卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

448 / 542
第437話 打ち上げ会

 次の日、ボクはメグさんと一緒にレストランで大会の打ち上げをしていた。

 

「それでは改めて、お疲れ様でしたー!」

 

「お疲れ様なのです!」

 

 ここは客の脳波から最適な料理を提供するという触れ込みで話題のレストラン『TAKAHASHI』だ。注文をせずとも勝手に欲しい料理を届けてくれると評判で、その精度はアンケート結果によると99%。逆に言えば100人に1人は望んでいない料理を出されることもあるらしいが、それはそれで新たな発見を得られると好評なようだ。

 

 ちなみにボクの望む料理は塩ラーメン。果たしてちゃんと受け付けてくれるかな?

 

 数十秒後、店の奥から弾丸の如く射出された料理がボク達のテーブルにかたりと着地する。高速で派手に放たれた割には随分と静かな音だった。

 

「最近のレストランはずいぶんと前衛的な配膳をしますね……」

 

「確か〈流水誘導〉と同じ仕組みらしいのです。〚テレポート〛式やコンベア式と比べて設備投資の費用やランニングコストが掛からなくて便利らしいのです」

 

「ほえー。時代も変わりましたねー」

 

 〈流水誘導〉ということは【フォッダー】のテクニックが技術の発展に貢献したのだろうか?それともたまたま似たような原理を利用して研究をしている人がいたのだろうか?ちょっと気になるけど、まずは料理だ。目を逸らしていた現実を改めて直視する。

 

 ボクの前にやってきた料理は――。

 

「カエルの丸焼き……」

 

「ちゃんとハンバーグセットが届いたのです!おいしそう!」

 

 メグさんは想定通りの料理が届いて大喜び。笑顔の感情表現(エモート)を出しながら本人もにこにこと笑っている。

 

「えっ、卍さん。そんな料理を頼んだのです?ちょっと引くのです……」

 

「いやいや、ボクが頼んだ訳じゃないですからね!?」

 

 噂によるとカエルは鶏肉のような味がして意外と美味しいらしい。なので味的には問題ないと思うのだけど、それでも全く食べる習慣が無いものが目の前に出てくると、少し怖気づいてしまう。

 

 しかもこれはただのカエルではない。小型の動物くらいのサイズがある巨大なカエルだ。《SANチェック》に慣れ親しんだボクですら確かな恐怖を抱いてしまう。

 

「美味しいのです!卍さん、こっちのハンバーグ美味しいのです!」

 

 ボクを置き去りにして料理を食べ始める心無いメグさんを恨めしい目で睨みつけながらも、意を決してカエルと対峙する。ナイフで身体の端をそっと切り取り、口に運ぶ。

 

「もぐもぐ……。えっ、なにこれ!?凄い!」

 

 もぐもぐと噛み締めるたびに肉汁が溢れ出し、柔らかな食感がボクを魅了する。もはや美味しいとかいう次元では無い。これは芸術だ。

 

「メグさんも食べてみてくださいよ!凄いですよ!」

 

「えっ、嫌なのです!私を騙すつもりなのです!?」

 

 このレストランが謳う99%の注文精度、その意味を確信した。これは意図的なものだ。あえて100%にしないことで突拍子もない料理を出して嫌々ながらも食べさせる。その悪感情とのギャップが一周回って料理の評価を大きく引き上げている。

 

「いや、凄いですよ本当に!ほらほら!」

 

「凄いってなんなのです!?せめて美味しいって言ってくださいなのです!」

 

 だって本当に凄いんだから仕方ない。結局メグさんはカエルの丸焼きを味見することなく食事を終えた。一方、メグさんの食べていたハンバーグはそこまで感動的な味ではなかったのだろう。美味しかったとは言っているが、その程度だ。真の料理は『凄い』のである。

 

 

「ごちそうさまでした!いやー、良い店でしたね」

 

「ほんとなのです!」

 

 食事も終えたところで、フリードリンクを飲みながら今後の予定を話し始めることにする。

 

「次は【ダブル】ですね」

 

「確か二ヶ月後なのです?それまで練習はしておきたいけど、何か別のこともやってみたいのです」

 

「そうですね、直接的なテクニックの開発も必要ですけど……寄り道も意味の無い行為ではありません」

 

 単純に戦闘訓練だけでは飽きるという話でもあるが、それだけではない。【天使のオムライス】のように、寄り道の先に有用なアイテムやシステムが紛れ込んでいることもある。

 

「メグさんはわかりませんが、ボクは結構な数のクエストを取りこぼしていますからね。もし重要なクエストがあればやっておきたいですし」

 

「でも卍さんは基本的にネットで話題にあがってるような重要クエストは結構終わらせてきてると思うのです。他に何かあったかな……?」

 

 メグさんは『オグメレンズ』からネットの海に潜り込み、情報を探し始める。最近は1000億円の価値が相対的に下がったことを受けて、表面的な攻略情報は割と普通に掲載されるようになってきた。グリッチ、もといテクニックや隠し要素については話が別だが、誰もがやっている有用な要素については簡単に探し出すことができる。

 

「あっ、これは……」

 

「おや、なにかありました?」

 

 メグさんが感嘆符の感情表現(エモート)を発動させたのを見て、反射的に問いかける。

 

「いや、有用な情報かと聞かれると微妙な話なのですけど……。どうやら【カード】杯が開かれるらしくて」

 

「【カード】杯ですか!初開催の時には誰も必要枚数の【カード】を集められなくて不戦勝で優勝しちゃった奴。そういえばしばらく開催の話は聞いてなかったですね」

 

「実際にこれが第二回の大会らしいのです。きっと【カード】が市場に潤沢に揃うまで延期してたのだと思うのです」

 

「ほえー。優勝賞品は……【『アイテール』】付きの指輪ですか。……えっ、【『アイテール』】!?」

 

 思わず二度見してしまった。【『アイテール』】といえば、かつて猫姫さんの【黄金の才(ユニークスキル)】だった、空中を自在に移動できるあのスキルだ。全能で自在に飛行できるようになった現環境では、その役割が完全に崩壊しているのは確かだけど……。

 

「ついに未課金プレイヤーに配る域にまで達しましたか……」

 

「正直に言ってあまりいらないのです……」

 

 どちらかというと、準優勝の賞品の方が一般的には価値が高く見える。【願いの石】だ。今では大会出場権としての価値は無いが、素材として使用すると基本ステータスが高水準に達した装備が完成する。結局はそこから付与されるスキル次第で期待外れになってしまうが、それでも【『アイテール』】よりは期待できる――と、一般的には考えるだろう。

 

「よし、【『アイテール』】の取得を目指して【カード】杯に参加しますよ!優勝しましょう!」

 

「まあ【カード】杯は一対一ですから、協力とかはないのですけどね。私が優勝したら【『アイテール』】の指輪は卍さんにあげるのです」

 

「ありがとうございます!その時には左手の薬指に着けときますね!」

 

「配信で叩かれるからやめてほしいのです!?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。