卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「ひさびさに、公園にでも行ってみましょうかね?」
物事に行き詰まったとき、公園に行くと状況が進展することがある。これまでの経験則ではそうだった。ボクが悩んでいるときは、その事態にユーキさんが絡んでいることが多く、彼女に出会える確率も高いからだ。
家を出て5分くらいのところにある『テレポーター』に乗り込んだ。ボタンを操作すると、あっという間に瞬間移動し、いつもの公園にたどり着いた。
近年は人間とAIの関わりの場である『ARスポット』も増加傾向にあり、わざわざ公園に行かなくてもAIが普通に道を歩いていることも多い。けれど、目的もなくふらりと来るには、やっぱりここが最適だ。
しかし、いつ訪れても大盛況だったはずの公園が、今回に限ってはやけに閑散としている。グャギゼウスさんの影響だろうか?それでも、誰もいないというわけではなく、ぽつりぽつりと談笑している人が見受けられる。とはいえ、ユーキさんはいなさそうだ。
「外しちゃいましたかね?」
と、ひとりごとをこぼしつつ、ユーキさんがよく座っていたベンチに腰を下ろす。まあ当ては外れたが、ここでのんびりするのも悪くはない。たまには太陽の光を浴びて光合成でもしてみようか。
浴びた光をエネルギーに変換しようと試行錯誤していると、ボクのほうへ誰かが近づいてくる。顔を見てすぐわかった。アクタニアさんだ。
《やぁ、久しぶりだね》
「この間も会いましたけどね。にしても、こんなところに来ているとは思いませんでした」
ここ最近は『異形』との融和に向けた取り組みが進んでいるが、それでも現実世界で彼らを見かけることはあまり多くない。日本はともかく海外ではまだ反発の大きいところもあるようだし、まずは電脳世界で慣れてから、といったところなのだろうか。
そう考えると、アクタニアさんは見た目が人間そのものなので、出歩いていても不思議ではないのかもしれない。『異形』っていう言葉のニュアンスからも、ずいぶんと外れている。
《本当に偶然だけどね。基本的に最近は大忙しさ。明日香ちゃんを手伝わないといけないからね》
「グャギゼウスさんの案件ですか?大変ですね。『異形』としては上位互換みたいなものじゃないですか。」
アクタニアさんは、命令することで万物をねじ曲げる能力を持つ。しかし、どうねじ曲げるかはねじ曲げられる側の主観によって決まり、恣意的に解釈されると不利にもつながる。手の内が割れていると意外と使いづらい能力だ。
そしてグャギゼウスさんもまた、聞くところによれば世界を自由に変えられるのだとか。詳細を聞いたことはないが、総力を挙げて戦っても勝てないと結論が出ている以上、現時点では弱点が見つかっていないのだろう。
《そもそも『あれ』が『異形』にカテゴライズされるのか疑問だけどね》
「はて、どういうことです?」
アクタニアさんはやれやれと肩をすくめながら言う。
《そもそも僕ら『異形』は"作者"によってそうあるように作られたのが始まりだろう?もともとは君と同じように下層世界の存在だったわけだ》
「なるほど、ルーツが違うというわけですか」
アクタニアさんは"作者"さんの子どもみたいなものだ。しかしアクタニアさんの口ぶりから察するに、グャギゼウスさんはもともとこの階層に存在していた人間とは異なる種族ということなのだろう。確かに成り立ちからして全然違う。
「つまり似たような能力を持っているのはたまたまということですか」
《神という概念に近づけば近づくほど、持ちうる『権能』は広く大きくなっていく。仮にあれ以上の存在がいたとしても、みんな同じような能力だろうね》
自分の好きなように万象を曲げることができる能力者がいたとして、それを超える能力が『氷系能力』とか『炎系能力』である可能性は……ないとは言わないけど低いですよね。よほどの例外的な能力でもなければ、すべてが内包されているわけですし。
「そういえばアクタニアさんはこの世界でも改竄の能力を使えますよね?それってなんでなんですか?」
ボクたちはこの現実世界の法則を忠実に反映したシミュレーターの世界の住民だった。だから基本的に、シミュレーターの世界の法則はこの世界でも何の問題もなく反映されている。しかし『異形』はそんな再現された世界とは別のルールを持つ存在なわけだ。システム的に能力を与えられたのであれば、この世界では使えなくてもおかしくはないのだけど……。現実には普通に使えている。
《考えたこともなかったね。当たり前だと思っていたよ》
「……なるほど?」
アクタニアさんの口ぶりから、なんとなく仮説が浮かんだ。
「当たり前だから、ですか」
《?》
「いやね、つい最近もありましてね。どうやら、当たり前だと思っていることは当たり前のようにできる、そういう法則があるようなんですよ」
《また怪しげなテクニックの類かい?》
「詳しい理屈はわからないんですけどね。本人が当たり前だと思っているだけで世界の法則がねじ曲がってしまう、みたいな。アクタニアさんの場合は『これまで当たり前だった』から今も当たり前になっているのかもしれませんね」
そう説明すると、アクタニアさんは顔色を変える。
《おいおい、やめてくれよ。その理屈だと、疑念を持ったら『権能』が失われてしまうんじゃないかい?ちょっと消えていないか試させてくれよ》
「んー。まぁ、安全なやつでしたらいいですよ。嫌なら拒否れますし」
《それなら……《『触手を生やせ』》》
アクタニアさんが命ずると、ボクの右肩から触手がぴょこんと伸びた。明日香さんのものとは違ってずいぶんと控えめで、きゅーとな触手ですね。色も真っ白で、なんだか神聖さすら感じられる。
「問題なさそうですね」
《そうだね。先の理屈を正しいと仮定するなら……ちょっと疑問が生じた程度で揺らぐなら、そもそも最初から現象として成立しないんだろう。理屈が何であれ、できるものはできる。これは僕にとってのアイデンティティだからね》
「よかったです。こんな雑談でアイデンティティを消滅させてしまったら、1μくらいは責任を感じちゃうところでした」