卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第471話 恐怖を超える恐怖

 とがみんにそう言われて少し考え込み、前言を撤回する。たしかに、このゲームならなんでもありだ。もっと緊張感を持たないといけませんね。

 

 そんな話をしながら玉座の間へと近づき、扉をすり抜けると――。

 

 そこには地獄が広がっていた。

 

 無数のプレイヤーたちが倒れ伏し、山のように積み重なっている。絨毯には赤黒いしみのようなものがこびりつき、凄惨な現場を思わせる。

 

 部屋の中央には名状しがたい混沌とした『異形』の姿があった。

 

 13本の触手をしなやかに曲げてプレイヤーたちを掴み、積み重ねていく。

 

 黄金色の瞳を輝かせながら楽しげに人を積み上げていく『異形』の姿を、ボクは呆然と見つめていた。

 

「なるほど……これはログイン自粛が推奨されるわけですね。相当に強力な『恐怖』の根源を感じますよ」

 

 ただしこれまでの例に漏れず、今回の『異形』さんも割と友好的な存在らしい。気絶していないボクらの姿を視界にとらえると、楽しそうに触手を振ってくる。

 

「こんにちはー!」

 

「意外と普通に喋れるんですね!?」

 

「やっほー♥わたしはとがみんだよ♥」

 

 とがみんが帝王龍さんから降り、とことこ『異形』さんの元へ近寄っていく。さすが明日香さんの意志を継いでいるだけあって、物怖じしませんね。

 

 とがみんが近づくと、『異形』さんは触手を慎重に動かして彼女の頭をそっと撫でる。

 

「わわっ、ふわふわだー!かわいいー!」

 

「毒気が抜かれるような性格してんなァ……」

 

「ですね。周囲に撒き散らされる恐怖の根源と性格は相関関係にないようです」

 

 本人はいたって無害のようだが、周囲にもたらす迷惑は計り知れない。視聴者さんはほぼ壊滅状態で、コメントは散発的にしか流れない。

 

 いつもの流れだと何度か気絶しているうちに慣れてくるものなのだけど、恐怖の出力がインフレするたびに同じことを繰り返すのも面倒ですよね。

 

「とがみん、いい感じに恐怖のオーラを抑え込むテクニックとか開発できないんですか?」

 

「そんなの知らないよー。荒罹崇こそ、〈呪い(まじない)〉とかいうのを使えるらしいし、やってみたら?」

 

「確かに〈呪い(まじない)〉の力と『異形』のオーラは非常に近しい関係のようですが……別にボクは〈呪い(まじない)〉の専門家でも『異形』の専門家でもないんですよー」

 

 どちらかと言えば、明日香さんに近いとがみんの方が向いていると思う、と言外に告げると、彼女は「むむむ……」と声に出しながら悩み始める。

 

「そんなに悩むことじゃねェよ。この程度なら力技で解決可能だ。『確信』さえあればな」

 

「ほう、その心は?」

 

「俺が【『クロノス』】と関係なしに時間を止められるのはそう『確信』しているからだ。『できるはず』や『できる』の領域を越えて『できないほうがおかしい』と思っている。『確信』があればできちまうのさ。理屈ってのは『確信』に対する補強材料に過ぎねェ」

 

 要はできるという『確信』さえあればなんでもできる。アドバイスというより持論のようだけど、わからなくもない話だ。システムを曲げられる〈魂の言葉(ソウルワード)〉と、システムに準ずる〈魂の言葉(ソウルワード)〉の違いは、そこにあるような気がする。

 

「つまり理屈はいいから気合でなんとかしろってこと?無理だよー♥わたし、荒罹崇と同じで理屈屋だもん」

 

 ボクが生み出した〈魂の言葉(ソウルワード)〉は基本的にシステムに準じたものが多いですからね。これは性格的な問題なのでしょう。

 

「なら俺がやれってことかァ?仕方ねえな……」

 

 そう言うと帝王龍さんはゆっくりと『異形』さんに近づく。『異形』さんは握手をしたいと言わんばかりに触手を伸ばした。

 

 彼は触手に手を触れながらゆっくりと目を閉じる。すると――。

 

「オーラが消えていく……?」

 

 『異形』さんを包み込む恐怖のオーラが急速にしぼんでいく。ボクはその事実に驚愕した。

 

 これが〈魂の言葉(ソウルワード)〉による事象なら、まだわかる。その人の強い信念が込められた言葉が絶大な効果をもたらすというのは直感に沿っているし、時に『確信』に近い信頼性を感じられるのも理屈に沿っている。

 

 しかし帝王龍さんが行った今の動作に信念はない。別に『異形』さんを救おうという強い信念があるわけでもなければ、以前に似たようなことをしたことがあるようでもない。なんのつながりもない事象にまで強い『確信』を抱いているのだ。

 

 その『確信』は常軌を逸しており、時代が違えば迫害の対象にすらなりかねない。

 

「だからこそ、時間を止められるのでしょうね」

 

 もはやテクニックの域ではなく、『意志』の力によるゴリ押しだ。こんなことができる存在を敵に回していたのかと、恐怖すら覚える。

 

 この芸当は〈ロールプレイング〉で模倣することすらできそうにない。理屈上はできるのだろうけれど、脳が理解を拒んでいる。これはさすがに――。

 

「なるほど、そんな感じか。あとで試してみよっと♥」

 

「あァ。試すといいぜ。やってみりゃ意外と当たり前に簡単なことだ。無論、これにもからくりがあるんだがな」

 

 ……さすがはとがみんですね。

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