卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
【キネシス】と【〈パウダーホーム〉】、2つの手札を手に入れたボク達は【サバイバル】の本戦に向けて、訓練や検証を始める。
当然だが、単に模擬戦を繰り返すだけではない。【フォッダー】のワールドマップを隅々まで確認することがボク達の中で最も重要な準備として位置づけられた。
中止になってしまった前回の【サバイバル】は【フォッダー】のワールドマップを忠実に再現したエリアでの戦いだった。もちろんこれから開催される本番では別のマップになる可能性もあるが、地形を調べておくに越したことはない。
試合が始まったらどこに集まるべきか、急場でアイテムが必要になったらどこで採取するか。それぞれの場所で入手可能なアイテムを洗い出し、情報を積み重ねていく。
その過程で様々なプレイヤーが同じように地形やアイテム配置を調査している光景を何度も目にした。考えることは同じ、ということか。
「私達が理想とした地形には、他のプレイヤーも集まってくるかもしれないのです」
ボク達が第一候補の集合場所として選んだのは、【邪神】の街こと【サッド街】だ。地下洞窟のような場所に配置されたこの特殊な街は、崩落を防ぐためなのか洞窟の全てが『不壊』となっている。
【トラップハンター】によって陣地を固めやすく、優秀な場所ではあるが、街系のエリアは当然ながら知名度も高く、様々なプレイヤーがここに集まるだろう。
そんな考察をしていると、見知ったプレイヤーが視界に映る。
「おお!寿美礼さんじゃないですか!こんにちばんは!」
「あら、卍さんじゃない。あなた達もこの場所の下見に?」
「そういうことです。ということは寿美礼さんも……?」
寿美礼さんはかつてこのゲームでNPCだったこともあるAIだ。今は一般プレイヤーとしてゲームを遊んでおり、以前に遊んだときは【ガンナー】の
「当然、と言いたいところだけど――私はその先を行っているわ」
「下見のその先……!?」
いったいどういうことなんだろう。もう【サッド街】で戦うと決めた上で、具体的な戦術を思案しているということか?
「おっと、これ以上の説明はできないわよ。特に卍さんにはね」
「卍さんはすぐに配信で広めちゃいますからね、なのです」
試合当日までのお預けということか。寿美礼さんと同じ組になるか、同じ組になったとしても、ボク達が【サッド街】に行くかどうかで話は変わってくるけど、最悪でも【サバイバル】が終わったら答え合わせをしてくれるだろう。
「なるほど、相当に自信があるようですね。楽しみにしてますよ!」
寿美礼さんに別れを告げてからボクとメグさんで話し合い、結論として試合開始時の集合地点は【サッド街】にすることに決めた。
開幕で陣取り合戦は始まるだろうが、陣地として望ましい場所であればどこも同じだ。
ただし【サバイバル】には活動可能範囲の縮小という概念もある。時間とともにエリアが狭まっていき、エリア外にいるとダメージを受けてしまうという要素だ。その点で見ると、おそらく【フォッダー】の地図上における中心地である【アンネサリーの街】が最も人気と思われるのだが……。
「ダメージペナルティは【〈パウダーホーム〉】で受け切れるので、ないも同然なのです」
「ですね、これは長期戦になりそうですよ」
長期戦になるのを避けるためにエリアを縮小しているというのに、プレイヤーにとってエリアの指定などないも同然だ。エリア内であるに越したことはないかもしれないが、エリア外であってもそこまでの支障はない。
「こんにちはー。おひさしぶりかな?」
ボク達が大会を見据えて話し合っていると、うにょりとした肉塊めいたスライムのような生物が目の前にやってくる。ابتسامةさんですね。
「ابتسامةさん、こんにちばんは!もしかして、あなたも大会に出るんですか?」
「そうだよー。ぷにりんちゃんと一緒にたたかうんだよ」
なんだか柔らかそうなお二人がコンビを組むらしい。『異形』特有の発想から生まれる独特のテクニックに期待できるかもしれない。
「ぷにりんちゃんって、卍さんの配信に出てた【アーチャー】の人です?手強そうなのです」
「ぷにりんさんはアクタニアと同等かそれ以上の『権能』の使い手ですからね。今思えばあの力は〈
「ほくのこともわすれちゃやだよー」
「当然ながらابتسامةさんのことも忘れてませんよ!お友達ですからね!」
実際のところ、ابتسامةさんの現環境における実力は定かではない。だから、実力がわかっているぷにりんさんの方に焦点を向けてしまいがちだが、ابتسامةさんも以前に【パーティ】でダンジョンを攻略したときは『異形』特有のアバターを活かした戦い方で、モンスターを圧倒していた。戦いのセンスも悪くなさそうだったし、恐るべき強敵になっていても何らおかしくない。
改めてぷにりんさんの姿を見ると、なんだか『異形』のオーラのようなものが一段と増しているように見える。オーラがもたらす恐怖に慣れきってしまったこの世界の人にとっては、感情を揺さぶられるほどではないだろう。
しかし、このオーラは恐怖を呼び起こすだけのものではなく、『異形』の力――あるいは〈
そのエネルギーを使いこなすテクニックを保有しているかは不明だが、少なくとも『異形』としての
「あの、ابتسامةさん。ちょっと触ってもいいです?」
「いいよー」
そんな恐怖のエネルギーを物ともせず、メグさんはابتسامةさんをぷにぷにと触り始める。慣れていない人にとってはグロテスクな肉の塊に見えるが、意外なほど柔らかくて弾むような感触が、ボクの中でもきゅーとだと評判だ。
「ابتسامةさんのファンスレがネットの掲示板にあるのです。みんな触ったことを自慢してるから、どんな感じなのか気になって……」
「そうなんですか?人気者ですね、ابتسامةさん!」
「えへへー」
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>慣れてくると意外に可愛いよな
>きゅーとと呼べゴミカス
>なでなでしたい
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