卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第497話 常識バリア

 あきなさんの思いを汲み取ったボクたちは、ダンジョン探索を中断して、男の再来を待つことにした。先ほどもあきなさんを狙うためだけに潜っていたのだから、すぐにでもやってくるだろう。

 

「……」

 

 沈黙が場を支配する。何気ない日常会話を続けてもよいのだが、あきなさんは何やら深く考え込んでいるらしい。その思考を邪魔しないように、自然と口数が減っていった。

 

 この場にいるのは6人だ。プレイヤー間の対立に口出しをしないよう地蔵になっているアリンドさんを含めなくても、数的優位は明白だ。もしかすると相手も警戒しているかもしれない。だが、あの性格であれば構わずに突っ込んでくるだろう。今回に限っては信頼性の低い〈ロールプレイング〉が導き出した結論ではあるが、そう間違ってはいないはずだ。

 

 ダンジョンすら空気を読んでいるのか、モンスターたちがさりげなく遠ざかっていく気配を感じ取れる。この辺りのモンスターは中身入りではなかったはずだが、統括する管理AIのようなものが存在するのだろうか。あるいはユーキさんやアリンドさんの仕業かもしれない。

 

 しばしの静寂の後、ついに状況が動く。男がボクたちの前に出現する。

 

 戦いが目的であれば即座に攻撃を仕掛けることもできる。でもそれでは意味がない。ここで全損させたところで、ゲーム的には一切のペナルティがない。

 

「僕を待ち構えていたみたいだね?」

 

「――ねぇ、なんでわたしを狙おうとするの?わたし、わるいことしてないよ!それならお父さんを攻撃すればいいじゃん!」

 

 あきなさんが触手をかすかに揺らめかせながら叫ぶ。そう、彼女は人類に一切の危害を加えていない。それどころか、父であるグャギゼウスさんを説得し、その蛮行を止めてくれたのだ。彼女の言う通り、グャギゼウスさんを恨むならまだしも、あきなさんを責める道理は一切ない。

 

 あきなさんが問いかけると、男は嘲笑うかのように手のひらを向けた。

 

「その方が、グャギゼウスとやらが苦しむだろう?娘に説得されて侵略を止めたことで、最愛の娘を失うことになるのだから!」

 

 そう言いながら、男の手から眩く輝く漆黒の閃光が放出される。明らかに絶大なエネルギー量――だが〚エデン〛を切るまでもない。

 

「«絶対防壁»」

 

 メグさんが立ちふさがるように前に出て、【ストレージ】から取り出したダンジョンの壁を突き出す。先ほどはその余波だけでダメージを受け、【マクロ】の原則すら打ち破って後退(ノックバック)を受けていたが――。

 

 衝突の瞬間、激しい爆音と共に衝撃が走る。しかしメグさんは寸分たりとも動かず、その威力を完全に殺しきった。

 

「ずいぶんとチャチな攻撃なのです。この盾は全能ごときで貫けるほど軟じゃない」

 

「……」

 

 男は無言のままメグさんを見据える。なぜ『アザトース』の力が無効化されたのか?男の中では疑問が生じているようだが、先ほどとは違う。メグさんは単純明快な答えを導き出していた。

 

 『ゲームのシステムが全能ごときに覆されるはずがない』という『確信』、それが男の絶大なる異能と呼ぶべき力を完全に封殺したのだ。

 

 本来なら起きないはずのことを『起きる』と断言して捻じ曲げる力よりも、本来なら起きないはずのことを『起きない』と断言して正常化する力の方が、掛かるコストは明らかに低い。なにせ世界の物理法則が味方してくれるのだから当たり前だ。

 

 時間を止めたり他人をログアウトさせたりなんて常識外れのことはできない。しかし常識を常識として受け入れることくらいはできる。なにせ当たり前なのだから。

 

 そうして生み出された常識という『確信』が、捻じ曲がった世界を再び解きなおす。

 

「もう少し会話を楽しみませんか?優位性が崩れた今、5対1で戦おうとするのはナンセンスでしょう。せめて支援(バフ)くらいなら掛けてもいいですよ?」

 

「……【スピードアップ】」

 

 男はボクの問いかけに支援(バフ)魔法を発動して応える。ボクはそれを肯定と受け取った。

 

「まずはお名前を伺ってもいいですか?プレイヤーネームは見えていますが、あなたの口からお聞きしたい」

 

「……पापम्だ」

 

「पापम्さんですか。読めなかったので助かります。……先ほどのやり取りで本願がグャギゼウスさんにあるのは理解しました。次の疑問なのですが、あなたはグャギゼウスさんに勝てるおつもりなのですか?」

 

 そもそもグャギゼウスさんがどのくらいすごい『異形』なのか全く知らないのだが、したり顔で尋ねる。少なくとも灑智が全面的に協力しても打倒はかなわず、ユーキさんが匙を投げるような存在であることくらいはこれまでの文脈から想像がつく。

 

「勝てるかどうかは関係ないだろう」

 

 その返答から、〈ロールプレイング〉で導き出した答えと大筋で違わないことを改めて確認する。पापम्さんはグャギゼウスさんに勝てないと考えている。その上であきなさんなら殺せそうだから、せめて一矢を報いようとしているのだ。

 

「それは人類を巻き込んだ盛大な心中ということですか?仮にあきなさんが死んだら、グャギゼウスさんは一切の慈悲もなくこの世界を葬ることでしょう」

 

「」はごめんだなーそういうの。あきなちゃんがかわいそうだよ」

 

 世界ごと葬られるという仮定を持ち出したにもかかわらず、」さんはあくまであきなさんのことを心配しているようだ。あきなさんにむぎゅーっと抱きついて、反対の意思を示している。

 

「」ちゃん……」

 

「わたくしも反対ですわね。まあ当たり前の意見ですの。理由を述べるまでもありませんわ」

 

 पापम्さんにとっては完全に四面楚歌なこの状況。ボクは〈ロールプレイング〉を働かせながら出方を待つ。彼の深層心理を解析しつつ、過去の記憶を遡っていく。

 

 そしてボクが()()()()()()()()()()()と同時に、पापम्さんが動いた。




テクニックその146『常識バリア』
時にこのゲームでは常識に当てはまらない不合理な事象が生ずることがあります。そんな不可解な現象を「冷静に考えればそんな事は起きない」と否定することにより、封殺するテクニックです。なお既に世の中に浸透してしまった事象は「起きることもあるよな」と思ってしまうので無効化出来ません。
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