卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
まさか、ナーフで〈
続けざまに放たれる串焼きを前に、ボクは《ガゼルフット》に頼らない回避を選ぶ。胴体を切り離しつつ、大胆に〈トカゲの尻尾避け〉で躱していく。
その間に妖精さんが女性のほうに飛んでいくが、途中で串焼きに当たってしまい、派手にふっ飛ばされていった。しばらくは戻ってこれないだろう。
「そもそもなんで串焼きなんでしょう」
「知らないの? 料理はカロリーが高いほど強いのよ」
「なるほど」
カロリーが高いほど良いのは料理効果に限った話ではないらしい。質量が小さくても、カロリーが高いほうが物理的な影響力も大きくなるようだ。とんだ物理法則ですね。
「«ガゼルフット»!」
ボクは【マクロ】のほうの«ガゼルフット»を起動しながら疾駆する。道路を強く蹴って軽く跳躍したあとは、【『アイテール』】を連打して急加速していく。
瞬く間に女性に肉薄し、力強く杖を叩きつけた。
「ソウル――」
「【リジェクション】!」
途端に女性を中心に絶大な物質干渉力の衝撃波が放たれるが、【『アイテール』】で空を足場に強引に踏みとどまる。
「【ソウルフレア】!」
スキルの宣言とともに、白銀の炎が杖先から溢れ、女性のHPを一瞬にして焼き尽くした。
戦闘が終わると、ボクはため息をつく。
「ふぅ。こういう不意打ちは苦手なんですよねー。常在戦場の心構えなんて持ってないですし」
それにしても〈
「ボクも直訴――というよりは、話を聞きに行ってみようと思います。どうしようもないことだと説明してもらえれば、納得できるかもですしね」
久々のまったり配信が打ち切りになってしまうのは心苦しいが、視聴者からのコメントも『ユーキさんを殴れ』『そもそも卍さんの配信とか興味ない』と好意的な感じだ。
「それではちょっと早いですが今回の配信はここまでにしたいと思います。ご視聴くださったみなさん、ありがとうございましたー! またねー」
最後にそう挨拶してログアウトする。
目が覚めると『VRステーション2』の中だった。すぐに扉を開けて外へ出ると、出かける準備をする。
「お姉様、おでかけですね」
「うん、ちょっと公園に行ってくる。たぶんユーキさんがいると思うから」
灑智は地味に情報通なところがあるので、今回の件についてもなにか知ってるかもしれない。けど、ユーキさんに聞きに行くのが先だろう。
ボクは部屋を出て、最寄りの『テレポーター』に向かう。
最近は〈魔導〉にもそこそこ習熟したので、わざわざ『テレポーター』を使わずとも転移できるが、基本的に
聞いたところ、装置による『テレポート』には何重もの安全機構があるらしい。だから、自前で転移できるとしても、緊急時以外は装置を使用するのだと灑智が言っていた。灑智ほどの使い手でも装置を経由するのだから、ボクもそれに従ったほうがいいだろう。
公園に辿り着くと、やけに混雑していた。イベントでもやってるのかな? と思うぐらいの人出だった。しかし、ARゲームの大会が開かれてるわけでもなければ、バーチャルアイドルのコンサートをやってるわけでもなさそうだ。ということは……。
やはりというべきか、人々の視線は公園の外れにあるベンチのほうへ集まっている。
「俺たちの【フォッダー】を返せ!」
「VRでも美味しい料理を食わせろー!」
ベンチに座っているであろうユーキさんへ苦情が飛ぶ。やはりボクと同じように抗議しに来た人たちだった。
ただし、抗議の目的は違うらしい。ゲームシステムのナーフに文句をつけに来た人ではなく、美味しい料理を食べたいというユーザーが大半みたいだ。
ある意味、すごいですね。法律違反の食事要素だけで、こんなに人気があったんだ。
中には、みかん箱の上に乗って演説している人もいる。
「【フォッダー】はどうでもいいけど、【OA-YS】にまで波及させたな! 絶対に許さない! 絶対にだ!」
【OA-YS】はユーキさんの管轄ではないと思うけど、一部は共通のシステムを使っているのだろう。【フォッダー】の巻き添えを食らってしまったみたいですね。
まさにてんやわんやの有様だ。さすがにボクも割って入る勇気はない。
しばらく公園をうろちょろしながら、成り行きを見ていると、動きがあったらしい。ざわめきがぴたりと止み、沈黙が場を支配する。
ふと見ると、ユーキさんがベンチに座ったまま空中にぷかりと浮いていた。しかも、なんか微妙に発光している。何かを説明するつもりなんだろうけど、ちょっとシュールで面白い。
そして、ユーキさんが口を開いた。
「私に言わないでください!!!! ばーか!!!!!!!!!!」
テクニックその160『カロリー爆弾』
【フォッダー】の料理はカロリーが多ければ多いほど出力や効果が増加します。つまり、投げつけたときの物理エネルギーも大幅に増します。