「ブルアカって透き通った青春学園RPGだよね?」「え?」 作:ヘイホー
つ・づ・い・た・よ〜!
初の戦闘回(?)かな?ぶっちゃけ緊張感のかけらもないけど……
あと今回なげぇぜ……
「お帰りなさい、副会長」
「ただいま〜」
サンクトゥムタワーのヘリポートにて出迎えてくれたのは、今日も今日とて凛々しいリンちゃんだ。
自分の業務だったり、今発生している問題だったり、俺の留守の代わりに色々と引き受けてくれたりと、めっちゃ忙しいであろうに出迎えてくれた。そんなリンに何だか申し訳なさを感じてしまう。
「ごめんな、リン。色々大変だったろ?それに、こんな出迎えにも来てくれて……」
「いえ、普段のあなたの業務と比べればコレぐらい……。それと少し誤解されているようなので訂正させていただきますと、私にとってあなたを支えることは
いつもの垂れた髪を長耳に掛ける癖を見せつけながら冷静に話す彼女が何とも頼もしい。流石はリンだと褒めてやりたいところだ。
「そっか。うん、やっぱりリンは本当に頼りになるなぁ〜………よっ、ウチの行政官は世界一!」
「…………煽てても何も出ませんよ」
「相変わらず仲がいいね〜。でも、そんな時間もないんでしょう〜?」
意外も意外、ここで聞く筈のない声が聞こえた。
「おぉ、モモカ。君が真面目な話をするなんて珍しいな。今日は槍でも降ってくるんじゃないか?HAHAHA」
「……いくらハヤト先輩でも言って良い事と悪い事があるよね〜?」
「ま、事実なんだけどさ〜」と言いながら“バリバリッ”とチップス独特の音を奏でて気怠げに話しかけてくるモモカも、俺にとっては日常の一部だ。
一応こんなんでも交通室所属であり、その要職である幹部です。気怠げな天才って奴だ。
「ここから約30キロ先に行くとシャーレの部室がある外郭地区に着くよ。だから迷うなんてことはないと思うけど……
ちょっ、待てぇ〜い。『副会長のことだし』は余計だったんじゃないか?
「あと、一応真っ直ぐ行けるように交通制限をかけといたよ〜。ま、どうせあそこ周辺は暴動で立ち入っている人なんていないから意味ないんだろうけどね〜」
「そんなことないさ。わざわざ動いてくれたんだろ?助かるよ」
「…………えへへっ♪」
桃色の頭を撫でてあげれば、いつものヤンチャな素ぶりはとんと大人しくなる。この子はね、意外にも甘えたがりなの。だから構ってやればちゃんと仕事をしてくれるわけ。
このじゃじゃ馬後輩を御せれば交通整備も御せると言えよう。
「……あぁ、そういえば、今回の騒動の主犯が判明いたしました」
「俺を呼び出した張本人か。誰なん?」
「『災厄の狐』─────孤坂ワカモです」
「───────スーッ」
………この時、膝を着かずorz状態にならなかった俺を誰か褒めて欲しい。
本当なら地面に背中を着けてみっともなく駄々捏ねたいのだが、男としてのプライドと『そんな時間があるなら仕事をしろ』と
……………あぁ、堪えた。堪えたが、この感情が消えたわけではない。
だから、どうか心の声で絶叫を上げることを許してはくれないか?
またお前かァァァァァァ!!!!!ワカモォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
「ありゃ?急にフリーズしたけどどうしたの?」
「たまにあることです、気にしなくても良いかと………さて」
さりげなく相手にされず涙が出そうな俺を放置して、リンは俺の後ろに黙って着いてきていた
「彼のお迎えご苦労様です────“RABBIT小隊”のみなさん」
リンの労いの言葉が出たと共に、小隊を代表するように俺の隣にやって来た小隊長────ミヤコが無表情&無感情でリンを見遣る。
この子たちはSRT特殊学園っていう超エリートな子達が集う学園の一部隊───“RABBIT小隊”だ。隊名にある通り、その頭についてあるウサ耳が特徴的なキュートでピチピチな期待の新人小隊なのである。
この子たち────というかSRT全員に言えるんだけど、マジでみんな優秀すぎてやばいんよ。俺より優秀なんじゃねぇかな?
