卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
その瞬間、負け犬さんを起点に衝撃波が生まれ、圧倒的な物質干渉力によって
オブジェクトも設定されていない真っ暗なマップ外に弾き出されたボクは、急いで戻ろうと«テレポート»を発動するが――転移距離が足りない。
【マクロ】による«テレポート»は記録の性質上、ワールドマップの範囲までなら射程に収められるが、それ以上に離れていては一度の転移で元の場所には戻れない。
それでも«テレポート»を刻むように多重起動し、すばやく戦場へ戻ったが――そこにあったのは、メグさんが光り輝く刃に貫かれる光景だった。
「メグさん!」
「――ごめん、なのですっ……」
そう言い残し、メグさんは粒子になって消えていく。メグさんも《
メグさんを刺し貫いた刃は、引き抜かれることなくそのまま軌道を滑り、今度はボクの心臓を目掛けて迫りくるが――
――明らかにこれは〈魔導〉ではない。〚アンチマジック〛では消せない!
「《«ガゼルフット»》!」
回避の意思を高らかに示しつつ、〈トンネル避け〉を試みる。なんとかすり抜けることには成功するが、いくつかの量子が刃と擦れ、傷つき、損壊していく。掠っただけなのに鋭い痛みが全身を駆け巡った。
やはりアバターを損傷させられる攻撃か――。
ボクは負け犬さんを目掛けて弾丸のように飛び出し、距離を削りながら詠唱を始める。
「〈古の炉より火の子を借りて、星の拍手で天を割り〉――」
前方から巨大な
それでも詠唱は完了した。
「〈終の夜空に咲き誇れ〉【ファイアワークス】!」
途端、会場に色とりどりの花火が打ち上がり、ボクのHPを回復していく。HPが回復しても破壊されたアバターは修復されないが、優位なフィールドを得られた。
【ファイアワークス】はボクの【アイズ・ファミリア】としての性質により、無制限の効果時間を持つ回復兼ダメージソースとなる。負け犬さんは炎属性に対する完全な耐性を持っていないようで、遅々たる減り方ながらも確実にHPゲージが削れている。
ほっと一息をついたところで、輝く稲妻がボクのすぐ真横を突き抜けた。視界の端が白く焼ける。〚ライトニングボルト-0〛だ。《ガゼルフット》の効果が残っていたのか、直撃は免れたがやはり長期戦は厳しいか。
ボクは【『アイテール』】を多段階起動しつつ加速し、上空から角度を変えながら【アンプルアロー】を撒き散らすように乱射していく。
しかし負け犬さんも回避には自信があるようだ。でたらめな乱射程度では、量子の隙間を縫うような〈トンネル避け〉でたやすく躱されてしまう。お返しとばかりに放たれる輝く刃に、ボクは戦々恐々としながらも身を捻り、ときに空中を蹴るように躱し、しばし膠着状態が続く。
ゲームに本気を出すのは結構ですが、プレイヤーに痛みを与えたうえ精神まで攻撃してくるのはやめていただきたい! ――と文句を垂れようとしたところで、《SANチェック》とだいたい同じだと思い直し、引っ込める。
「【サモン・アネモイ】!」
また最上級の召喚魔法――【アネモイ】を選んだのも、【エレウテリア】対策だろう。風属性ELMに長けた【アネモイ】なら、ボクの魔眼にも耐えきれるとの判断だ。
「【サモン・アネモイ】!」
「まさかの2体目!?」
【アネモイ】の
続いて3体目の【アネモイ】が呼び出されたところで、ボクは今起動している【エレウテリア】を中止し、改めて詠唱を始める。
「〈空行く律よ、束を解け〉【エレウテリア】!」
そして再発動した【エレウテリア】には、キーワードとして『炎属性』と『視界』を設定する。
風属性だけでは【アネモイ】を倒せなかったが、炎属性が加われば話は別だ。ボクが瞼を開けると、鋭い熱線が走り3体の【アネモイ】を一掃する。
負け犬さんが抱えている鏡も、炎属性なら反射されようが関係ない。鏡ごと焼き切るつもりで視線を叩きつけるが――
「【アームズスイッチ】」
即座に装備を換装し、炎属性への耐性装備を持ち出してくる。装備の輪郭が一瞬で入れ替わり、魔眼の熱が鈍る。やはりそう簡単にはいきませんか。
それでも炎の魔眼が齎す効果は絶大だ。負け犬さんが打ち出した輝く刃は熱に歪んで砕け、【タイダルウェイブ】の津波は正面から蒸発する。どちらも魔眼の暴威によって一瞬で相殺され、崩壊していく。
明らかにこちらが優位だが、負け犬さんの顔色は変わらない。まだ手札が残っているのか――。
ボクがそう考える間もなく、負け犬さんは腕を鋭く突き出す。同時に拳が腕から押し出され、空気を抉るように射出された。
〘ロケットパンチ〙――。確かにこの局面では有効な手筋だ。アバターはいかなる出力の攻撃を受けようとも、HPが0になるまでは損壊しない。【エレウテリア】の暴威を無視して攻撃を仕掛けるにはうってつけの選択肢だ。
負け犬さんは〘ロケットパンチ〙をそのまま突っ込ませず、大きく外側へ旋回させる。拳は魔眼の射線を避けるように弧を描き、ボクの後方へ回り込んだ。
前には負け犬さん、後ろには拳。挟み撃ち、というわけですか。