卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第462話 Re:装飾表現

 『暴走』の概念が付与された〈呪い(まじない)〉をその身に受け、激しく燃え盛る怒りに支配された。

 

 そもそも普通のバトルをしたいなら【シングル杯】や【ダブル杯】に参加すればいいじゃないですか!なんでわざわざ【カード杯】に【黄金の才(ユニークスキル)】まで悪用して乗り込んでくるんですか!?いやがらせですか!?ばーかばーか!!!それでも『ボク』ですか!?いやいや、ボクを元にした存在が単なるコピーに留まらないのは良いことですけどね!?強制的に精神を『暴走』させられているとはいえ、このような身も蓋もない戦い方には腸が煮えくり返る思いです。完全にボクの美学に反しますよ。え?【サバイバル杯】に装備を持ち込むのと同じようなもんだろって?違うんです!ちょっと違うんです!うまく言語化できないけど違うんです!とにかくもう怒っちゃいましたからね、おっさんに言わせれば『激おこぷんぷん丸』に相当するくらいには怒ってます。これはチャンネル登録外し案件ですね……。

 

 なんて取り留めのない思考が洪水のように流れ出し、まさに『暴走』の名に相応しい絶大な悪影響に支配される。『沈静』と同じだ。スキルの発動に必要なレベルの強い意思による思考に支配され、【モーションアシスト】への指示がまともに成立しない。アシストに頼らない身体の操作は可能だが、それすらもノイズのような思考に妨害されて、その精度は大きく損なわれている。なんとかこの濁流を制御しないと戦いがまともに成立しない。『沈静』と比べれば、思考の方向性を制御できれば実質的な支援(バフ)として利用できるのではと考え、意図的に攻撃を受けたわけだが、想像以上にでたらめな効果だ。いやね?腐っても『邪旺院』とかいう〈呪い(まじない)〉の名家的な何かの長女なわけですし、意外と制御できるんじゃないかなーと思ったんですよ。無理ですねこれ。というかそもそも〈呪い(まじない)〉ってこんな使い方があるんですね。荒罹崇(こうらすう)さんの方が完璧に使いこなしてますよね。さすがです。……相変わらず思考は制御できていないけど、怒りは収まってきましたね。

 

 刹那にも満たないわずかな時間で無尽蔵の思考を垂れ流していると、荒罹崇(こうらすう)さんの拳がボクの胸元に迫りくる。まずい、避けられない!これを受けたら間違いなくHPの全損は確定だ。【モーションアシスト】は使えず、真っ当な思考すらもままならないこの状況では勝ち目がない。【フォッダー】では負けを確信すると本当に負けてしまうというのに、濁流のような思考を強要されるせいで、自然とネガティブに吸い寄せられてしまう。とっととポジティブに考えないと。ポジティブ、ポジティブ。そういえば今回が決勝戦でしたね。賞品は何でしたっけ――確か、【『アイテール』】付きの装備でしたか。元々【黄金の才(ユニークスキル)】だったわけですし、気になりますよね。必須というわけではありませんが、できれば入手しておきたいです。当時の環境では役に立たなかった、あるいは隠された仕様なんかがあるかもしれません。

 

 ――やはり、この戦いは負けられない。ならどうする?圧倒的な思考速度に比して、拳はまるでコマ送りのように迫りくる。この感じだと体感時間にしてあと30分もあればボクのカラダを正面から捉えるはずだ。

 

 ……それだけ時間があれば十分では?

