卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第534話 自傷誘発

 【『アイテール』】を多段起動し、慌てて距離を取る。このスキルは受動(パッシブ)だから、【イグニッション】を消費せずに使えるけど――ちょっと雲行きが怪しくなってきましたね……。

 

 «テレポート»を起動し、さらに大きく離れる。一息つこうとした瞬間、負け犬さんも同じように«テレポート»で距離を詰めてくる。

 

「いや、本当にタイムアップでいいんですからね? ね?」

 

 負け犬さんは残っていた左腕を強く突き出し、手刀による斬撃を狙う。アバターそのものによる攻撃は、もっとも〈トンネル避け〉に合わせやすい。実に合理的な行動だ。

 

 しかし《イグニッション》で強化された《ガゼルフット》の前では、それすらも無意味。今度は掠ることすらなく、ミクロの動きで躱しきる。痛みを伴ってアバターを物理的に切断する攻撃なんて、何度も食らってられませんからね。

 

 攻撃を当てさせる気はさらさらないが、それでも距離を確保しておくことは大事だ。«テレポート»で軽く後ろに下がり、ふっと息を吐く。

 

「しかし――その切断能力、からくりが見えてきましたよ。つまり――」

 

 なんてボクが種明かしをしかけたところで、反射的にバックステッポでその場を離れる。その直後、ボクがいた場所に輝く刃が生成された。

 

「ちょっとちょっと! 今は軽口パートに入ろうとしてたところじゃないですか!」

 

 なんてボクの抗議もむなしく、後方に控えていた〘ロケットパンチ〙が間髪入れずに鋭い刺突を繰り出してくる。どうやらお話に付き合う気はないらしい。

 

 軽く空を踏むと、一瞬にしてボクの後ろに堅牢な鋼の壁が出現し、拳の勢いを受け止める。

 

「……っ!」

 

 さすがの負け犬さんも顔色を変える。

 

「【《イグニッション》】――見えた、と言ったでしょう?」

 

 ゲームの制約すら無視してアバターを斬り裂く。システムに反逆するような技術。はじめは『固有魔導』の類かと思っていたが、そうではない。

 

 至って単純なゲームのバグだ。

 

 前提として多くのVRMMOは現実の物理法則を忠実に再現している。だから、剣で斬られてもアバターが切断されないのは、システムによって上から抑えつけられているからに過ぎない。

 

 しかし、先ほどもボクがやってのけたように、量子単位の操作で能動的にアバターを分離することは可能だ。『合法の経路』を辿れば敵のアバターを切断することも不可能ではない。

 

 『合法の経路』とはすなわち、自傷の誘発。真に迫る斬撃を思わせることで、プレイヤー自身が傷を生み出してしまう。これまで何度も使われてきた初歩的なテクニックといえる。

 

 だからこそ、オブジェクトは斬れない。

 

「痛みを与える攻撃は精神競技(マインドスポーツ)たるこのゲームにおいて、相当な強さを持ちますが――ボクは実戦慣れしてますのでね」

 

 わかってしまえば何も怖くはない。負け犬さんが再び刃を撃ち放つが、所詮は〈魔導〉によって生成されたオブジェクト。アバターにシステム上与え得るダメージは矮小化されている。

 

 ――避けられるし、避けるまでもない。

 

 刃がボクの柔肌に当たると、軽い音を立てて弾かれる。ダメージなんて無に等しい。今までの威力の大半は自傷によるものだったのだ。

 

「《SANチェック》」

 

 お返しとばかりにボクが呟くと、負け犬さんは根源たる恐怖をその身に受ける。全身から血が弾け飛び、HPが大きく減少する。

 

 単なる精神攻撃をシステム的なダメージに変える技術としては、なかなか便利ですね。使う相手は選ばなければなりませんが。

 

 自分だけが一方的に痛みを与えられる。アバターを斬れる。そんな精神的支柱を打ち砕かれた負け犬さんは動くことも忘れて、地上に落下し始める。もはや全能すら制御できない状況なのだろう。少なくともこの戦闘中に立ち直ることはできそうにない。

 

 それならとボクは魔眼を閉じ、燃え盛るような炎の熱量を瞳に乗せて、再びゆっくりと開く。

 

「【エレウテリア】」

 

 【イグニッション】を2回も乗せた【エレウテリア】を矮小な耐性で防ぐことなどできるわけがない。一瞬にしてHPを全損させ、勝敗を決定づけた。

 

 『ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍&メグ LOSE:三下&負け犬』

 

 

 会場に戻ってくると、すぐにメグさんを探して辺りを見渡す。

 

「あっ、卍さん。おつかれさまなのですー」

 

「……意外と大丈夫そうですね。精神的なダメージも大きいかと思ったのですが」

 

「卍さんと同じで、あの程度の修羅場はいくつもくぐってきてるのです」

 

 アバターも完全に元通りになっているようだ。よかった。ふう、と息を吐くと、メグさんはボクをひょいと抱え上げてなでなでしてくる。今のボクは【アイズ・ファミリア】ですからね。

 

「あー、癒やされるのですー」

 

 ぱっと見は問題なさそうだが、癒やされるというなら、されるがままになっておこう。メグさんにぷにぷにされながら、ボクはそう考えた。

 

 最終戦の相手は恐らくおっさんとテトリスさんだ。撫で回されつつも、脳内では戦いをシミュレートしておかないとですね。




【『ホーラー』】
[パッシブ][パーミッション][オーソリティ]
効果:[自身]は[制限]されない。

黄金の才(ユニークスキル)その8『ホーラー』
あらゆる制限から解放される【黄金の才(ユニークスキル)】です。
この場合の制限とは『できない』という制約のことを指します。
たとえばMPが0になったときに消費MPが24の魔法を使おうとしても、本来なら発動できません。しかし【『ホーラー』】ならMPがマイナスになろうが発動できます。
一見すると地味ですが、【帝神の加護】などで多大なMP消費と引き換えに詠唱時間(キャストタイム)を短くしたり、出力を上げたりといった汎用性の高い動きが取れますよ。
ついでに再詠唱時間(リキャストタイム)も無視できるようなので、そちらも【帝神の加護】の代替リソースとして使えます。他にも両立不可能なスキルを組み合わせたりと、いろいろ便利なようですね。

テクニックその153『自傷誘発』
〈感受誘導〉の発展系ですね。真に迫る攻撃を思わせることで、アバターを損傷させたり、HPに大きなダメージを与えたりする精神系の攻撃です。基本的に【フォッダー】ではアバターが損傷することはありませんが、自らの意思で裂傷を生じさせることには制限がありません。下手をすると精神に後遺症を残すレベルの危険なテクニックですが、《SANチェック》を活用しているボクが言えたことではありませんね。
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