多分、元のゲームの世界だったら超文武両道を掲げる学園だったに違いない。それかキヴォトスの政治に携われるような人材を作り出す超育成機関か。
……それがどうひん曲がったのか、今では治安維持におけるスペシャリスト集団になってしまった。なんでぇ?
「労いのお言葉は不要です、リン行政官。“彼が在る場所にSRT在り”と謳われる私たちにとっては、このようなことは日常茶飯事です。副会長が何時如何なる場所でトラブルに巻き込まれる、もしくは起こした際の救出及び援護は我々SRTの役目ですので」
「ちょっと待って。それだと俺が外出中にトラブルを誘発するトラブルメーカーみたいな扱いじゃないか」
「……?違うのですか?」
「…………」
彼女の純度100%の疑問の眼差しが痛い……!心の底から俺をトラブルメーカーだと思っているがな。
(SRTの)教えはどうなってんだ、教えは!
「事実だろ。先輩方も言ってたぞ?副会長の外出中は絶対トラブルが起きるって。そんな副会長を支えるために
「組織の趣旨違ってこない?これだとただの介護組織だよ。誰っすか、そんな嘘を言った子は」
「“FOX小隊”の先輩方」
「…………」
心当たりありすぎて何も言えねぇ……
『彼女たちが言うなら……』って納得しかけるほどにお世話になってるからな、彼女たちには。今度お稲荷さんを差し入れに持って行こ─────ってダメだわ、ニコに稲荷対決で負けちまうわ。
「い、いいんです。
「ミユの言うことは一部大袈裟だとしても、私たちの本心は大体そんな感じ。ま、
「ですが、副会長には申し訳ないですが、そちらの方が私たちも必要とされる機会が増えそうなので嬉しいです」
「だな!」
「うん……」
「………そうっすか」
……困ったな。反論しようにも、彼女たちが嬉しそうに話すもんだから何も言えないじゃないか。
どうする?『本当なら君たちはキヴォトスの政治の中心に行ける人物たちなんだよ………多分』とか言ってみるか?
………やめとこ。いよいよ頭イカれたと思われるのが関の山だ。
「副会長、雑談もここまでに。では、これから彼女たち“RABBIT小隊”の護送で外郭地区へ向かってもらいます」
そう言って目を向けるのはSRT護送用のトラック。機動性、速度を重視した為か、トラックというにはやや小柄で乗車人数も10人ほどしか入れないだろう程の大きさの車両を見ていると、こちらに何か言いたげなリンが見えてしまった。
「…………」
「どうした?」
「その……無用な心配だと思うのですが……」
俺の肩を優しく撫でる。その手付きはとても親愛的で、彼女の“
「……どうか、怪我なきように」
「────ははっ。うん、頑張ってみるよ」
とびっきりの笑顔を意識して笑いかければ、彼女の顔や肩にあった不自然な緊張に綻びが生じたことを直に感じ取る。
……ぶっちゃけ、ワカモ相手に無傷は難しいだろう……が。まぁ、俺が頑張ればいいだけだ。怪我なく終えられるように
「じゃあ“RABBIT小隊”のみんな……よろしく頼む」
『はいっ!』
─────
───
─
「みんな、大丈夫?」
私は先生としての最初の任務────私の職場となる連邦捜査部『シャーレ』の部室の奪還を目指して、暴れ回る生徒たちを抑えて何とかシャーレの部室がある建物前まで来れた。
そこで小休憩を取っているのだが、あまりみんなは疲弊していないように思える。
「まぁ、これぐらいなら全然大丈夫です」
「思ったよりも不良の生徒たちが少なかったのも功を奏しましたね」
ハスミの一言に瞠目する。ちらほら違法に流出した武器だとか聞こえたが、これでもまだ楽な方であったことに驚きが勝る。
「不良というか……アレらほぼ
「本当に短期間の寄せ集めって感じ」
「はい。そもそも、このD.U.地区という“
「しかし、その前提が崩れたのも事実です。不良生徒も年々減少傾向のあるこのキヴォトスで“彼”に楯突こうとする者なんて……それこそ七囚人か、ゲヘナの中でもとびきり野蛮で無謀な生徒しか思いつきません」
