卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第461話 暴走

 〈呪い(まじない)〉の弾丸をその身に受けたボクは、感情を鎮静化させられるその瞬間に、〈魂の言葉(ソウルワード)〉を起動する。

 

「《運命変転》!」

 胸の温度が反転し、静かな熱が胸の奥へ逆流する。

 

 負を正へ転じ、〈呪い(まじない)〉を支援(バフ)へ反転させる!

 

 出力を最大まで上げた【モーションアシスト】でボクは荒罹崇(こうらすう)さんに確かな意志を込めた視線を向ける。その瞬間、彼女の胸元に大きな風穴が穿たれ、HPゲージが大きく削れる。

 

 彼女は反射的に後方へ下がるが、それでもHPの減少は加速し続けた。

 

「〈観察破壊〉か……!」

 

 荒罹崇(こうらすう)さんはそうつぶやくと、ボクの視界を遮るように【ストレージ】から家を取り出した。長方形の白い豆腐が観測の力を妨げる。

 

 〈ホームタクティクス〉は現環境でも優秀だ――だが、今のボクを止めるには足りない。

 

 次の瞬間、白い豆腐が超高速で前に押し出される。

 

「うおっ!?」

 

 観測で生じた物質干渉力に押し出された豆腐は、荒罹崇(こうらすう)さんを勢いよく突き飛ばし、その一撃でHPを『1』まで削る。

 

 大きく後方へ吹き飛ばされた彼女は【オートユーザー】でHPを回復させるが、【パインサラダ】を切らせることはできた。

 

「『全能』の扱いでボクを上回れると思うなよ?」

 

 距離を取った荒罹崇(こうらすう)さんは地面に銃弾をぶつけることで『全能』を起動し、周囲に深い霧を生み出した。

 

「視界を遮られましたか……!」

 

 『観測』の力を利用した『全能』は非常に繊細なコントロールが必要だ。濃密な霧の中でも相手を視界に入れること自体は可能だが、プレイヤーを破壊するには条件が悪すぎる。

 

 素直にゲーム内スキルで特攻を――と思ったところで異変に気づいた。ボクのHPが削られている。ペースはやや遅いが、間違いなく〈観察破壊〉だ。〈呪い(まじない)〉の力で一時的にブーストした状態のボクでもできない芸当をたやすくやってのける相手の操作能力に戦慄する。

 

「«テレポート»!」

 

 遠距離戦は悪手だ。霧を裂き、荒罹崇(こうらすう)さんの目の前へ転移して――。

 

「【フルバーニング】!」

 

 次の瞬間、ボクを起点として大爆発が生じる。周囲の霧を瞬く間に蒸発させつつ、耐性を持たないプレイヤーなら一撃で仕留め切るほどの火力が発生するが――。

 

「【ガードジャスト】!」

 

「ですよねー!」

 

 ほんの一瞬だけ無敵時間を得るスキル、【ガードジャスト】に軽くいなされ――再び二人の視線が交差し、両者のHPバーが赤く脈打った。

 

 やはり【メイジ】であるボクのほうが全損までのカウントダウンが速い。

 

 大きく後方へバックステッポし、距離を取る。奇しくも同じ選択を取り、荒罹崇(こうらすう)さんも後方へ下がる。距離を取ったほうが優位だと判断したようだが、ボクは遠距離戦もできるタイプの『近接対応(てくにかる)(ビルド)だ。

 

「妖精さん!」

 

「〜♪」

 

 妖精さんが光の速度で彼女へ詰め、【ソウルフレア】を起動しようとしたところで――妖精さんは空気に滲むように消えた。同時にボクの手にあった【フェアリールビーロッド】もばらばらに砕け散り、【ストレージ】へ自動的に格納される。

 

「装備破壊!?」

 

「悪手だったようだね!」

 

 確かに、プレイヤーの胸元に風穴を開けることすら可能な『観測』の力は、オブジェクト破壊にはもってこいだ。装備の破壊は本来なら滅多に起きることではないが、相手が破壊のスペシャリストであることを失念していた。

 

 【情熱のビキニ】に次ぐ炎属性ELM補正を持つ【フェアリールビーロッド】が破壊されたことにより、ボクの炎属性魔法の威力が大きく損なわれた。

 

 何よりも厄介なのは、炎属性ダメージを吸収して回復できるラインを下回ってしまったことだ。【フルバーニング】はもう使えない。

 

「【フェアリーブレス】!」

 

 ボクは再び【フェアリーブレス】を自分に撃ち込み、一気に加速する。«テレポート»で距離を詰めることもできたが――《『第六感』》の激しい警告でその択を捨て、速度で距離を詰めるほうを選ぶ。

 

 AGIを引き上げたことによりアバターの操作速度が上昇し、荒罹崇(こうらすう)さんからの観測波に対して針で糸を縫うように回避していく。

 

「ちっ――」

 

 荒罹崇(こうらすう)さんは舌打ちをしながら銃を構え、弾丸を発射した。先ほどまでとは違う赤黒い弾丸が〈流水誘導〉に従って追尾しながら迫る。その弾丸に込められた言葉(ことのは)は『暴走』――。

 

 極端な効果を付与することによって《運命変転》でどちらに転んでも構わない択を実現したと言えば聞こえはいいが――完全に無意味だ。

 

 なぜなら《運命変転》は1日に1回しか使えない。もともとはボクだったくせにそんな当たり前の前提条件すら忘れているらしい。つくづく元となった人格との大きな違いを感じさせる。

 

 そのうえでボクはあえて弾丸を避けることなくその身に受け――その直後、激しく燃え盛る炎がボクを包み込んだ。炎が内側から咲き、視界が白に弾けた。

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