卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第505話 感謝の言葉

「もう、やめようよ、お父さん……」

 

 状況を鑑みたうえでのあきなさんの仲裁だった。決着がつかないと察しての口出しだったが、グャギゼウスさんの神経を逆なでする行為なのは言うまでもない。

 

「黙れ!こうなれば『混滅瘴気』を解放して、世界ごと消し去ってやる!」

 

 そう言うとグャギゼウスさんは周囲にどす黒いオーラを垂れ流し始めた。

 

 厳密に言えばあの力は『異形』のオーラとは別物だ。持ち主の意思に応じて性質が自在に変化する万能エネルギーだ。あきなさんの()()は、見た目の恐ろしさとは裏腹に他者を害する意思がなかった。だが、グャギゼウスさんの力はそんな生易しいものではないだろう。

 

 そして何より恐怖は『確信』を容易く上書きする。あの力が全世界に広まれば、『グャギゼウスさんの力は世界を滅ぼすまでには至らない』というこれまでの常識が否定されかねない。

 

 それでもボクはこの戦況がもはや覆るものではないと『確信』していた。

 

 無論、世界に認められた『確信』と比べて、ボクだけが抱く〈コンフィデンス〉では場の流れを大きく変えるほどの力にはなり得ない。

 

 それでも推測が的を外さない理由は――。

 

「だめ――っ!!」

 

 あきなさんがそう叫ぶと、グャギゼウスさんに勝るとも劣らない多大な()()のエネルギーが解放された。2つの力が衝突すると、瞬く間に色を塗り替えていく。

 

「なっ――」

 

 この結果になると『確信』していた理由は、あきなさんを信じていたから、そしてそれ以上に――

 

 ――あきなさんの力はグャギゼウスさんの力を超えているから。

 

「おまえ、どこからこれほどの『混滅瘴気』を――」

 

「そんなに簡単に世界を壊さないで!わたしを大事にしてくれているのはわかったけど――それならわたしの意思も大事にしてよ!」

 

 あきなさんが放った『異形』のオーラ――『混滅瘴気』は瞬く間にグャギゼウスさんの()()を塗り替えていき、やがてグャギゼウスさんそのものを包み込んだ。

 

「ぐっ!?」

 

 自らの力とは異なる『混滅瘴気』をその身に受けたグャギゼウスさんは拒否反応のようなうめき声をあげ、触手を暴れさせる。その一本一本が世界を揺るがすほどの破壊力を秘めているはずだ。だが世界はおろか地球すら揺らがず。

 

 やがて彼は触手をだらりと下げて深く沈黙した。

 

 そして長い沈黙のあと、ぽつりと呟く。

 

「Akyeina……すまなかった」

 

「謝るのはわたしじゃなく――いや、なんでもない。わたしのためでいい。わたしのために世界に優しくして」

 

 彼のプライドを傷つけるような注文は、虎の尾を踏むだけだと思ったのだろう。あきなさんはあくまで自分のためだと強調した。

 

《もしかして、僕は必要なかったかな?》

 

 おどけるように笑ったアクタニアさんだが、彼の存在は必要不可欠だった。グャギゼウスさんが触手を下げたのはあきなさんの『混滅瘴気』によるものだけではない。自身が下に見ていた存在が単なる矮小な虫けらではないと気づいたからでもあるのだ。

 

「めでたしめでたし、かな?」

 

 とがみんが配信を見ながらハートの感情表現(エモート)を浮かべた。彼女の言うとおり、もう心配はないだろう。グャギゼウスさんは憑き物が落ちたように落ち着きを取り戻した。そしてこの世界そのものが〈コンフィデンス〉の影響で硬く強靭なものと化した。

 

 またグャギゼウスさんが癇癪を起こしたとしても世界は壊れないし、そもそも壊さない。

 

「あきなさんにはお礼を言わないとですね。アクタニアさんは――明日香さんが言ってくれるでしょう」

 

 もちろん、ボクは世界の管理者でもなければ地球の守護者でもない。「世界の崩壊を防いでくれてありがとう」なんて仰々しいことを言う義理もないし、あきなさんもそれを望まないだろう。

 

 だから――ボクが言う感謝の言葉は1つだけだ。

 

 

「おはこんばんにちはー!卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる、略してきゅーてくちゃんねるにようこそー!」

 

「さあ、今日もたくさん米粒を集めるのです!」

 

「わたくしはいい加減飽きてきましたのー……」

 

 世界を揺るがす事件も無事に解決し、なんの憂いもなく【フォッダー】にのめり込める日々がやってきた。

 

「メグさん……。猫姫さんの言うとおり、いい加減米粒集めも飽きてきましたよ。息抜きに別のことをしませんか?ということで、ゲストがいます――あきなさんです!ぱちぱちぱち!」

 

「こ、こんにちはー」

 

 カメラの端に隠れていたあきなさんがおずおずと顔をのぞかせる。

 

「今日はあきなさんとメインクエストの攻略をしていこうと思います!いいですよね?メグさん!」

 

「むむ、米粒集めは急務なのですが、あきなさんと遊べるのなら致し方なしなのです!よろしくです!」

 

「わたくしも大歓迎ですわ!……ちょっと、触ってもよろしくて?」

 

 猫姫さんはそう聞くや否や、あきなさんの触手に手を伸ばして感触を確かめた。

 

「えっ、いいよ――って早っ!」

 

「わわっ、ぷにぷにでもちもちですの!やみつきになりそうですわ……」

 

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>いいなー、俺も触りたい

 

>この人痴漢です!

 

>あきなちゃんかわいい

 

>ابتسامةさんよりぷにぷにしてそう

 

>あきなさんはかわいいけど親に詰められそうで怖い

 

>卍さんがメインクエストを完走すると聞いて

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 コメント欄からは好意的なコメントが流れてくる。中にはやや否定的なコメントも含まれていたが、ボクに対するいつもの罵詈雑言に比べればよっぽど穏当だ。

 

「視聴者さんも盛り上がってますよ!今日は配信にお付き合いいただきありがとうございます!いっぱい遊びましょうね!」

 

「――うん。みんな、ありがとう!いっぱい楽しむよ!」

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