「まぁ、ゲヘナだし」
「みなさん……」
……なんとなく、ゲヘナが他校からどんな風に見られているのか分かった気がする。
「……ねぇ、“彼”ってどんな人なの?」
ここでふと、度々話に出てくる“彼”という単語が気になった。確か、この騒動もその“彼”という人が関わっていた筈だ。
私が
だから自然と男の子はいないんだって思っていたけど……明らかに異性である“彼”という単語が出ているから、私の予想は間違っていたということになる。
さて、聞いてみたはいいもののなかなか話し出してくれない────否、
少なくとも、その“彼”の話題を出したことで浮き出た紅い頬や空中に彷徨わせる照れ隠しの視線の泳ぎは、彼に一定以上の好意を抱いているのだと理解するのに十分な要素だった。
「えっと、彼は─────」
「ハヤト様のお話ですか?」
背後から聞こえるこの場の誰とも似つかない声色。咄嗟に背後を見ようとして────後ろに引かされた。
「ワカモッ!?いつ後ろに!?」
「流石は七囚人、侮れないということですか……」
私を覆い隠すように敷かれた陣営とその警戒態勢に、それらを一身に受けているだろう狐のお面の少女────ワカモは何を思うわけでもなく、ただじーっと私を見ていた。
「えーっと……何かな?」
「…………いえ、
心底落胆したように呟く彼女の言葉を拾い上げ、思わず声を掛けてしまう。
「あの方って……連邦生徒会副会長────ハヤトくんのこと?」
「───────ぐすっ」
───────え?
なに、今の音。誰かが涙ぐむ音が聞こえたんだけど。えっ、誰が……?周囲の子たちも驚いてはいるけど涙なんか流していないし……まさか、ワカモが?
「………なにがあったのよ?」
ただの暴動ではないと感じ取ったのか、ユウカが慎重に、刺激しないようにしながらも問いかけた。
「………あなたたちには関係のないこと───────」
───────ファンファンファンファン
遠くからサイレン音が鳴り響く。
私も、みんなも、ワカモも。例外なくその音がする方向へ顔を向けると───────
『あー、あーっ、んんっ。えー、こちら副会長副会長。そこにいる可愛い狐ちゃんは速やかに銃を捨てて投降しなさ〜い』
─────トラックの上に金髪の男の子が立っていた。
─────トラックの上に。
─────しかも片手にメガホン、片手に『副会長!』と記された旗を持って。
あまりにも奇想天外な登場に困惑し、実感した。あの子が……このキヴォトスのトップ────連邦生徒会副会長のハヤトくんか……
そんなことを思っていると、ふとさっきまで目の前にいた筈のワカモが消えていることに気づいた。
「ワカモは─────」
「お会いしたかったですわっ!!あなた様ァァァァァァ!!!」
絶叫にも近しい声を上げながら、まるで遠く離れていた恋人と久しく会うような手つきで
トラックの上にいるハヤトくんは
急停車による飛び降り……そんなことを感じさせないほどに安定した体幹で着地と共にスタートダッシュを成功させた彼は、一直線にワカモの元に駆け寄っていく。
─────それはもう、とても困った顔をしながら。
「嗚呼っ、あぁッ、あぁッッッ!!!本物のハヤト様が目の前に!!妄想でもなければ夢想でもないっ、正真正銘のあなた様がっ!!!」
対してワカモの表情はまさしく“狂気”────否、“
さっきまで身につけていた狐のお面を、まるで“邪魔だ”と言うように雑に脱ぎ捨てられた事で見えたその瞳は、その網膜に必死に彼の姿を灼き映しているかのようだ。
やがて2人の間の距離が縮まっていき、ワカモが第2射、第3射と発砲する───が、彼は挙動不審になることもなく
………思えば、ハヤトくんは戦闘が始まって以降、銃器を抜く素振りをまったく見せない。キヴォトスでは誰もが持っている筈の銃器をこの緊急時に抜かないことに多少違和感を覚えるが、そんな私の疑問を置いていくかのように2人は───ついに激突した。
────ドゴォォォォォン!!!
