卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「みなさんおはこんにちばんはー! 卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねるにようこそー!」
今日は【ダブル杯】が終わった翌日の配信だ。メグさんとの協力関係も終わったので、久々のソロ配信ということになる。
「さて、第二回戦の【ダブル杯】が終わって、最終戦の【シングル杯】が待ち遠しいという気持ちでいっぱいな今日この頃ですが、やはりすぐに始まるというわけではないようです」
噂では1ヶ月後らしいが、出どころは公式ではなく、確かな根拠もない。個人的にはすぐにでも続けて開催してもらいたいところなのだが、運営としては引っ張りたい気持ちが強いのだろうか。
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>ぶっちゃけフォッダーの目的ってもう果たされてるからねー
>確かに
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コメント欄の言うとおり、【フォッダー】の公式大会は人を増やすための単なる呼び水であって、その目的も果たされた。今大会が続いてるのは、当初の契約が破棄されずに残っているからにすぎないのだろう。
でもボクは【フォッダー】が好きだ。だから全力で大会に臨むし、大会が終わったあともできうる限りこの世界を楽しみ続けたい。
「というわけでっ、今日のボクは【フォッダー】を楽しむ、これをコンセプトに配信していきますよ!」
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>なにが「というわけで」なんだ……
>いつもの卍さんの自己完結ムーブすこ
>日常が始まった
>また謎の侵略者が攻めてくるぞ
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謎の侵略者なんて来ません! 世界の終わりもありません! 奇想天外なバグもありません! ただ純粋に【フォッダー】を楽しんでいきましょう!
現在位置は【アンネサリーの街】の広場だ。視界には『らあめん白凰』の屋台があるが、どうやら白凰さんはいないらしい。NPCの人が代わりに営業していた。
先日のラーメンのお礼を言いたかったのだが、いないのは仕方ない。まずはラーメンを食べて落ち着こう。
「ゲーム内で白凰さんのラーメンを食べるのは久々ですねー」
「いらっしゃいませ! 新メニューもありますよ!」
にこやかに出迎えてくれた店員さんの言葉に興味を引かれる。ほう、新メニューですか。
UIからメニュー表を表示してみると、いつもの【醤油ラーメン】や【塩ラーメン】、【味噌ラーメン】が並ぶ欄の上には、目立つ赤字で【にんにくバター背脂煮干し豚骨旨辛塩チャーシューメンDX】という名前が踊っている。文字がふわふわと動いてアピールしてくるのでやたらと目につく。
他にもないかな? と視点をずらしてみると、それに合わせて文字がスライドしてきた。
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>ウザすぎて草
>凄いこってりしてそう
>でも煮干だよ
>煮干しならなんでも許されると思うな
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「この料理で最も重要なのは『チャーシューメン』であるという点でしょうね。チャーシューが入ってなくてもその存在を幻視してしまうほどのラーメンに、実際のチャーシューが入っていたら……いったいどうなってしまうんでしょう……!?」
当然ながらボクにこれを注文しないという選択肢は存在しない。さっそく口頭で頼むと、店員さんは【ストレージ】から【にんにくバター背脂煮干し豚骨旨辛塩チャーシューメンDX】を取り出して、ことんとテーブルに置いた。
「これは、すごいですね」
まず目に入ったのはバターそのものだ。ブロックが丸ごとどかんと沈んでいる。この時点で
バターの上にはチューブにんにくがこれでもかというほど盛られていて、禍々しさすら覚える。
チャーシューメンといえば最初にチャーシューを目立たせるものだと思うのだが、チャーシューはスープの底に沈んでいるようだ。バターとにんにくを溶かすために箸で軽くかき回してみると、底には売るほど詰まっていた。
麺は通常の太麺よりもさらに太い縮れ麺。うどんの領域に片足を突っ込んでいるように見える。
食事というより、これはバトルなのでは……?
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>こわい
>さすがのめりぃさんもバトル中には食べられないだろう……
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ボクは覚悟を決めて麺を持ち上げる。持ち上げる、という表現で合っていると思う。啜るための麺ではない。これはもう、スープの底から発掘するタイプの炭水化物だ。
麺に歯を立てると、まず小麦の弾力が押し返してきた。太い。強い。ラーメンの麺というより、スープで鍛えられた何かだ。噛むたびに縮れの隙間から豚骨と煮干しと背脂がじゅわっと染み出し、あとから塩気と辛味が舌を追いかけてくる。そこへ溶けたバターが丸くかぶさり、にんにくが全部を台無しにしない程度に全部を支配していた。
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>情報量が多い
>でも美味そう
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「……これは、見た目ほど雑じゃないですね」
思わずそんな感想が漏れる。濃い。重い。間違いなく重い。けれど煮干しの苦みが後を引き、次の一口へと手が伸びてしまう。罠としての完成度が高い。油の甘さで押してくるのに、魚介の香ばしさで逃げ道を作る。ずるい。かなりずるい。
底から引き上げたチャーシューは、箸でつまむだけでほろりと崩れた。肉の繊維にスープが染み込み、噛む前から脂がほどけていく。チャーシューメンを名乗るだけのことはある。いや、むしろ麺が肉に付き添っている疑惑すらある。
半分を過ぎたあたりで、額に汗がにじんできた。辛さよりも熱量がすごい。胃袋の中で小型の鍛冶場が稼働している気配がする。それでも箸は止まらない。太麺を噛み、肉を崩し、スープを少しだけ飲む。れんげに残った油膜まで、やけにきらきらして見えた。これは危険な輝きだ。その「少しだけ」が何度も積み重なって、気づけば器の底が見えていた。
最後に残ったチャーシューの欠片をすくい上げて、ボクは静かに息を吐く。
「ごちそうさまでした。名前の長さに、負けてませんでした」
食事というよりは、バトルだった。食べ物と戦ったのは初めてなので、良い経験になったと思う。
「さて、効果は……。全ステータスが+10%ですか。さらにMPの消費を削減して、スキルの出力を増加させる。それから
猫姫さんの料理にも負けていないスペックだ。個々の効果は小粒から中粒といったところだが、種類が多い。
「こちらはカロリーが多ければ多いほどに強いという料理の基礎理論を最大限に活用した一杯となっております」
店員さんの説明にも納得ですね。確かにこれまでも量が多ければ多いほどに能力が高い傾向があったが、それは厳密に言えばカロリーが関係しているということか。覚えておきましょう。
テクニックその159『カロリー理論』
【フォッダー】の料理はカロリーが多ければ多いほどに出力や効果が増加するそうです。もちろん食べるのには苦労するので、可能な限り食べやすい状態でカロリーを摂取できる料理が求められます。……恐ろしい界隈ですね。