卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「私に言わないでください!!!! ばーか!!!!!!!!!!」
発光しながら宙に浮いて言うことではない。
「今回のナーフを決めたのは私じゃありません! 運営会社でもありません! もっと上です!」
そんなことは百も承知だが、ユーキさんは敢えて断言する。
「なにが『そろそろいいだろう』ですか!! 意に反するゲームの製作を強要しておいて!! ばーか!!!!!」
当初のユーキさんにとって【フォッダー】は不公平の存在する欠陥ゲームだった。けれど長きに渡る運営の果てに愛着が湧いたのだろう。ユーキさんの怒りが有頂天になっているのは確定的に明らかだった。
「抗議デモです! 今からみんなで国会におしかけましょう!!」
「うおおおおおお!!!」
デモされる側だったユーキさんの華麗なる誘導で瞬く間に矛先が切り替わり、国会前で抗議デモをすることになった。事前の申請とかはしていないと思う。
「えー、政治家のみなさん。君たちは包囲されています! 大人しく投降しなさーい!」
ユーキさんがノリノリで拡声器を掲げながら通達をしている。周りの野次馬も「そうだそうだー!」とか騒いでる。ボクはいかにも通りすがりの他人ですよ、という風を装いつつ、その様子を眺めていた。
やがて警備員らしき人たちが近づいてきたが、ユーキさんは堂々と拡声器を差し出した。
「あなたも一言どうぞ!」
「えっ、私もですか?」
警備員さんは困惑しながら拡声器を受け取る。
「えー……デモの許可は出ていませんので、速やかに解散してください」
「もっと魂を込めてください!」
「帰れ!!!!!!!!」
魂がこもった。
群衆は「うおおおおおお!!」と歓声を上げ、警備員さんを胴上げし始める。
「なんの集会なんですか、これ?」
しばらく眺めていると、国会議事堂の中から政治家の人が出てきた。よくは知らないけど、電脳省の大臣の人だ。VRに関する多くの規制法案の成立に尽力した人ともっぱらの評判で、ネットでは無限にボロクソ言われてる。
「今回の措置については、安全保障上やむを得ない判断でした」
まだ何も聞いていないのに、大臣は開口一番に言い訳を始めた。
「超法規的措置だとかなんとか言って【フォッダー】を作らせたのはあなたじゃないですか!!」
「その超法規的措置が終わったんですよ!!」
ユーキさんの苦言を正面から迎え撃つ政治家さん。政治家にしては歯に衣を着せない物言いだ。
「超法規的措置が無限に続くわけないでしょうが!!」
「常設化しろー!! 特権をよこせー!」
「要求が清々しいほど最低なんですよ!」
デモ隊から「政治家みたいなこと言うなー!」と心ない野次が飛んだ。政治家である。
それからしばらく中身のない罵り合いが続いたが、だんだんと大臣側の主張が弱まってきた。
「……条件を提示します」
「ほえ?」
想定していない返答を受けたユーキさんが素っ頓狂な声をあげる。
「現状における【フォッダー】のシステムはあまりにも危険です。特に精神に影響を及ぼす介入を我々は懸念しています」
「物理的には丈夫ですからね。今の人類」
「ですから、あなたにはデータを集めてもらいます。ひとまずシステムをこれまでの状態に戻し、【フォッダー】における精神の動きを監視して、分析し、結果を報告してください。あなたのことですから、不利なデータを隠蔽するようなことはないと信じております」
無許可でデモを起こすような人ではあるが、ユーキさんは相当に信頼されているらしい。【フォッダー】というシステムを通じて世界の脅威を解決した人なのだから当たり前ではあるのだが、今日のような言動を見てると違和感が凄い。
「判断を保留するということですね」
「そういうことです。これは許可ではありません。保留期間中にデータを収集して、自分自身で結論を出してください――今のシステムが安全であるか否かの」
「――承知しました。それでは準備に取りかかります」
ユーキさんはそう言うとデモ隊のほうに振り返って拡声器で告げた。
「というわけで、デモは解散とします! 一定の成果は得られました。ご協力ありがとうございました!」
ユーキさんの通達によってデモ隊は解散していく。居座ってさらなる譲歩を求めるような人もおらず、ゆっくりと自然に人混みはなくなっていった。
「さて、荒罹崇さん」
「気づいてましたか」
「いないわけがないですからね」
ユーキさんの呼びかけに応じてとことこと彼女のもとに近づく。
「これから私は検証をするつもりですが、平時の【フォッダー】を監視していても成果は得られません。そこで――あなたには、攻撃的なテストを依頼したいです」
「――攻撃的なテスト」
「あらゆる手段を用いて、他のプレイヤーに精神的な危害を加えてください。あなたがやっても壊れないなら大丈夫と太鼓判を押せます。もちろん明日香さんにも依頼をする予定です」
「それで壊れたら【フォッダー】がサービス終了! とかなりません? 大丈夫ですか?」
「大丈夫です。規制だけで済ませます。私が本気で駄々をこねれば政府すらも歯向かえません」
「……なるほど」
本気で駄々をこねれば、なんなら規制すらも跳ね除けられるのだろう。最低限の理性を持った彼女だからまだマシだが――日本における実質的な頂点は条文に縛られないらしい。