卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第503話 傍観者

「そういえば、灑智は戻ってきてないんですね。一緒じゃなかったんですか?」

 

「そうだね。出るのは一緒だったけど、今は別件みたい?」

 

 とがみんがベッドに寝そべったまま返事をしてくれる。あまり心配はしていないようだ。まあ灑智はボクやとがみんよりよっぽど生存力に長けていますからね。

 

 ボクが椅子に腰を下ろし、【フォッダー】の情報を眺めていると、窓の外が暗くなった気がした。ふと窓の外へ目を向けると、以前にも見たような紫色の空が広がっている。

 

「始まったね」

 

「ずいぶんと落ち着いているようですね」

 

 ボクはアクタニアさんと話したことで、この世界が終わらないという確信を得たわけだ。だが、とがみんはそうではないはずだ。それとなく根拠を尋ねると、とがみんはいたって正しい論理で答えてくれる。

 

「世界を終わらせるのに『予兆』がある時点で、真の意味での全能にはほど遠い。そうでしょ?」

 

 ボクたちが全能と呼んで振り回していたものも、実際には全能とはほど遠い。

 

 そんなボクたちを大きく上回る出力で全能を振るっていたपापम्さんの力ですら、全能とはほど遠い。

 

 世界を自由にねじ曲げるというカタログスペックを持つグャギゼウスさんの力もまた、真の意味での全能には遠く及ばない。

 

「そうですね、かつての"作者"さんの絶望感に比べれば、こんなのは日常に過ぎませんよ」

 

 だからこそユーキさんも今回の件には深く突っ込んではいない。【フォッダー】によって形成された人類の〈進化(エボルド)〉システムは絶好調で回転し続けている。個別にテコ入れをするまでもなく、通常運転で片がつく話だ。

 

 何気なくSNSを覗くと、自称有識者が世界の終わりを叫んでいる。人よりも多くの情報を得ているがゆえに、()()()()()に達してしまったのだろう。

 

 しかしそんな声に対する世間の反応は、だいたいこんな感じだ。

 

 

@Yamato_NaB

怖いなー、戸締まりしとこ

 

@merry_chan_775

コロッケ買ってきたよー!

 

@bodwMNa1

【悲報】世界さん、またしても終わってしまう

 

@AKC4649_

世界がもうすぐ終わるのにランクマ止められないんだけどwwwwwwww

 

 

 これはいわゆる正常性バイアスとも呼べる状態だ。どうせ世界はなんだかんだ言って終わらない。今まで大丈夫だったじゃないか。情報を正しく受け止めきれないまま、ボクやとがみんもまた少なからず同じ思考回路に陥っている。

 

 

 だから世界は終わらない。

 

 

 世界は終わらないと、()()してしまっている。

 

 

 ニュースメディアの配信サイトを開くと、グャギゼウスさんの様子が実況中継されていた。

 

 仮にも世界を終わらせようとする存在を前にしても、堂々とカメラを回す姿勢だ。自分だけは大丈夫だという根拠のない自信が、アナウンサーの声にも力を与えている。

 

「現場にやってまいりました!どうやらグャギゼウス氏は自身のご息女であるあきなさんがゲーム内でいじめを受けていたことをきっかけに、世界を滅ぼすことを決定したようです!」

 

「やめてよ!ゲームなんだから、別にいいじゃん!」

 

 中継では巨大な触手を持つグャギゼウスさんと、小さな触手のあきなさんが話し合っている。しかし、以前は耳を傾けていた娘の説得にも意に介さない姿勢を見せている。

 

「Akyeinaよ。この世界に拘る必要などないではないか。そんなに羽虫と仲を深めたいのであれば、俺が新しい世界を作ってやろう」

 

「そうじゃない、そうじゃないんだよ!」

 

 あきなさんは心優しい『異形』だが、弁舌に優れているというわけじゃない。感情論で動くグャギゼウスさんに、感情をぶつけても意味はないだろう。

 

 しかしそこに一人の『異形』が現れる。

 

「……あれは!ご覧ください!アクタニアです!自称、この世界の神として名を馳せる変質者がこの場に現れました!何をしようというのでしょうか!」

 

《……変質者呼ばわりはやめてもらえるかい?》

 

 そんなアナウンサーの張り上げた解説を聞き、グャギゼウスさんがアクタニアに視線を向ける。

 

「……雑魚か。その程度の力で神を僭称するとは。恥を知れ」

 

《僕の名前は『ActorNya』だ。ずいぶん前に神を名乗るのもやめたつもりなんだけどね。悪名は75日どころじゃ収まらないらしい》

 

 強大な力を持つグャギゼウスさんを前にしても、アクタニアさんは棒立ちのまま構える。

 

「で、なぜ俺の前に現れた?まさか、この俺を止めるとでも言うつもりか?」

 

《止めるつもりはないよ。いやね、本当に世界を終わらせることができるというのなら、ひと目見させてもらおうと思ってね。》

 

 ボクと話していたときの弱気な様子はどこに隠したのか、アクタニアさんは飄々とした態度で答える。

 

《とはいえ世界が終わるなんて事象はいまだかつて見たことがない。《『そんな能力が本当にあるのかは疑わしい』》ものだけどね》

 

 アクタニアさんの挑発じみた能力の発動を受け、グャギゼウスさんは苛立ちを見せた。

 

「貴様、この俺に()()をしたな?雑魚の分際でッ!そんな矮小な『権能』で、止められると本気で思ったのか!?」

 

《まぁ、思ってなかったけど。この手の力は格下にしか通用しないのが当たり前だよね》

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