卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第408話 イグニッション

「《『位階下降(ディセンション)』》、といったところでしょうか。ボクたちと同じ領域に降りてきたわけだ」

 

 降臨の余波で、空間の色彩がわずかに揺らぎ、耳鳴りにも似た高いノイズが辺りを満たす。

 

 本来なら上位次元の存在はボクたちに直接干渉することができない。次元の違う攻撃は物質を透過するからだ。だからゼプテンさんは〈魔導〉を中心とした攻撃を仕掛けていて、あくまで本人は棒立ちのまま戦っている。

 

 ボクは通常の肉体とは別に《『位階上昇(アセンション)』》によって上位次元の部位を持っていて、それをぶつけて攻撃できるけれど――逆は成立しない。所詮ボクにとって上位次元の部位は後付けで拡張されたパーツであり、この部位を攻撃されたところで痛くも痒くもない。

 

 真の意味でこの世界の存在にダメージを与えるためには、同じ領域に降りてくるしかないのだ。

 

「圧倒的な情報量を持つ上位次元の存在が降りてきたのだ。貴様らとは出力が違うぞ?」

 

「矮小な家畜と同じ領域に降りてきたくせに、そんな上から目線なんですか?」

 

「この肉体はあくまで拡張された部位だ。真の意味で同じ領域というわけではない」

 

 瞬時に加速して距離を詰めるゼプテンさん。大気が裂ける悲鳴とともに瓦礫が渦を巻き、破滅的な衝撃波が周囲を薙ぎ払う。速度だけは大したものだ。喰らってしまえばひとたまりもない。そして彼は拳を思い切り振りかぶり――

 

「ぐぁッ!」

 

 ボクのカウンターパンチが顔面に突き刺さった。

 

「《『魔眼』》頼りで戦ってきたあなたが急に接近戦に持ち込むなんて、無茶な話でしょう」

 

 典型的なテレフォンパンチだ。全く最適化されていない。【フォッダー】の中で肉弾戦を経験していればこうはならなかったでしょうに。 

 

 跳ね飛ばされるゼプテンさんを見据えながら、ボクはぽつりと呟く。

 

――【《イグニッション》】

 

 胸の奥で火花が散り、世界が鮮烈な彩度を増す。

 

 それは【フォッダー】のゲーム内スキルの名前で、本来なら現実(リアル)で効果を及ぼすことなどない。ただの言葉に過ぎない。けれどその言葉がボクの心を震わせ、全能感を与えてくれる。

 

 これこそが灑智の語った呪い(まじない)の力なのだろう。思いのこもった『名前』を媒介に事象を捻じ曲げる――なんだ、言ってみれば〈魂の言葉(ソウルワード)〉と全く同じ仕組みじゃないか。

 

 【《イグニッション》】の効果は、次に発動するスキルの強化だ。まあ技能(スキル)と定義するならあらゆる行動に適用できるだろう。

 

 ボクは必死の形相でこちらへと近づくゼプテンさんにとどめの言葉を向けた。

 

――《SANチェック》

 

 見えない衝撃が空間を歪め、ゼプテンさんの瞳孔に細かな亀裂が走った。

 

 矮小なる家畜に圧倒され、対抗するために同じ領域に堕ちてきた上位存在が、絶大なる強化が施された《SANチェック》に勝てる道理はない。

 

 その一撃で決着は付いた。ゼプテンさんは白目を剥いて気絶する。

 

 とどめを刺す必要もない。確かなトラウマとして刻み込まれたその恐怖は、この世界への侵攻を諦めさせるには十分だろう。

 

「決着は付いたみたいですね」

 

 振り返るとそこにはユーキさんがいた。戦いが終わったと察して外に出てきたみたいだ。

 

「はい。彼が起きたらすぐに停戦の話が進むでしょう。明らかにあちらの世界の最高権力者ですからね」

 

「〚世界結界〛もアメリカ軍の方々が防衛してくださっているみたいです。そろそろサーバーも復活しますよ」

 

 ユーキさんの言葉にほっと一息をつく。【フォッダー】が始まる。一番聞きたかったのはその言葉だった。喉の奥から解放されたような温かな息が漏れ、緊張の糸がほどける。

 

