卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第59話 行動撤回

 馬に乗っためりぃさんが大きく跳躍して屋根へ飛び移り、そのまま突撃してくる。ボクはすれ違いざまに杖を打ち付け、炎を叩き込む。

 

「【ソウルフレア】……きゃっ!」

 

 かくしてスキルは発動し、杖から迸った煌めく炎がめりぃさんの馬をたちまち舐め、燃え上がらせる。ダメージを与えることはできた。しかし――。

 

「杖が弾き飛ばされた……!」

 

 耳をつんざく金属音が屋根に弾け散った。

 

 走り続ける馬に叩き込んだボクの杖は、一瞬にしてボクの手を離れて【闘技場】の端まで弾き飛ばされる。

 

 おまけに、あの武器はボクの戦術の中核を担う【ルビーロッド】。回復を炎属性に変換するあの杖がなければボクの回復能力は一気に落ちるし、杖によるELM(親和性)のステータス補正がなければ、【フルバーニング】のHP消費を相殺できない!

 

 めりぃさんはボクの横を走り抜けると大きく旋回して再びボクを目がけて突撃する。それと同時に、【ソウルフレア】によって与えたダメージはラーメンによって瞬く間に回復していき、このままではじり貧だ。

 

「くっ……<火花を散らせ>【フラムブレット】!」

 

 ボクの掌から放たれた火花がめりぃさんに命中するが、これでは回復をわずかに遅らせる程度の効果しかない。

 それに加えて炎上する【バーニングハウス】の屋根がHPを削ってくれてはいるけれど、やはり杖を回収しなければ!

 

 ボクは屋根を飛び降りて、弾き飛ばされた杖のもとへと向かう。しかし、その行動の意図を察しためりぃさんがボクよりも先に杖のもとへと向かい、その場に立ち塞がる。

 

「杖がなければHP消費の大きい炎属性魔法は使えない、だよね?」

 

「くっ……」

 

 そしてゆっくりと杖を拾い上げるめりぃさん。所有権自体はボクにあるから、他者がその効果を使うことはできないが、めりぃさんの手でがっしりと握られた【ルビーロッド】はもはや奪い返すことができない。絶大な物質干渉力によって抑え込まれているからだ。

 

 けれど――これでめりぃさんの箸の手が止まった!

 

「〈始まりの炎より生誕せし、根源たる一柱〉……」

 

 ボクが詠唱を始めると、めりぃさんは精霊たちに命令を下す。精霊たちは一斉にボクを目がけて近づいてきた。

 

「【ホームリターン】――〈灼熱の翼に風を受け、輪廻を廻る一羽の鳥よ〉」

 

 【ホームリターン】で屋根の上に転移し、詠唱を続ける。本来ならスキルの詠唱中に別のスキルを発動することはできない。けれど、【ホームリターン】はあくまでスキルではなく、自宅に備わった機能! 詠唱しながら走れるのと同じ理屈で、自在に転移できる。

 

「さすがに【サモン・フィーニクス】は撃たせられない!」

 

 めりぃさんの馬が凄まじい勢いで走り出す。精霊たちはその速度に追いつけず置き去りにされるが、代わりに瞬く間に距離を詰めてくる。

 

「〈世界の狭間より森羅万象を睥睨せし神〉」

 

「飛んでっ!」

 

 めりぃさんの指示により馬は高く跳躍し、屋根の上に飛び乗ってくる。ボクを目がけて全力の突撃、それをスキルなしで回避しなければならない!

 

「《ガゼルフット》!」

 

 《運命変転》と同じゲームからの引用だ。回避率を高める『練技』によって、身体がブレる。その場に明瞭な残像を残して突撃を回避した。

 

「残像――今回は逃したけれど、次はそうはいかないよ!」

 

 大きく旋回しながら叫ぶめりぃさん。彼女の言葉通り、残像で誤認させる程度では、このゲームでは小手先にも及ばない。【モーションアシスト】に指示を出せば、視覚情報を無視して回避行動へ身体の動きを合わせられる。

 

 けれどそんな小手先の技術が本命の戦術への大きな一助となる。

 

「〈果てなき夢幻の彼方を駆け抜け、無限の果てへと辿り着かん事を〉!」

 

 詠唱の最終段落にたどり着いたボクに迫りくるめりぃさん。どこへ逃げても当てに来る――そんな強い『意志』を感じる。

 

 だからこそ、ボクは勝てる。棒立ちで詠唱を続けるボクの真横をめりぃさんが走り抜けて――。

 

「【サモン・フィーニクス】!」

 

『ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍&ゆうた LOSE:めりぃ&屠神 明日香』

 

 

「めりぃさん……攻撃役(アタッカー)に転向したほうがいいんじゃないですか?」

 

「あたしもそう思った」

 

 試合が終わってから再び合流したボクが思わずめりぃさんにそう指摘すると、神妙な顔つきで肯定されてしまった。

 

 聞くところによると今までは一度も自分から攻撃をしたことがなかったそうで、今日あの場で初めて気づいたのだそうだ。ペット職に情熱を燃やすめりぃさんならありそうな話だ。

 

「ねぇねぇ、ところでさ。どうやってあたしの攻撃を避けたの?いや、避けたっていうか……」

 

「あれは【モーションアシスト】をわざと誤読させる手だな」

 

 あの時、ボクは一歩も動かずに棒立ちでその場に立っていた。にもかかわらず、めりぃさんは回避を前提とした動きで横道に逸れてしまったのだ。

 

「簡単ですよ。【モーションアシスト】に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけです」

 

 【モーションアシスト】がどのように最適解を思考しているのかを考えればすぐにわかる。相手の動きがわからないのに全ての動きに対応した最適解なんて打てるはずがない。

 

 つまり相手が最適解を撃つことを前提として計算しているのだ。

 

