卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
『はーい、みなさんお待たせしました!これより【フォッダー】公式大会の第2回戦……【ダブル杯】を開催します!』
ユーキさんの透き通るような声が会場に――いや、プレイヤーの脳裏に響き渡る。
「ついに来ましたね!」
「がんばるのです!」
メグさんは氷の剣を【ストレージ】にしまいながら強く宣言する。猫ですさんは辺りに散らばった氷の剣を拾い集めながら聞き流している。
『本当に、長らくお待たせしました。本来なら前回の【サバイバル杯】と日程を近づけるべきだったのですが、諸事情で立て込んでしまい……。しかし、今日この日を無事に迎えられたことを嬉しく思います』
ユーキさんのしみじみとした声が胸に染みる。彼女の仕事はゲームの運営だけではないですからね。グャギゼウスさんの件についても、直接的ではないにしろ一枚噛んでいたでしょうし。
「おかげで完璧な装備を整えられたよ」
新しいフォルダさんにとってはまさにその通りでしょうね。いや、どの参加者にとっても同じことだ。モラトリアムが長いほどプレイヤーは装備を整え、テクニックを極めていく。すべてのプレイヤーに等しく与えられた期間だ。そこに有利不利の概念はない。
『さて、本大会について説明させていただきます。とはいっても、基本は恒常イベントの【ダブル杯】と同じです。事前に2人組で【パーティ】を結成していただき、トーナメント方式で試合を進行していきます。トーナメントのドローは乱数によって無作為に生成され、全25ブロックで進めます』
25ブロック――ということは、最終的には50人が【シングル杯】に進めるわけですね。
『なお、現時点で2人組の【パーティ】を組んでいないプレイヤーについては、自動的にマッチングさせていただきます。無作為な決定となりますので、まだ結成がお済みでない方は速やかに【パーティ】を結成してください』
ボクたちは既に【パーティ】を結成済みだから問題はないですね。【ダブル杯】で一緒に戦う約束はしていても、システム的に【パーティ】を結成していなかった人たちへの配慮でしょう。自動マッチングに身を任せるつもりのプレイヤーもいるでしょうが。
周囲を見渡すと、相方を決めているプレイヤーがほとんどのようだ。ぽつんと孤立しているように見えても、相方が離れたところにいるだけのケースが多いと思う。
「参加者は【サバイバル杯】を突破していることが前提だから、相方を探すのに手間取った人もいるでしょうね」
だからこそ【ダブル杯】の開催に時間をとったという側面もありそうです。【サバイバル杯】の翌日にでも開催していたら、自動マッチングだらけだったことでしょう。
『最後に伝達事項です。当大会への参加に関連してプレイヤーに損害が生じたとしても、運営は一切の責任を負わないものとします。』
「……わざわざそれを言うのです?」
ユーキさんの伝達事項は【フォッダー】のプレイヤーにとっては当たり前の話だ。身体が突然〈
言われずとも分かっている。だからこそあえてこの場で言う意味が分からない。言うにしても【サバイバル杯】の時点で言うべきことでは?
ユーキさんはバグを修正しない。著しく公平性を欠いたごく一部の例外を除き、すべてを放置する。【サバイバル】というルールを根本から揺るがすアイテムの持ち込みすら許されたのが、その証拠だ。
しかし確認を放棄しているわけではないはずだ。つまり――見つけてしまったのだろう。当たり前の前置きをわざわざ口にせねばならないほどの異常な『仕様』の存在を。
『【パーティ】結成の準備時間を10分間設けます。その後、大会のプログラムが実行されますので、まだ結成がお済みでない方は速やかに対応をお願いします』
その言葉を最後にユーキさんの声は聞こえなくなった。
「ま、今さら引き下がるなんて、ありえませんけどね」
この10分は実質的な最後の休み時間だ。連続して試合がマッチングするわけではないと思うが、始まってからは気持ちを安らげる暇はないだろう。
最後の準備期間として、まず【帝神の加護】のカスタムを再確認。現時点で対象に選んでいるのは【イグニッション】と【エレウテリア】だ。【イグニッション】は消費HPを15%引き上げた代わりに
【イグニッション】
[アクティブ][キャラクター][炎属性][支援][魔法]
消費HP:40% 詠唱時間:2s 再詠唱時間:20s 効果時間:4m
効果:[キャラクター]が次に[発動]させる[スキル]の[出力]を[増加]させる
【エレウテリア】
[アクティブ][風属性][任意][任意][攻撃][魔法]
消費MP:84 詠唱時間:5s 再詠唱時間:15s
効果:[発動時][キーワード]を[2つ]まで[指定]する。[ダメージ]を[与える]。
【帝神の加護】の
確認を終えたボクはその場で足を軽く踏み鳴らし、自身の『バイオリズム』を最適な状態に整える。続けて【ストレージ】から【吸血悪鬼の妖精機関銃】を取り出す。
「【サモン・ゴブリン】」
「ゴブー!」
どす黒い血のような魔法陣からゴブ蔵が召喚される。いつも通り、元気いっぱいでなによりです。
「今日はゴブ蔵の力を借りることもありそうです。よろしくおねがいしますね?」
「ゴブゴブ!」
「~♪」
ゴブ蔵がうんうんと頷くと、銃に刺繍された妖精もそれに合わせて頷いた。妖精さんも準備万端のようだ。ボクの妖精さんにも声をかけておかないとですね。
【フェアリールビーロッド】と【フェアリーストームワンド】を取り出し、ボクは妖精さんに話しかける。
「というわけで妖精さんたち、今日は決戦の舞台ですからね。一緒に勝利を目指しましょう!」
「!」
「♪♪」
【フェアリーストームワンド】が黄緑色に光って返事をしてくれる。【フェアリールビーロッド】の妖精さんはボクの周囲を飛び回り、やる気を表明してくれた。