卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
というわけで、先ほど通ったばかりの迷路を抜けてボス部屋の前にやってきたボクたち。
今度はボクがボスを召喚するために部屋の中央へとことこ歩みを進める。
すると先ほどと同じように魔法陣からモンスターが生成され始めたので、【テレポート】で即座に部屋の入口へ戻って、通路へ下がる。
やがて粒子が一点に集約され、巨大なゴブリンとして形成される。
ゴブリンはこちらを見据えると、どしんどしんと地響きを立てながら迫ってくる。
思わずごくりと唾を飲み込む。そしてゴブリンはボクたちの前に仁王立ちし、大木みたいな棍棒を振り下ろすと……!
ボクたちの両側にあるダンジョンの壁に阻まれ、攻撃は弾かれた。
「ふう……よし、やってやりなさい! 2人とも!」
「わかりました! えい! とりゃ!」
「ゴブゴブー!」
こちらに攻撃ができない巨大なゴブリンを2人がかりで一方的に攻撃する。
そんな絵面最悪の地形嵌め狩りが始まった――。
30分もの死闘の末、ゴブリンはゆっくりと地に倒れ伏す。
「倒しました! お姉様、やりました!!」
「お、おめでとう! ……おそらくはこの戦い方が正攻法のようですね」
一方的に嬲り続けてなお、撃破まで30分もかかる超耐久のボス。そんなのとまともにやり合えるはずがない。あるいはゴブリンを無視して次の階層へ向かうなど、方法はいくつかありそうだが、いずれにしてもガチバトルは想定されていないのだろう。
そしてゴブリンは再び粒子に姿を変え、一点に集約されていく。
とはいっても、新たなモンスターに変わるわけではない。これはボスモンスターを撃破した報酬。つまり、形成されているのはアイテムなのだ。
やがてゴブリンのいた場所に現れたのは真っ黒な鎧。光を飲み込む深淵を想起させるその鎧には、以下の効果が付与されていた。
混沌を喚ぶ大地に君臨する城塞の鎧
・闇属性に25%の補正を加える
・防御時に土属性の追加ダメージを与える
付与効果は2つ。1層のボスならこんなものだろう。そしてどちらの効果もボクたちとはシナジーがない。装備をいくつも入手して厳選していくゲームである以上、必ずしも当たりの装備が出るわけではないとわかっていたけれど、少々寂しい。
【ストレージ】にしまい込もうとすると、ゴブ蔵が騒ぎ出す。
「ゴブゴブー!」
「ん、もしかしてこの装備がほしいの?」
そうだ、と言わんばかりに首を縦に振るゴブ蔵。巨大なゴブリンのドロップ品だったから、何か思うところがあるのだろうか。
「きっとゴブ蔵に似合いますよっ!」
「といっても、性能的には今着けてる装備のほうが強いんですけどねー。でもいっか。はいゴブ蔵、あげますね」
ボクが鎧を渡すと、急いで着替え、ドヤ顔で鎧姿を披露するゴブ蔵。
続いて【女神像】を要求してきたので、【ストレージ】から出してあげる。すると、頭をひねりながら取得スキルを考え始めた。
「闇属性を扱える
【メイジ】には炎属性や水属性などの各種属性魔法がある。しかし闇属性だけは単独で成立する魔法がないのだ。
「【メイジ】の場合は既存の魔法を闇属性に変換するスキルを採用することになりますね」
【深淵たる叡智】
[アクティブ][自身][闇属性][支援][魔法]
消費MP:2 詠唱時間:2.5s 再詠唱時間:10s
効果:次に[発動]する[スキル]に[闇属性]を[追加]する。
「たとえば炎属性に特化した
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>面白そう
>いろんなスキルに属性強化を乗せられるわけか
>深淵たる叡智を毎回挟まなければならないところでバランスを取ってるのかな
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「あとは【ナイト】の場合ですが……。おっと、終わったみたいですね。この話は後にしますか」
やがて、スキルを獲得したと身振り手振りで伝えるゴブ蔵を見て、ボクは【女神像】をしまう。
「じゃあ、無事に1層は突破できましたし、今日はそろそろ終わりにしましょうか」
「あれ、まだ少し早いのでは?」
「ネットで【A-YS】の情報を調べないといけませんからね」
さすがにこの難易度のダンジョンに手探りで挑むのは難しい。少しくらいは予習しておかないと、延々と死に続けながら試行錯誤しても、突破できない可能性すらありますからね。
それに日を置けば現状の【A-YS】ショックも落ち着き、ダンジョン攻略に挑むプレイヤーも増えてくるはず。【A-YS】のことは知らないけど、【フォッダー】は6人【パーティ】制なのだから、できればフルメンバーで挑みたいよね!
「というわけで今回の配信はここまでにします! 今日もきゅーてくちゃんねるを見てくれてありがとうございました! できればみなさんも【A-YS】に来てください。またねー!」
「お疲れ様でしたー!! またお会いしましょう!!」
「ゴブー!」
そしてボクはゲームからログアウトし、
「おかえりなさい、お姉様」
「ただいまー、って……さっきまで一緒にいたのに改めて挨拶するのはなんだか面白い気がする」
「私としてはゲームの中に入っていたという感覚ではなかったですしね」
そう語る灑智の前には大きなARの仮想モニターが浮かんでいる。どうやらまだログイン中のようで、そこには【A-YS】のダンジョンの様子が映し出されていた。
そしてゴブリンの姿も見える。召喚者がログアウトしても残ってるものなんだね。召喚には効果継続時間があるからすぐにいなくなってしまうのだろうけど。
「私はもうちょっとレベル上げをしてみる予定です。お姉様は調べ物を頑張ってくださいね」
「ゴブゴブー!」
灑智の言葉を受け、ゲーム内のゴブ蔵もやる気を出しているようだ。
今日は灑智と久々に遊べて楽しかったな。そして、きっと灑智ももっと遊びたいと思ってくれているのだろう。それならお言葉に甘えて明日に向けて情報を調べないとね!
まずは【フォッダー】の情報サイトを開いて、今日起こった出来事を確認しよう。今日は1日【A-YS】にいたので、【フォッダー】側の情報も見ておかないとね。
ネットで【フォッダー】についてのまともな情報は期待できないけれど、あまりにも大きな事件なら、さすがに情報が拡散されていく。今回でいえば、異世界のことなんかも騒ぎになっているはず。あるいはそこから【A-YS】について深掘りしていくこともできるだろう。
そう思って開いたボク一押しの情報サイト『イースポマニュアル』には、異世界の話題と同じ規模で急速に拡散されているニュースがもう1つあった。
「『最狂のプロゲーマーを育成する! 転式学院』……?」
テクニックその55 『地形嵌め』
地形嵌めはゲーム界の普遍テクニック! モンスターが動けなくなったところを一方的に倒すこの戦法は、あらゆるゲームに存在するといっても過言ではありません!
MMOでは『地形嵌め』を規約違反行為と定義していることもありますね。まあ、ダメージを受けずに一方的に攻撃できたらどんな格上のモンスターでも倒せますし、バランスが壊れちゃいますから。