卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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12章 peace 不安定な世界の狭間で
第469話 ログイン自粛


「みなさーん、こんにちはー!卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる、略してきゅーてくちゃんねるにようこそー!!」

 

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>この状況で配信を始めるのか……

 

>平常運転で草

 

>チャンネル登録外しました

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 コメント欄にはいつものように否定的な書き込みが流れてくる。

 

 たしかに空が紫色に染まっていて、天変地異の前触れかと思ったが、ニュースサイトを見る限りではそれ以外の異常は起きていないようだった。だから安心して今日もゲームをしようとログインしたのだけど……どうやらボクのような楽観的な見方は少数派らしい。

 

 ここは【ディスポサル城下町】の噴水前。いつもなら観光系のプレイヤーや死に戻りしたプレイヤーたちが行き交う過密地帯なのだけど、見渡す限りではずいぶんと過疎っているようだ。

 

「メグさんは……ログインしていないですね。めりぃさんも不在のようです」

 

 今日はメグさんと一緒に【『アイテール』】の検証をしようと思っていたのだけど、出鼻をくじかれてしまった。

 

 ボクの知り合いでログインしているのは、灑智やとがみんを除けばゆうたさんくらいだ。

 

 【フレンドリスト】を確認していると、頭の上にどしんと何かが乗ってきた。とがみんだ。

 

「今日はどうしたんだろうねー♥」

 

「うーん、何かが起きたということはないみたいなんですけどねー。強いて言うならユーキさんが『理由は言えないけどログインを控えるように』と通知してるくらいですかね」

 

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>絶対それだろ

 

>ヤバくて草

 

>なんでおまえらログインしてるんだよ

 

>狂人かな?

 

>ログインを控えてほしいならサーバーを閉鎖しろ定期

 

>そんな定期はない

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 頭の上でくつろぐとがみんを撫で回しながら思案する。コメント欄に書かれている通り、サーバーを閉鎖していないのだから、絶対にログインしてはいけないというわけではないのだろう。

 

 可能性はいくつも思いつくが、気にしても仕方ない。メグさんはいないものの、当初の予定どおり進めることにした。

 

「それではいつもどおり始めていきますよ!まずはつい先日手に入れた【『アイテール』】を使って遊んでいこうかと思います」

 

 ボクが左腕を掲げると、中指の【空神の指輪】がきらりと煌めく。

 

 これまでの例を見るに【黄金の才(ユニークスキル)】は他のスキルよりも優れた裁定を持つことが多い。ボクは環境の変化に負けて不遇スキルと化してしまった【『アイテール』】にも、別の側面で優秀な要素があるのではないかと考えている。

 

 もちろん検証の結果【『アイテール』】が疑いようのない産廃スキルだったとしても、指輪の性能だけで大会環境でも戦えるのは明白だ。

 

「というわけでさっそく使ってみましょう。ほら、とがみん。降りて降りて」

 

「えー、このままがいいー♥」

 

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>かわいい

 

>とがみんのせいで間違ってチャンネル登録してしまった

 

>おみみをひっぱりたい

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「仕方ないですね……。振り落とされないようにしてくださいね?」

 

 落ちたところでダメージもなく痛くもないのだけど、声をかけておく。それからぴょんと跳ねて【『アイテール』】を起動してみた。靴裏に緑色の光が集まり、見えない床を蹴り飛ばしたかのような感触が返ってくる。

 

 操作感覚としては【エアジャンプ】とほぼ同じだ。回数制限がなくなった【エアジャンプ】にすぎず、飛距離にも違いはない。

 

 【エアジャンプ】は能動(アクティブ)スキルであり、【『アイテール』】は受動(パッシブ)スキルであるという点も重要だ。このゲームのシステムでは能動(アクティブ)スキルの詠唱中にほかの能動(アクティブ)スキルを発動できないので、【エアジャンプ】では飛び続けながら詠唱できない。

 

 しかし【『アイテール』】は受動(パッシブ)スキルなので、ほかのあらゆるアクションに挟み込むことができる。〈ロードウィング〉のテクニックと比較するなら圧倒的なアドバンテージだ。

 

 しかし現環境のプレイヤーは【エアジャンプ】を使わずとも空を飛べる。空気を固めて足場にする疑似的な跳躍も、風の操作による飛行も、なんなら重力制御すらも能動(アクティブ)スキル不要で自由自在だ。そんな環境下において受動(パッシブ)スキルであることの優位性はほとんど意味をなさない。

 

 地面にすたっと着地し、ボクは視聴者に現時点での評価を伝える。たしかにこのスキルは【黄金の才(ユニークスキル)】としてはあまりにも弱い。

 

 しかしそんなことはわかりきっていたことだ。猫姫さんへの返金処理が成立した時点で、運営ですら【『アイテール』】の微妙な性能を認めていることになるのだから。

 

「【エアジャンプ】と同時に起動してみるのはどうかな♥」

 

「いいですね、さっそく試してみましょう」

 

 というわけで試してみたが、特に違いは出ないことがわかった。二重の跳躍で飛距離が伸びるかと思ったけれど、そんな様子はない。

 

「うーん、【エアジャンプ】側の処理より【『アイテール』】が優先されて打ち消されている気がしますね。スキルの挙動を部分的にキャンセルする性質があるのかも?」

 

【『アイテール』】

[パッシブ][パーミッション][オーソリティ]

効果:[あらゆる][条件]を[無視]して[ジャンプ]ができる。

 

 スキルの説明にある『あらゆる条件を無視して』という文言が作用している気がする。ほかのアクションと衝突すると、【『アイテール』】が優先される仕様になっているのかも?ある意味では典型的な【黄金の才(ユニークスキル)】としての優遇処理なのかもしれない。

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