卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第498話 混滅瘴気

 そしてボクが()()()()()()()()()()()と同時に、पापम्さんが動いた。

 

 地面を力強く踏み鳴らした瞬間、世界が壊れたかと錯覚するほどの振動がダンジョンを揺らす。その衝撃だけで空気が激しく発熱し、大爆発を引き起こしかけたが――。

 

 次の瞬間、空間はぴたりと静止する。先ほどまでの騒ぎが嘘のようだ。

 

「«空間掌握»――なのです!」

 

 メグさんが周囲の空気を【キネシス】で制御し、【マクロ】の絶対的な強制力で振動を遮断したのだ。

 

 危ないところだった。〈ロールプレイング〉に気を取られていて、自分では対応が間に合わなかった。メグさんに心の中で感謝しつつ、入手した情報を手がかりに考察を続ける。

 

 この男、浅すぎる。過去の記憶が明らかに断絶している。こんな短時間で『底』まで読み切れるとは思わなかった。まるで1か月前にこの世界へ生まれ落ちたばかりなのかと疑うほど、記憶の絶対量が少ない。

 

 思えば過去にもこんな人に遭遇したことがある。

 

 それはボクの人格を転写されたプレイヤーだ。『転式学院』による人格の上書きと非常に近しい状態――。

 

 考察の合間にも事態は進んでいく。

 

「お父さんが悪いのはわかってるよ!それならわたしが説得する!みんなと仲良くできるように頑張るから!」

 

「あきなさんがここまで言ってるんですのよ、話くらい聞いてもいいと思いません?」

 

 あきなさんと猫姫さんが声を張り上げる。今回の目的はバトルの勝利ではなくपापम्さんとの対話だ。だから防衛に徹しつつ、言葉による説得を試みるが――पापम्さんがびしりと右手の指を突き出すと、指先を起点として多大な引力が生ずる。

 

 ボクの《『心眼』》が彼の指先を捉えた。これは全能由来の攻撃ではない。〈改造行為(チート)〉によって備え付けられた〘重力制御装置〙だ。しかも本人にはこれが単なる改造行為である自覚がない。自身が持つ固有の能力だと『確信』して振るっている。

 

 〈コンフィデンス〉で引き上げられたその力は、本来の改造機構としての構造限界を無視し、あきなさんだけを引き寄せる。

 

 それを見た猫姫さんが【夜のトロイメライ】の詠唱を始めた。その詠唱だけであきなさんの物質干渉力が大幅に増し、あきなさんは触手を地面に突き刺してその場に踏みとどまる。

 

 【パーティ】メンバーへの幅広い支援(バフ)の適用は純【バード】(ビルド)の十八番。スキルが発動する前の詠唱だけで、ここまで場を整えるのはさすがというほかない。

 

 しかしあきなさんの身体そのものは引き寄せられなかったものの、पापम्さんの指先には膨大な力が集められていた。それは『異形』の持つ力の根源、オーラだ。あきなさんが体内に秘めていた圧倒的なエネルギーが一瞬で奪い取られたのだ。

 

 それを見たボクは即座に〈魂の言葉(ソウルワード)〉を告げる。

 

「《SANチェック》、です」

 

「――ッ!」

 

 次の瞬間、पापम्さんの指先に集まったオーラから、説明のつかない恐怖の根源が放出される。最大出力で恐怖を呼び起こすだけの〈魂の言葉(ソウルワード)〉だが、明日香さん直伝なだけあって『異形』の力とはすこぶる相性が良い。ボクがコントロールしているオーラではないにもかかわらず、この瞬間だけは我が物のように扱える。

 

 仲間を怖がらせることなく、पापम्さんだけに狙いを定めて打ち放たれた恐怖の思念は、彼を一瞬だけのけぞらせる――だが、刹那のうちに精神を立て直すと、掌で勢いよくそれを握り潰した。पापम्さんに潰されたオーラは彼の体内に沈み込み、血液とともに循環し始めた。

 

「取り込まれた、です……!?」

 

「お返しだ!」

 

 पापम्さんが腕を横薙ぎに振るうと、血のように紅く、どす黒い瘴気がボクたちに向けて放たれる。一目見てわかった。あれは『異形』のオーラを蒸留させた、質量を持たない霊的な攻撃だ。物理で押し返すことはできない!

 

 「メグさん、下がって!」とボクが言うまでもなく、彼女はバックステッポで後方に下がり、代わりにボクが前へと躍り出る。そして正面からその瘴気を受け止めた。

 

「くっ……!――あれ、なにもない」

 

 瘴気は触れるや否や急速に勢いを弱めていき、ボクを優しく包み込む。見た目に反して、他者を傷つけるような害意をまるで帯びていない。むしろ優しさすらこみ上げてくるくらいだ。オーラを媒介にした《SANチェック》の効力が薄かったのも、おそらくはそのせいだろう。

 

「はぁ!?嘘だろ、『混滅瘴気』を受けて――」

 

「大層な名前をつけたものですが、取り込むオーラを間違えましたね」

 

 この瘴気はオーラを蒸留したもののようだが、ボクからすればまだ甘い。かすかに恐怖の雑味が残っている。

 

「《イグニッション》」

 

 魂の言葉を口にすると同時に、瘴気はさらに蒸留され、純度100%のやさしいオーラとして完成した。帝王龍さんの言うとおり、案外やればできるものですね。

 

「お返しですっ!」

 

 ボクが腕を前に突き出すと同時に、見た目だけは邪悪な瘴気が宙を駆け抜ける。

 

「ちっ――」

 

 पापम्さんが指を弾くと『混滅瘴気』とやらが再び放たれるが、純度の低いオーラで打ち破れるはずがない。ボクの放ったやさしいオーラが一瞬にして上回り、पापम्さんの全身を包み込む。

 

「うぐっ……!?」

 

 瘴気を受けたपापम्さんは短く呻き、その場にしゃがみ込む。

 

「しょうぶ、あったかなー? みてただけだったねー」

 

「いえいえ、そこにいるだけで安心感が段違いでしたよ」




マクロその19 『空間掌握』
気体系のアイテムを事前に撒いておき、それを【キネシス】で制御、さらに【マクロ】の優先力で空間に固定することによって衝撃を完全に無効化する【マクロ】です。

改造行為(チート)その9 『重力制御装置』
思念入力によって重力を自在に操る〈改造行為(チート)〉です。全能でも似たような事はできますが、これの場合は予備動作なしにコントロールできます。攻撃の衝撃を強めたり、反重力で弾き飛ばしたりと地味ではありますが利便性も高そうですよ。
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