卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第502話 勝利への『確信』

「――で、こんな雑談をしに来たわけじゃないですよね。何かあったんですか?」

 

 思考を読まずともわかる。アクタニアさんはこんな会話を楽しむような『異形』ではない。ボクに用があるのだろう。おそらくグャギゼウスさんの絡みだ。

 

 グャギゼウスさんを打倒しようなんて話が持ち上がっているのかもしれない。पापम्さんは勇み足だったが、お偉方の選択肢としてはあり得る話だ。

 

《いや、本当にたまたまだけど?》

 

「あれ?」

 

 ボクの浅はかな推測は、身も蓋もない偶然の前に粉々に打ち砕かれた。

 

《もしかしたら、グャギゼウスを打倒する協力を取り付けに来たんだって思ったのかもしれないけど。それなら明日香ちゃんが来るよね?キミと僕は、そんなに深い間柄だったかい?》

 

「そうですね……。とはいえ、あなたは公園にふらりとやってくるようなタイプじゃないと思っていたのですが……」

 

《まぁ、物思いに耽りたいこともあるのさ》

 

 どうやら〈ロールプレイング〉に慣れすぎたらしい。演技抜きで他人を見抜く勘まで鈍ってきている。ズレていた推測を補正し、話を戻す。

 

「とはいえ、悩みがグャギゼウスさん絡みなのは間違いなさそうですね。正確には、事態の解決に奔走している明日香さんのことですかね?」

 

《力になってあげたいけど、どうにも力が及ばなくてね。さっきも言ってただろう?相手は僕の上位互換だ》

 

 アクタニアさんがため息をつく。しょんぼりと肩を落とす姿が、妙に物悲しい。

 

「まあ、気にしても仕方ないと思いますよ。そもそもボクはグャギゼウスさんのことをそこまで重くは見ていません。ニュースで聞いた程度の表層しか知らないからかもしれませんけどね」

 

《さすが、天才配信者サマだね。その心は?》

 

「さっきまでの話でわかったんです。アクタニアさんなら勝てるだろうなって」

 

 ボクが戦って勝てるかどうかはやってみないとわからない。けれど、アクタニアさんなら負けない。スーパーコンピュータでも何でもない。ただの人間の思考回路でも、その答えにたどり着けた。

 

《……こういうのもなんだけど、僕がキミより優れているのは『権能』の存在くらいなんだがね》

 

 ボクはふと思い出したように、肩から飛び出ていた触手を体内に戻してから、アクタニアさんの言葉にうなずく。

 

「まあ、そうですね。あなたの『権能』はタネが割れているので、少なくともボクとアクタニアさんが戦うなら、ボクが有利でしょう。逆に言えば――」

 

《グャギゼウスがタネを知っているわけがない、か》

 

 アクタニアさんの存在はなんだかんだで世に知れ渡っているが、『権能』のからくりまでは広まっていない。仮に広まっていたとしても、地球にやってきたばかりのグャギゼウスさんの耳に入るほどメジャーな情報ではない。

 

「それに加えて――まあ、わざわざ言及する必要もないか」

 

《もったいぶらないでくれよ》

 

「世界はそう簡単には終わらないということです」

 

 などともったいぶってみる。

 

《……まぁ、そういうのなら深くは聞かないよ》

 

 本当に、ずいぶん丸くなりましたね。彼が変わったというより、明日香さんが彼に優しさを見せているのだろう。

 

 

 それからは本当にたわいのない話を無駄に広げていく。アクタニアさんからは『本当にもったいぶる気なのか』という視線を感じた。けれど、言っても言わなくても関係のない話だ。

 

 すでに勝敗は確定している。アクタニアさんはグャギゼウスさんに勝てる。

 

 そもそもグャギゼウスさんが世界を終わらせようとするかどうかは定かではない。けれど、仮にそうしたとしても、世界は終わらないだろう。

 

「じゃあボクはそろそろ帰りますね」

 

《そうかい。僕はもう少し黄昏れてるとするよ》

 

 ボクがベンチから立ち上がると、代わりにアクタニアさんがそこに座った。なんだかまだ相談に乗ってほしそうな雰囲気を出しているが、気にせずとことこと家へ向かう。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー❤」

 

 家に戻ると、とがみんがベッドで寝そべっていた。

 

「おや、戻ってたんですね。『転式学院』はケリがついたんですか?」

 

「大変だったけどなんとかなったよ❤最初はぜんぜん行方を追えなかったんだけど……。荒罹崇は知ってるでしょ?『KPシステム』の管理を担当しているお医者さん。あの人が快く情報を提供してくれてね❤」

 

「あぁ、あの人ですか。いつもお世話になっていますからね」

 

 脳に知識を転写して学習を一瞬で完了させるという触れ込みの『KPシステム』は、現代でも倫理的に疑問視され続けている……。『転式学院』がそのシステムか、それに類似する仕組みを活用しているのは明白だ。

 

 『KPシステム』は国家公認のシステムであり、あのお医者さんはその運用役でもある。その人が今回の件について情報を持っているということは……。

 

「快く、という言葉に含みを感じるのですが」

 

「いやいや、比較的には快く応じてくれたよ❤お話だけで納得してもらえたし」

 

 何との比較なんですか?荒事を持ち出す場合との比較ですか?と突っ込みたくなったものの、詮索はしまい。次に会うときにちょっと気まずい気がするけど。とがみんが楽しそうにハートの感情表現(エモート)を連打しているあたり、さしたる問題ではないのだろう。

 

「最終的にはどうなったんですか?」

 

「『転式学院』自体は解体しつつ、事件はこっそり隠ぺいって感じみたいだね。まぁ、荒罹崇の配信ですでにちょっぴり漏れてるけど❤」

 

 『転式学院』の思想がお国にとって主流なのか、あるいは傍流なのかは気になるところだ。当時からユーキさんとは別口で動いていたあたりを見るに、一枚岩ではなさそうだけど……。

 

「まぁ、ボクたちは暴露系配信者ではないですからね。わざわざ虎の尾を踏むようなことはしなくていいでしょう」

 

 これまでも散々踏みつけてきた記憶はあるが、ゲームと全く関わりのない闇にいちいち首を突っ込むほどの正義感はない。今までのすべてはゲームと知り合いを人質に取られていたが故の選択だ。

 

 そういう意味では、世界が終わればゲームもできないのだけど……。今回は本当に出る幕がないですからね。

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