卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
負け犬さんは〘ロケットパンチ〙をそのまま突っ込ませず、大きく外側へ旋回させる。拳は魔眼の射線を避けるように横へ膨らむ軌道を描き、ボクの背後へ回り込んだ。
正面には負け犬さん、背後には拳。片方に視線を向ければ、もう片方が視界から外れる。挟み撃ちというわけですか。
今のボクが瞳から放ち続けている【エレウテリア】は炎属性と風属性の複合魔法だ。炎属性の耐性装備だけで受けきれるものではなく、ただ視界に収めているだけで確実にHPを削り取っていく。
しかし前後から波状攻撃を仕掛けられるとなれば話は別だ。負け犬さんは瞳を怪しく光らせ、ボクの正面に輝く刃を生成してこちらへ差し向ける。同時に、ボクの背後へ回り込んだ〘ロケットパンチ〙が【タイダルウェイブ】を発動させた。
まず正面の刃を止めようと炎の魔眼を向けるが、刃は勢いを落とさず宙を駆け抜けてくる。
「〚アンチマジック〛!」
やむを得ず〚アンチマジック〛を行使し、刃を消すが、その一手の代償は重い。正面の刃に視線と意識を割いた隙に、背後から大津波が背中を押し潰す勢いで迫っていた。«テレポート»で津波の範囲外へ抜けようとするが、発動がわずかに遅い。回避しきれず、HPを大きく削り取られる。
しかし【アイズ・ファミリア】は平均的な耐久力を備えたアバターだ。【メイジ】のボクなら一撃でHPが全損していただろうが、なんとか生き残った。
即座に【ファストリカバー】でHPを補いながら、視線だけは負け犬さんから外さない。
負け犬さんのHPは【エレウテリア】によって凄まじい速度で減り続けている。だが当人は身じろぎひとつせず、HPを一気に回復させる。【オートユーザー】だろう。ただ、【オートユーザー】による回復にはアイテムの
次にお相手が選んだ手は〚ライトニングボルト-0〛だった。負け犬さんの周囲に浮かぶ無数の〘ファンネル〙から、強力な稲妻がこちらへ一斉に放たれる。
〚アンチマジック〛で消されないよう、手数で勝負するつもりなのでしょうが――悪手でしたね。
ボクが視線を向け続けるだけで、雷は威力を失い、そのまま消えていく。〚ライトニングボルト〛は刃の〈魔導〉とは違い、スキルで対処できる。
背後の〘ロケットパンチ〙からも雷が撃ち込まれるが、1つなら問題ない。【『アイテール』】で空を踏み抜き、«マイクロダム»を形成。その軌道を明後日の方向へ逸らしきった。
このままいけば数秒もしないうちに削り切れる――そう思ったところで再び負け犬さんのHPが急速に回復し始める。
――やはり
そう思案していたボクの背後へ、旋回を終えた〘ロケットパンチ〙が迫りくる。
「えいやっ!」
〈トンネル避け〉では躱しきれない。そう判断したボクは、拳の進路に合わせて自ら真っ二つに分かれる。左右に割れた身体の間を拳がすり抜け、突撃は空を切った。斬られるくらいなら、自分から分かれてやる!
〘ロケットパンチ〙が通り過ぎたのを見計らい、左右に分かれた身体を引き戻し、元通りに合わさりながら【《イグニッション》】を発動させる。
たぶん1回では足りない。ここからさらに重ねる必要がある。【イグニッション】は次に発動するスキルを底上げする効果だから、本命の手を打つまでは他のスキルを使わずに凌がなければならない。
つまりスキルとしての【イグニッション】は温存する必要がある。けれど〈
旋回して戻ってきた〘ロケットパンチ〙に加え、負け犬さんも正面から刃を撃ち込んでくるが――。
「《ガゼルフット》」
その場からは動かない。〈トンネル避け〉によるミクロの動きだけで拳も刃も容易くすり抜けてみせる。
「さて、ボクはこのままタイムアップでもいいんですけど?」
「……」
ボクの挑発にも顔色ひとつ変えず、淡々と刃を射出し続ける。しかし何度繰り返されても、今のボクなら簡単に回避できる――だからこそ次の手筋がこれまでと同じはずがない。
ボクは迫りくる刃をサイドステッポで大きく横へ躱す。次の瞬間、刃は爆弾のように派手な音を立てて炸裂し、辺りに飛び散った。
「危ないですね……」
さすがに炸裂までしてくると、確実に回避できるかは怪しいところだった。でもその程度なら許容範囲内――そう思ったところでボクは思わぬ光景を目の当たりにする。
炸裂したことで生じた無数の破片が、そのままボクへ一斉に向かってきたのだ。
「わわっ」
【『アイテール』】を多段起動し、慌てて距離を取る。このスキルは
«テレポート»を起動し、さらに大きく離れる。一息つこうとするが、負け犬さんも同じように一瞬で距離を詰めてくる。
「いや、本当にタイムアップでいいんですからね? ね?」