 

 意を決して、ボクは心の中で【モーションアシスト】に向けて、とてつもなく長く、濃密な描写を叩きつけることにした。暴走の方向性を制御し、洪水のような思考のすべてを描写に注ぎ込む。ただそれだけだ。

 

 

 まず右足をほんの少し、砂粒1つ分ほど前へ出してみる。踵からつま先にかけてゆっくりと、まるで繊細なシルクのリボンが風に揺らぐような滑らかな軌跡を描きつつ、床を撫でるように下ろしていく。その際、足首の角度には細心の注意を払う。わずか5度の傾斜差でバランスが激変するのだから、ボクは自らの足首の骨の1つ1つに意識の光を当て、腓骨や脛骨のきしむような緊張感までイメージする。つま先が床に触れる寸前、踵が空気の抵抗をわずかに感じ取るその瞬間、ボクの踵は微小な円運動を描きながら軌道修正し、着地点をまるで舞踏家が舞台で決めるフィニッシュのような完璧な位置へと導く。そして膝は微細な振動を伴って曲げられ、筋繊維が滑り合う生物学的な音のイメージを脳内で再現する。膝裏には汗が1滴も許されない乾燥した風が吹き抜け、ふくらはぎの筋肉はその風を押し返すかのように隆起する。この一連の動作は、後方から吹き付けるかすかな風圧、視界の隅で舞う埃の粒子、重心がじわりじわりと移ろう感覚までも取り込みながら展開していく。同時に左腕をゆっくりと、けれど確実に空間を切り裂くように持ち上げる。まず肩甲骨の奥深くで、骨が擦れ合う鈍い感覚が背中に広がるのを感じながら、上腕骨をわずか数ミリ単位で前に送り出す。そして肩関節に満ちる粘性の潤滑液をかき混ぜるように、肩を真下に落としながら肘を滑らかに曲げていく。上腕二頭筋と三頭筋が交互に緊張し、そのシルエットがシャープに浮かび上がる。手首はまるで古い懐中時計の秒針のように、規則的かつ優雅な円運動を繰り返し、指先は空気の抵抗を1枚1枚の薄い膜として感じ取りながら、滑らかで、しかし確固とした弧を描いていく。5本の指それぞれが独立した意識を持つかのように、微妙に異なる角度と速さで空間を撫でる。そして胸郭を内側から膨らませる。肋骨は蛇腹のようにしなやかにひらき、音もなく戻る。肋間筋が華やかなオーケストラの弦楽器セクションの如く調和しながら動く。心臓は胸腔の中心で規則正しく脈打ち、そのリズムがまるで遠雷のように身体全体に微細な震動を走らせる。血液が動脈を通って末端へと流れ、再び静脈を通って戻ってくるその長い旅路を想像しながら、ボクは全身の力点と脱力点のバランスを綿密に調整する。背筋を伸ばし、腰椎の1つ1つが互いに連絡を取り合うように意識し、臀部の筋肉を程よく締めながらも完全な弛緩を感じ続ける。右膝から足首に至る筋肉の連なりが1本の金色の糸で繋がっているかのように強固で、かつしなやかであることを忘れずに。首をかすかに傾け、目線をわずかに右斜め前へと向ける。まつ毛の1本1本が空気を掠め、瞳孔が光を調整する微細な動きを感じながら、額の皮膚はわずかな表情の変化さえ逃さぬように緊張と緩和を繰り返す。さらに、この動作全体を包むのは感情の波だ。怒りが燃え盛っていた炎は、今や静かに燃える薪火のように落ち着き、その周囲には前線の嵐のような冷静さと決意が渦巻く。

 

 こうして構築した膨大で濃密な行動描写を、ボクは【モーションアシスト】に向けて一気に叩き込む。すると、アシストはボクの意図を完璧に読み取り、ボクの身体を理想的な軌跡へ導く。

 

 その刹那、ボクの身体は絹のように滑らかに動き、拳の軌道がカラダを掠めた。

 

「はぁっ!?」

 

 ボクの動きは完全に光速を凌駕していた。影すらも置き去りにして、軽やかなステップで荒罹崇(こうらすう)さんの背後に回り込む。そして【フェアリーストームワンド】を勢いよく叩きつけた。

 

「【エレウテリア】!」

 

 次の瞬間、膨大な風のエネルギーが杖先に集まる。空気が擦り切れて青白い火花が弾け飛び――世界そのものを震撼させる大爆発が巻き起こった。

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