卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
第438話 カードゲーム
「みなさん、おはこんばんにちはー!卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる、略してきゅーてくちゃんねるにようこそー!」
ここしばらくは対人の研究や実戦向けテクニックの調査を続けてきたので、久々にのびのびした気分で特に目的のない配信ができそうだ。
次の大会は二カ月後――時計の針がゆっくりと背中を押す、そんな距離感だ。
もしかするとガチ勢なら今もPvPの研究を続けているのかもしれないが、ボクはどちらかといえばかじゅある寄りのプレイヤーだ。寄り道をしたって構わないだろう。
最近までいつも一緒にいたメグさんも、今は別行動中。【カード】大会には出場するつもりらしいので、そのうち合流することになるだろう。
「というわけで、しばらくはのんびり【フォッダー】の日常を過ごしつつ、別のイベントへの参加を目指していこうと思います。知ってますか?近々【カード】大会が開かれるそうなんですよ!」
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>あぁ、あの黒歴史の……
>ミニゲームが凝っているゲームは名作
>でもフォッダーのカードって基本的にバトル向けのアイテムだよな
>そもそもカードゲームとして遊んでいるプレイヤーを知らないんだが
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「確かにボクもどういうルールのゲームなのか、いまだによくわかっていないんですよね。よくわかってはいないけど、今このゲームで一番強い【カード】プレイヤーはボクです。なにせ第一回の大会で優勝しましたからね」
何気なく【ストレージ】から適当に【カード】を取り出してみる。【カード】の中で、柔らかそうなスライムのイラストがぷるぷると優しく震えていた。
【スライムライム】
COST:1 HP:1 AT:1
効果:[自身]の[召喚]が[成功]した[時]、[1/1][スライム]を[召喚]する。
「この【カード】から推測できる情報としては、まずモンスターを出すのにコストが必要。モンスターにはHPとATというステータスがあって、おそらく攻撃するとATの数値分だけ相手モンスターのHPを減らせる。HPが0になったモンスターは場から取り除かれる。こんなところでしょうか。『レジェンドジエンド』と似たタイプのゲームですね──あちらを遊んだことがある人なら、たぶん3秒で飲み込めます。」
『レジェンドジエンド』は日本でもそこそこ知名度の高いVRカードゲームだ。ボクがテキストから推測したルールは『レジェンドジエンド』でも採用されているし、ついでに言えば他のゲームでも似たようなルールを採っていることが多い。
なぜ同じようなルールのゲームが多いのかと言えば簡単な話だ。非常にわかりやすいからだ。カードを1枚見ただけで「こんな感じのゲームなんだな」と予想がつくほど手垢のついたルールにすることで、初心者でもとっつきやすいゲームにできる。特に主体となるゲームのおまけというポジションにあるミニゲームであれば、とっつきやすさは重要だ。
「ある意味では、ゲームのコンバートが効きますからね♥」
「そうそう。似たようなゲームに慣れたプレイヤーが色んなゲームを行き来できますから。って、明日香さん?」
「はい、私です♥」
配信画面に向かって微笑みながら手を振る明日香さん。彼女はTRPGに特化したプレイヤーだと思っていたのだが、どうやらカードゲームも嗜むらしい。
「明日香さんも今日は一緒に【カード】を遊んでみますか?というか……デッキの枚数、揃ってます?」
「当然です。40枚、ちゃーんと持ってますよ♥」
彼女は胸元のカードケースをパチンと鳴らした。
カードゲームは【カード】が無ければスタート地点にすら立てない。以前はこの絶対的な参入障壁が非常に厳しく、ただ40枚の【カード】を持っているだけのボクが大会で優勝できるくらいのハードルだったのだが、さすがに今となってはそこまでの状況ではないらしい。
「とはいえ本来はそれぞれの効果を踏まえた上で、投入する【カード】を取捨選択するのがカードゲームの醍醐味なんですけどね。ボクもただ40枚の【カード】を持ってるだけで、組み合わせとかは全く考えられていません」
ボクの持っている【カード】をいくつか取り出してみると、高コストのモンスターがやたら多い。基本的に場に出すために必要なコストが多いモンスターはその分だけ強力な傾向にあるが、だからといって強いモンスターばかりをデッキに入れていると、コストを支払えずに何も場に出せなくて負けてしまうことになる。
だからこの手のゲームでは低コストの【カード】を多めに投入し、高コストの【カード】は少なめにするのがセオリーだ。もちろんこれは絶対不変のセオリーというわけではなく、効率よく低コストの【カード】で耐えて、後々に高コストの【カード】を乱発したり、あるいはコストを確保する類の効果を利用するというパターンもある。
とはいえそんな特殊な戦術を当てはめるにはやっぱり投入する【カード】の取捨選択が必要であり、適当に揃えた40枚の【カード】がぴったりマッチすることはない。
もっとも、ゲームのルール次第で常識はひっくり返る。ここがカードゲームの魔性だ。
「そう、ゲームのルールにもよるんですよ。けれどボクはこのゲームのルールを知らない。明日香さんは知ってますか?」
「いいえ、私も対戦相手がいませんでしたから……
カードだけが増えて、腕はさっぱりです。」
「ならば、寄せ集め同士のエキシビションマッチといきましょう! データより直感――それもまた醍醐味です!」