。背後にはユーキさんの秘密基地、まさに瀬戸際だ。

 

「……貴様か。ゲームの中でしか我に歯向かう術を持たない、矮小な家畜だったか」

 

「ゲームの中で負けたからって現実(リアル)でまで怒らないでくださいよ」

 

 以前に見た時に比べてゼプテンさんは遥かに〈進化(エボルド)〉している。次元の壁を打ち破り、さらなる《『位階上昇(アセンション)』》を果たしたようだ。

 

「ふん、ゲーム如きで感情を揺さぶられるものか。これは既定路線だ」

 

 嘘だ。ゼプテンさんの思考はボクと同じく怒りに満ち溢れている。よほど負けたのが気に食わないのだろう。

 

「あなたの行動は前から見ていましたが、仲間は〈進化(エボルド)〉させなかったんですね。世界の外からも攻撃が始まっているようですが、彼らでは突破できませんよ」

 

「『ユーキ』と『灑智』。両名を我が仕留めれば良いだけの事だろう?」

 

「ボクの妹が侵略者から最高評価を受けているのは喜ばしい事ですが――大言壮語も甚だしいとは思いません?ボクにすら負けたじゃないですか」

 

「だからっ!それはゲームの中での話だろうッ!この《『魔眼』》を貴様には止められるのか?他ならぬ現実(リアル)で!」

 

「あなたの力は確かに脅威でした。『魔眼』だった頃に使われたら死は免れなかったでしょう。でも――今はもう《『魔眼』》なんですよ」

 

「何を……言っている……?」

 

「あなたには見えない次元(レイヤー)があるという事ですよ。上位次元の存在と言ってもそんなものか」

 

「……ふざけるなッ!下層次元の格下が、粋がるな!」

 

 ゼプテンさんは《『魔眼』》の力をボクへと向ける。世界の全てを射程に収める絶大な出力を一点に集め、全てを捻じ曲げようとする。

 

「〚アンチマジック〛」

 

 しかし出力の大きさに関わらず〚アンチマジック〛は全ての〈魔導〉を打ち消すことができる。

 

「世界の全てを攻撃できるのに、それをしない理由。それは〚アンチマジック〛に対する当たり判定が大きくなってしまうからですね?」

 

 世界の全てを攻撃するという事は、世界の何処からでも打ち消せるという事。時間当たりの魔力消費では、〚アンチマジック〛よりも次元を捻じ曲げる《『魔眼』》の方が遥かに少ないだろうが、それで圧倒できるのは個人間の戦いだけだ。

 

 世界中の使い手と〈魔導〉を撃ち合って勝てるだけの魔力を、彼は保有していない。この場にこそ居ないものの、世界中の実力者達がゼプテンさんの凶行を封じている。

 

「だとしてもッ!貴様程度の魔力であれば容易に押し切れるわ!」

 

「それで灑智を相手にどうやって勝つ気だったんですか?――まあいいでしょう、我慢比べといきましょうか!」

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