 より正確に言えば、対戦相手の【モーションアシスト】への指示を読み込み、その上で判断している。これはアクションゲームにおいてモーションより先にボタンの押下を認識して動くNPCと同じようなもので、人間を超えた判断速度を生み出すための仕組みとしては一般的だ。

 

 【サイキック】のスキルである【プレコグニション】を見ればこの仕組みは推測できるだろう。物理法則に従って放物線を描く投射攻撃であればまだしも、思考して動く人間の行動を先読みして表示することなんて、できるはずがない。

 

「つまり【モーションアシスト】は対戦相手に情報をリークしているということですね。この領域に踏み込んだ対戦環境では、複数の可能性を考慮して複数の指示を行うなどの工夫が必要になってきます」

 

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>マジかよモーションアシスト最低だな。もう自分で考えて戦うわ

 

>つまり格闘家が最強って事だな!

 

>↑人智を超越した格闘家が存在すれば確かにそうなるけど、実際にはプロの格闘家でもアシストに頼る方が強い

 

>確かに致命的な欠点ではあるけど、逆に相手の動作を見てから動くように指示を出せば問題ないんだよな?もちろん判断速度は犠牲になるが

 

>その辺りの使い分けが重要なんだな

----

 

「それにしても、さすがですわおねえさま。これで次は優勝決定戦ですよ♥」

 

「えっ、そうなの?」

 

 逆に今回の戦いを優勝決定戦にしてほしかった。前回と今回を超える死闘があるとはさすがに思えないんですけど……。

 

「あら?もっと出場者はたくさんいると思っていましたわ。もう決勝戦なんですの?」

 

「毎週開催されるような定期大会でプレイヤーを拘束するわけにはいかないからな。参加者をある程度の人数に分けて複数のトーナメントを開催しているんだ」

 

 なるほど、この大会で勝ったからといって、ゲーム全体の頂点というわけではないんですね。

 

 となると、次は楽勝ですね。ここまで数々の死闘を繰り広げてきましたが、単純に試合の組み合わせが偏っていただけでしょう。

 

「とはいえ念のためにも次の対戦相手を見てみますか……。どれどれ? プレイヤー名は『風の精霊なにかください✝業者の翼✝』さんと『りの(♀)ボスロートル〜いつものように聞かせてください〜』さん……名前長すぎないですか??」

 

----

>欲張りセットかな

 

>逆にそんな長い名前つけることが許されるシステムが酷い

 

>文字数制限なかったりして

 

>↑ねーよw

----

 

「センスある名前だねー! あたしもそういう名前にすればよかったなー」

 

「マジですか?」

 

「なんか賑やかそうじゃない?いいと思うけどなー」

 

「確かに賑やかそうなのは確かですの……」

 

「でしょ?やっぱりわかってるねー猫ちゃんは」

 

「猫ちゃん!?」

 

 猫姫さんがめりぃさんに可愛がられているのを眺めていると、明日香さんがぽつりとつぶやく。

 

「……気をつけてください」

 

 その声色から、冗談は跡形もなく消えていた。

 

「え?」

 

「私はあまりMMOに詳しくないですけれど、TRPG界隈にもいましたわ。この手のネーミングのプレイヤーは……」

 

 いつもの官能的な調子を抑え、真面目な口調でボクに警告する明日香さん。

 

「というより、このプレイヤーそのものが私の業界ではある種の有名人です。……健闘を祈っていますわ♥」

 

 MMOとTRPG。一見離れているかのように見える2つのジャンルだけど、TRPGが得意な人はこのゲームでも強い。明日香さんがそこまで言うのであれば油断できない相手だ。

 

「もしかして、そいつは――」

 

 ゆうたさんがなにかを明日香さんに問おうとしたところで決勝戦の時間が訪れ、競技エリアに飛ばされる。

 

 ボクの目の前にいるのは、本日最後の対戦相手たちだ。

 

 ネーミングセンスとは打って変わって、姿は常識的なプレイヤーだった。まあ、腕に銃でもついていない限り、おおむね常識的なのだけど。

 

 未鑑定装備に身を包んだ女性プレイヤーが2人だ。外見から戦術を予測することは困難だが、未鑑定装備の利用は対戦環境において常識とも言える。

 

 しかし――その言動は常識的ではなかった。

 

「私は風の精霊……。この地を守る四精霊の1人です」

「なにかください」

「他人にアイテムを乞うのは✝業者の翼✝ではない」

「そうですよ。神々に仕える精霊としても物乞いはふさわしい行為ではないです」

「なにかください」

 

「りの(♀)、疲れちゃったぁ。休んでいーい?」

「オデ、人間喰ウ」

「いつものように聞かせてください。嘆き叫ぶ、悲鳴のシンフォニーを」

「この人たちと一緒に戦うなんてりの(♀)はイヤなんだけどー?」

「オデ、悲シイ」

「また明日聞かせてください。心躍る、罵りの宴を」

「もしかしてマゾなの?」

 

「なんだこいつら……」

 




テクニックその48 『行動撤回』
【モーションアシスト】に「こういう行動をしたい」と指示を出しておいて、実際にはその行動を行わないというテクニックです。別名『ルート案内無視』とも言われます。無駄なことをしているようにも見えますが、これを行うと対戦相手の【モーションアシスト】が特定の指示に従って動く時に、最適解を誤認するようになります。ボクが発見したテクニックというわけではなく、【フォッダー】の上位環境では当たり前のように浸透しているようですよ。

魂の言葉(ソウルワード)その7 『ガゼルフット』
相手の攻撃を回避するという意志を込めた魂の言葉(ソウルワード)です。
自身に対する自己暗示であると同時に相手に対する〈感受誘導〉の効果があり、明瞭な残像の発生を錯覚させます。
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