卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第543話 お祝い

 もちもちのパンケーキを美味しく味わい、しばしの歓談を楽しんで、今日はログアウトすることにした。

 

「それではみなさん、ご視聴ありがとうございました! 明日からはしばらく平常運転で行きたいと思います! またねー」

 

「おつかれさまなのです! 【シングル杯】では敵同士だけど、ひとまずはのんびりするのです」

 

「そうですね。現実(リアル)でも打ち上げをしましょうか。あとで連絡しますね」

 

 メグさんとは改めて祝勝会を行うことを約束して、ボクは【フォッダー】の世界から離脱する。

 

 

 視界がほんの一瞬だけ暗転したかと思うと、『VRステーション2』の中で目を覚ました。

 

「お姉様、戻られましたか」

 

 『VRステーション2』から出ると、心なしか嬉しそうな表情を見せた灑智が出迎えてくれた。

 

「灑智も無事に勝ったみたい?」

 

「はい、当然ですっ。とがみんと一緒でしたし」

 

 灑智はどちらかといえば〈魔導〉の才能に秀でたプレイヤーだ。今回は〘リアルステーション〙で戦ってたことを考えると、翼をもがれたかのような状態だった。それでも無事に最終決戦への出場権を獲得できて、ボクも嬉しい気持ちでいっぱいだ。

 

「わたしも頑張ったよ♥」

 

 灑智を褒めようと手を伸ばすと、横からとがみんがひょっこり顔を出す。仕方ないのでそのまま頭を撫でてあげると、嬉しそうに一歩下がった。

 

「あー! 先になでなでしてもらうなんて、ずるいですよっ!」

 

「はいはい、灑智もなでてあげるから落ち着いてね」

 

 灑智は一瞬だけ怒ったそぶりを見せながらぷくーっと顔を膨らませていたが、ボクが撫でるとすぐに落ち着いた。

 

 【シングル杯】が今までと同じトーナメント方式だとしたら、灑智やとがみんと戦えるとは限らないけれど――楽しみですね。

 

「今日はお祝いですねっ。私が作ってもいいですが――今回は出前を頼みました。そろそろ来る頃ですね」

 

「それっていつ頼んだの?」

 

「昨日ですっ」

 

 どうやら【ダブル杯】の前から、お祝いの手はずを整えていたらしい。

 

 最近は頼んでから10分もしないうちに料理が届くので、昨日のうちに注文しておく必要はあんまりない。願掛けの意味もあったのでしょうね。あるいは勝利への確信か。

 

 そんなことを考えていると、玄関からラーメンが投げ込まれてきて、机の上にことりと着地した。その後に続いてホールケーキが飛んでくる。

 

「来ましたね。ラーメンとケーキは相性が悪い気がしなくもないですけど」

 

「好きなものを好きなように組み合わせる、それが私の流儀ですっ」

 

 確かにラーメンもケーキも美味しいですけどね。

 

 ボクととがみんの分は塩ラーメンで、灑智は味噌ラーメンらしい。特に異存はない。ラーメンの味をどれにする?と聞かれたら、ボクは塩だ。

 

 ボクから派生した存在であるとがみんも、好みは同じらしい。「わーい❤」と喜びながら席につき、ラーメンを食べ始めた。

 

「祝勝の挨拶とかはしないんですか? いいですけどね、いつもどおりな感じで」

 

 そう言いながらボクも椅子に座って、まずはスープを一口。

 

 口に含んですぐ、既視感を覚えた。前に食べたことがあるような――あれは味噌だったか。でもコンセプトが近い。チャーシューが入っていないにもかかわらず、その存在を幻視してしまうほどのこってり感。これは――。

 

「白凰さんのラーメン、だね❤」

 

「正解ですっ」

 

 ボクよりも先に答えにたどり着いたとがみんがそう言うと、すかさず灑智が採点した。

 

「へー、白凰さんって現実(リアル)でもラーメンをやってたんですねー。うん、美味しいです!」

 

 特に、麺以外に何も入ってないところが凄い。一見すると意識高い系のラーメンにしか見えないのに、味だけで具材のイメージを大幅に補っている。

 

「冷静に考えると、ただ具材を入れればいいだけなのに、あえて引き算で勝負してくるところが凄いですね!」

 

「それ、褒めてるの?」

 

 あっという間にスープまで飲み干して、ケーキだけが残った。ケーキとラーメンを交互に食べるべきだったかもしれないと一瞬だけ考えがよぎったが、そんなことをしている人の存在は聞いたことがないので、問題ないだろう。

 

「こっちのケーキは普通のですか?」

 

 見た目には普通のいちごのケーキに見える。断面部分にもぎっしりいちごが詰まっていて、豪華そうではあるが、特殊なギミックはなさそうだ。

 

「食べてみればわかりますよ」

 

 と、灑智。ということはこちらにもなんらかの隠しダネがあるのだろう。

 

 フォークを手にとり、おそるおそる口に運んでみる。

 

 その瞬間、衝撃が走った。

 

「え、なにこれ!? 美味しい!」

 

 単純に美味しい。何が美味しいのか、言葉ではとても言い表せないのに、とてつもなく美味しい。しいて言うなら食感が凄い。溶けていくかのような柔らかさと確かな歯ごたえを両立した奇跡の一品だ。

 

 これについては似たようなものを食べた覚えはない。しいて言うなら――。

 

「しいて言うなら、猫姫さんの料理ですけど」

 

「正解ですっ」

 

「嘘でしょ!?」

 

 猫姫さんがこんな手の込んだ料理を作れるはずがない。それに彼女の能力はあくまでゲーム内のものだ。現実の料理に反映させられるはずが――。そこまで考えて気づいた。ケーキを作るのは難しいかもしれないが――。

 

「ゲーム内の能力が逆流することは理論上はあり得る、よね❤」

 

「あくまで理論上は、ですがね」

 

 【黄金の才(ユニークスキル)】は特にその傾向が強い。〈コンフィデンス〉を誘発しやすいからだ。

 

 とはいえ、実際にゲーム内の能力が現実に反映されるのを見ると、不安になってきますね……。この世界、本当に大丈夫でしょうか。

 

「でも、まぁ――」

 

 こうしてお祝いをして貰えたことを考えると、そんなことはどうでも良くなってきますね。

 

 なんか、すっごく嬉しい。

 

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