卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第510話 負属性

 ゆうたさんが立ち去るのを見送ってから、時刻を確認する。今は9時5分。大会の開始は10時からだし、まだまだ時間はある。ここはおっさんやゆうたさんを見習って、ボクたちも宣戦布告に向かうべきか。それともいろんな屋台を見て回るべきか。

 

 改めて周囲を見渡すと、いろんな人がいますね。もちろん全員が出場者というわけではないだろうが、未鑑定装備で身を固めたプレイヤーがやけに多い。いわゆるガチ勢が集まっているのがひと目でわかりますね。

 

 おや、あちらに見えるのは……。いかにも猫と言わんばかりの耳と尻尾。しかもきゅーとなメイド服だ。周囲の未鑑定装備共とは明らかに一線を画している。そしてその隣には白黒の女性用ビキニを着た大男がいる。

 

「猫ですさん!それに、新しいフォルダさんじゃないですか!」

 

「卍さん、それにメグさんか。久しぶりだね」

 

「生産系タッグってところですか?」

 

「そうなのですにゃん!戦闘特化の脳筋には負けないってところを、お見せするつもりですにゃん!」

 

 あの【サバイバル杯】を突破したわけですか。さすがですね。

 

 本来なら生産系プレイヤーが有利になるはずだった1回戦は、実際には装備の持ち込みによって純戦闘プレイヤーが跋扈する魔境と化していた。

 

 逃げ回っているだけでは最終的にダメージペナルティを抑えきれなくなるはずだ。彼らも多数のプレイヤーを相手取り、勝利報酬である【エリクサー】を使って乗り切ったはずだ。

 

「ですよね!お二人さん!戦闘系プレイヤーをばったばったとはっ倒して、【エリクサー】を集めたんでしょう?」

 

「いや、普通に超高性能の生産ポーションで凌いだのですにゃん」

「【ジョーカー】で片っ端から回復系の受動(パッシブ)を集めたら乗り切れた」

 

「それはそれで凄いですね。持ち味を存分に発揮しています」

 

「別に【エリクサー】で突破しなかったからといって、バトルが不得意なわけではないのが特に恐ろしいのです……」

 

 新しいフォルダさんについては言わずもがな。片っ端から複数の職業(クラス)のスキルを摘み食いできる【ジョーカー】を持っていれば、変幻自在で他者には真似できない特異な戦術を生み出せるはずだ。

 

 猫ですさんについては未知数にもほどがある。かつて柔軟な発想でさまざまな特異アイテムやテクニックを生み出してきた彼女のことだ、とんでもないびっくりアイテムが飛び出してくるに違いない。

 

「ここで会ったのもなにかの縁ですにゃん――」

 

「……ごくり」

 

 猫ですさんの溜めにボクは思わず唾を飲む。いったい何を――。

 

「私が生み出した最新技術の結晶を購入しませんかにゃん?」

 

「変わりませんね!ほんとうに!」

 

 猫ですさんの最新技術の結晶となれば、【ダブル杯】でも使うかもしれない彼女の手札の一つだ。もしかしたら見せ札というやつかもしれないが、なんにせよこんな日にまで売り込みをかけてくる彼女のスタイルには脱帽する。

 

「買う!買うのです!なにかはわからないけどです!」

 

「まあまあ。それを決めるのは、商品を見てからでも遅くはないですにゃん」

 

 そう言って取り出したのは半透明に煌めく剣だった。近接武器って時点で基本的にボクには無用の産物だけど……。なにやら強い冷気を放っている気がする。猫姫さんも使っていた氷属性を有する武器だろうか?

 

「これはいったい……」

 

「これは、()()()()()でできた氷の剣ですにゃん!」

 

「――とんだ挑発ですね。ボクに対するメタ装備ということですか?」

 

 負の属性という概念は以前にも目にしたことがある。負の闇属性を持つ鉱石だ。

 

 負の闇属性を持つ鉱石は直感に反して闇属性の威力を増幅させる力があった。これは、攻撃側はELMが高いほど威力が高くなり、防御側はELMが低いほどダメージが増えるという性質を反映したものだ。つまり、その鉱石を元に作られた【〈ミュージックハウス〉】は、防御側の性質を利用したアイテムということになる。

 

 翻って、この武器――凍えるほどの寒さすら感じる氷の剣は、どう考えてもELMの攻撃面を応用してくるだろう。一般的な炎属性――正の炎属性なら、ボクの柔肌を傷つけることはない。これはボクのELMが高すぎるが故の処理だ。その値が正である限り、いかにその威力が高かろうと例外にはならない。

 

 では、負の炎属性だったら?その答えは現時点では推測するしかないが、恐らく――。

 

「やった!絶対強いのです!買うのです!」

 

「メグさん!?」

 

「だって卍さんとはいつか【シングル杯】でやり合うことになるのです。買っておいて損はないのです!」

 

「まいどありですにゃん!スキルはついてないけど【三ツ葉のクローバー】は対応してますにゃん!」

 

「おっと、商売上手なのです。これは買いすぎてしまうかもです」

 

 【三ツ葉のクローバー】はスキルの付いていない装備にスキルを付与する廉価アイテムだ。だけど付与されるスキルはランダムなので、欲しいスキルを求めるならこの剣を何個も買ってガチャを引くことになるだろう。その後【四ツ葉のクローバー】で付くスキルまで含めて厳選するなら、なおさらだ。

 

 ボクを放っておいて装備の厳選を始めたメグさんを呆れた目で見つめた。

 

「ま、これすら見せ札に過ぎないということは言っておくよ」

 

 新しいフォルダさんのフォローが身にしみる。

 

「それはよかったです。とんでもないネタバレを食らったかと思っちゃいました」




テクニックその147『アイスソード』
後で聞いたところによると、【インカパタ雪原】にある【氷獄の迷宮】という所にいるボスの身体を剣の形になるように剥ぎ取ってきた武器だそうです。普通に倒しただけでは落とさないけど、うまい感じに削ることで入手できるのだとか。このゲームにおいては珍しい純然たる仕様であり単なる隠しアイテムですね。負の炎属性という唯一無二の要素があります。他の属性にもこういうのありそう。
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