卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第425話 すやすやタクティクス

 寿美礼さんを打倒して、ボクは一息をつきながら【サバイバル】の進捗状況を確認する。この大会の終了条件は『生存しているプレイヤーが100人になる』だ。それでは実際に、現時点で生き残っているプレイヤーはどれだけいるのかというと……。

 

「うわぁ……。まだ1万人以上残ってますよ」

 

「私達が【サッド街】のプレイヤーを片っ端から倒していっても、全然終わらなそうなのです。もっと戦況が動かないと」

 

「まあ、まだ序盤ですしね。もっとエリアが縮小してきたら事態は動くでしょう」

 

 外から持ち込んだ潤沢な回復アイテムがあれば、エリア外であろうと活動は可能――とはいえども、実際にはアイテムの数は有限だ。いつまでも持久戦を続けられるわけではない。

 

 ひとまず【サッド街】がエリアから外れるまでは、周辺のプレイヤーを散らしつつ【エリクサー】を集めていこう。持ち込んだアイテムを上回る回復力を持つ【エリクサー】は、今後の戦いで大きなアドバンテージになる。

 

 そう方針を定めたボク達は、陣地で悠長に待ち構えている他のプレイヤーへ挑みに行くことにした。

 

 

 そして数十本の【エリクサー】を入手した――つまり数十人のプレイヤーを打倒したところで、ようやく事態が動く。

 

「あっ。あれってエリアの線じゃないです?」

 

「ようやくですか。随分と時間がかかりましたね」

 

 【サッド街】の一部がエリア外になった。領域を隔てる線を見ると、動きは遅々としているものの、間違いなくペナルティなしで動ける領域が狭くなっていくことが確認できる。

 

 範囲外に築陣しているプレイヤーを【クレヤボヤンス】で確認すると、呑気にベッドの上で休んでいるようだが――。

 

「ベッドの継続回復(リジェネ)効果でペナルティを相殺するつもりですか」

 

 試しにエリアの外へ出て【〈パウダーホーム〉】で相殺を試みたが、僅かに回復量が足りず、HPは減少に転ずる。やはり無制限にペナルティを受け切ることはできないようだ。

 

「ポーションの量的には問題ない程度のダメージですがね。どうします?」

 

「このまま【サッド街】で活動を続けるのです!めざせ、プレイヤーの殲滅!」

 

「了解です。まずはベッドで悠長に休んでいるプレイヤーさんから攻めに行きますか!」

 

 «テレポート»を発動し、プレイヤーの真上に出現して透かさず【フルバーニング】を放つ。気を抜いているプレイヤーならこれだけで確殺可能だが――残念ながら、今もなおこの戦場で活動しているプレイヤーにとって、常在戦場の心構えは必須条件だ。HPは僅かに減少に転ずるも、すぐに回復されてしまう。

 

「うーん……だれえ?」

 

 寝ぼけ眼で目を擦りながら上体を起こすプレイヤーさん。常在戦場の心構えなど全くなさそうに見えて、間違いなくフェイクだ。

 

 爆炎が収まった直後にメグさんがボクの隣に転移し、力強く斧を振り下ろす。斧からは斬撃が飛び、ベッドで寝ているプレイヤーにヒットするが、やはりまともなダメージは与えられない。

 

 こちらがまともに攻撃を通せなかった以上、次は相手からの反撃に備える必要がある。そう思ったのだけど――何も仕掛けてこない。再び横になり、すやすやと眠り始めた。瞬く間にHPは満タンになり、ゲージの上限を超えて回復していく。【ビショップ】の人権級スキルである【超越の奇跡】の効果だ。

 

【超越の奇跡】

[パッシブ][スイッチ]

効果:[最大HP]を超えて[HP]を[回復]できる。[過剰HP]は[時間]とともに[減少]する。

 

 しかし【超越の奇跡】だけでは説明がつかない。最大HPを超えて回復したHPは、時間経過とともにすぐに減少してしまうはずだ。このスキルは圧倒的な回復力を持つ能動(アクティブ)スキルを使用した時に効果を発揮するものであり、本来なら継続回復(リジェネ)ごときで過剰HPが増えていくはずがない。

 

 逆説的に言えば、目の前のプレイヤーはその常識を打ち破るほどの継続回復(リジェネ)効果を有しているということになる。

 

「……確かにこのレベルの回復力があれば、ペナルティの影響下でも問題なく生存できますね」

 

「寝ているだけで【サバイバル】を突破する恐るべき戦術なのです……」

 

 とはいえ、種が割れてしまえばそこまでの驚異ではない。寝たまま積極的に攻撃してくるなら話は別だったが、反撃されないのであれば悠長に支援(バフ)を重ねられる。

 

 【フルバーニング】で仕留めきれなかったのであれば、【《イグニッション》】を重ねればいいだけだ。

 

「【《イグニッション》】――【ソウルフレア】っと」

 

 まともなプレイヤーであれば、ボクが【《イグニッション》】を掛けた時点で自らの耐久を突破されると気付くはずだが、その様子もなく、安心しきった表情のまま眠っている。そのまま白銀の炎に焼かれてHPを全損させていった。

 

「しかし、継続回復(リジェネ)を揃えておけば意外とペナルティに耐えられるんですね。……そういえば、【モンク】には【黙想】がありましたか」

 

【黙想】

[パッシブ][スイッチ][条件:素手]

効果:[自身]の[HP]を[継続的]かつ[大幅]に[回復]させる。

 

「【黙想】だけではペナルティを受け切ることができないのは確かなのです。装備と合わせて複数の継続回復(リジェネ)を重複させれば別かもですけど……」

 

「――ベッドの継続回復(リジェネ)込みでの検証ってしましたっけ?」

 

「……」

 

 メグさんは斧を外してからエリア外に«テレポート»して、【〈パウダーホーム〉】をばら撒く。ボクはメグさんのHPゲージをじっと見つめたが――10秒経っても20秒経っても、HPが減少する様子はない。

 

 戻ってきたメグさんに【クレヤボヤンス】で周囲の探索をしてもらうと、ペナルティの影響下であるにもかかわらず、陣地の上でのんびりと待ち構えているプレイヤーが山のようにいる。その多くは【〈パウダーホーム〉】を周囲に散らしているが、中には普通のベッドに横になっているプレイヤーも見られるようだ。

 

「……この大会は、本当に長くなりそうですね」

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