「【サバイバル】はやり直そうと思いますけど、構いませんか?」

 

「ボクに聞くことじゃないですね。それは運営の判断でしょう。サーバーが落ちる前に決着がついたボクたちの組についての処遇も含めてね」

 

「それもそうですね」

 

 ユーキさんは朗らかに微笑む。彼女も肩の荷が降りたようだ。笑顔の感情表現(エモート)まで呼び出していて、随分と余裕がある様子だ。

 

「そうそう、あちらの世界にいる人たちですけど――」

 

「大丈夫です。移住させたい人は受け入れますし、恐らくこの闘いは向こうの降伏宣言で終わる。その時に良い条件を受け入れさせますよ」

 

「それはよかったです」

 

 なんならボクが動かなくても、軍の人たちがすべてを解決してくれていたかもしれませんね。そんなボクの考えを見透かしたのか、ユーキさんが言う。

 

「ゼプテンさんを倒すことはできたでしょうね。もちろん、その命を奪うという形で」

 

 それならボクが動いた意味はあったのだろう。たとえゼプテンさんが死のうがボクは何も気にしないが、あちらの世界の心情は別の話だ。抗戦が長引く可能性は考えられるし、悲しむ人もいるかもしれない。もちろんそれを喜ばしいと考える人もいるかもしれないけれど。

 

「それじゃあボクはそろそろ帰りますよ。とがみんはともかく、灑智は心配してそうですしね」

 

「そうですか?それでは早めにゲームを復旧しないといけませんね。帰りは徒歩で帰ってください。『テレポーター』は使っていいですよ。それまでには復旧させますので」

 

「了解しました。早足で帰りますね」

 

 

 道がわからなくなるので一度ユーキさんの秘密基地まで戻ってきた。そこから徒歩で帰ろうと思ったのだが……基地の前に誰かがいる。夕焼けの朱が鉄骨を染め、長い影が地面に伸びていた。

 

「いつ助けを呼ぶかと構えていたんだがな」

 

「いたなら呼ばれずとも来ればいいのに」

 

 ゆうたさんだ。きっとピンチの時に介入して劇的にボクを助けたかったのだろう。心なしかしょんぼりとしている。何事もなかったんだからいいじゃないですか。

 

「『何かあったら俺を呼べ。すぐに駆けつける』でしたっけ? カッコつけすぎですよ。そんな人でしたっけ?」

 

「俺は荒罹崇によく見られたいだけだからな」

 

「はいはい、そういう発言は結構ですから」

 

 ちょっぴりドキリとしたが、〈ロールプレイング〉で平静な態度を装う。別に助けてもらったわけでもないのに心を揺らがせてくるとは、すごいお人だ。頬がわずかに熱を帯びたが、夜風がひそかに熱をさらっていく。ここがゲーム内なら新手のテクニックとして晒し上げてたと思うけど。

 

「じゃあまた、今度はゲームでお会いしましょうか。次は決勝戦で、なんてどうです?」

 

「それまで顔を合わせないなんて無理に決まってるだろう」

 

「まあそうですよね。ゲームの中は広いようで狭いですし」

 

「そういう意味じゃないんだがな……」




魂の言葉(ソウルワード)その11 『イグニッション』
ゲーム内のスキル名そのものを〈魂の言葉(ソウルワード)〉にした物です。
次に発動するスキルの出力を上昇させる本来の効果を拡大させ、あらゆる技能に適用させます。
ただしシステム的には通常のアクションで支援(バフ)は消費されないので、実質的に強化された技能と強化されたスキルを両方使えます。便利ですね。

テクニックその126『呪い』
言葉に宿る因果の力を捻じ曲げて制御する力です。〈魂の言葉(ソウルワード)〉が時にシステムに反するような挙動をとる事があるのも、この力の存在を踏まえた上で最適解を導き出しているからだと想います。〈魂の言葉(ソウルワード)〉の場合は能動的に発声して発動していましたが、相手の扱う『魔眼』を単なる〈進化(エボルド)〉である《『魔眼』》として定義して精神的に優位に立つなど、幅広い使い方ができます。
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