空間が破裂したかのような轟音が響き渡る。
ワカモが繰り出した踵落としを、ハヤトくんは手をクロスさせた事で難なく受け止める。しかし、それによって生じた衝撃波が辺りに散らばった灰燼を吹き上がらせた。
もはや私なんかが介入すればひとっ飛びしてしまうだろう事を窺わせるほどの戦闘を目の前で繰り広げ始め、今はただ視認するのもやっとな近接戦闘を見守ることしか出来ない。
「ワカモ……俺は悲しいよ?ちょっと前に『大人しくする』って言ってくれたのに……俺に嘘を吐いたの?」
「嘘……?いいえ、いいえッ!!先に嘘を吐いたのはあなた様でしょうっ!?」
容赦なく彼の顔に向けて乱射するワカモと、相も変わらず全て避け切るハヤトくん。彼はその後も銃器を抜く気配はなく、時折腕を使って彼女の手首を掴もうとするが、ワカモも上手く手首や手のひらを使って彼の手を逸らす。そしてまた乱射をして距離を開ける────この繰り返しだ。
援護すべきか……とは思ったけど、現にユウカたちも援護しようにも出来ないといった表情をしているので、きっと今間に入り込んだら危ないのかもしれない………素人目線だからよく分からないけどね。
「ほう?俺が嘘?清廉潔白、謹厳実直、正直正路を掲げる俺が嘘?ならどんな嘘を吐いたのか……言ってみなさい!」
執拗に手首を狙っていたハヤトくんは、突如として手首からその手に持つ銃器に狙いを定めたように回し蹴りをする────が、ワカモは分かっていたように蹴り技を繰り出して相殺する。
「わたくしっ……!私は!あなた様のお声を聞けるだけで嬉しかったッ!あなた様の瞳に私を映してくれるだけで幸せだったッ!!」
話している途中で感情が溢れ出てしまったのか、その綺麗な黄金の瞳から涙が零れ落ちてしまっている。
「なのに……!なのにあなた様は最後に会った2週間と2日目以降、私にお会いに来てくださらなかったっ!!『
「────────」
「……………」
……あれ?なんか急に雲行きが怪しくなってきたな。
もっとこう……重大な裏切りだとか、もっと大きなことかと思ったんだけど……
なにこれ?痴話喧嘩?
「あなた様ッ!!何か言ったらどうなんですのっ!!」
「っ、えっと、それは………と、とにかく落ち着いてくれっ、ワカモ!銃を置いて、2人でゆっくり話そう!?」
「そうやってまた甘い言葉を吐いて私を惑わすつもりですねっ!!言い訳なんてあなた様の手に頑丈な手錠を付けてから、私たちの愛の巣でじっくりとお聞きしますっ!!」
「随分と物騒なことを言うねッ!?────ぐっ……!」
ほんの少し動揺したのか、ハヤトくんの頬に銃弾を掠める。それを見たワカモは心を痛めたような、されど仄暗い歓喜の感情をごちゃ混ぜにしたような顔で呆然と彼の傷を眺めていた。
──────そんな両者の間に発生した僅かな間。
ほんの僅かで、瞬きほどの時間………だけど、
「ひぃん!?」
そこを狙っていたかのように、彼女の右脇腹あたりに着弾する弾丸。
咄嗟に発砲音がした方へ顔を向ければ、ウサ耳が特徴的な女の子が、オドオドしながらもしっかりと銃を構えていた。
そして、銃弾の着弾と共にワカモを挟むように左右から突撃してくるのは2人のウサ耳少女。
「RABBIT2、あまり突撃しないように!RABBIT3はドローンで撹乱を!」
「分かってる!」
『はいはいさ〜!』
上空からドローンでの銃弾攻撃、さらに左右からの弾幕でワカモは身動きが取れなくなった。
傍目から見てもよく整った連携攻撃だ。しかし、かなり対策されやすいような────詳しくいえば、どこか決まった型がある
「その校章────SRTの駄兎が……!あの駄狐共もそうでしたが、
ただ、感情が最高潮に昂っているワカモには効果覿面なようで、彼女たちの攻撃に苛立ちを積もらせるだけで反撃しようとはしていない。
ハヤトくんを優先したい……だけど、小蠅のように群がる散弾も鬱陶しい────そんなところだろうか。
─────その好機を、彼はちゃんと見逃さなかった。
「ワカモッ!!」
「──────……………ッッッッッッッッッ!?!?!?!?!?」
─────まさかの
殴打でもなければ、足蹴りでもなく、ましてや銃弾でもない─────悲しみに暮れ泣いている女の子を包み込むような、優しいハグだった。
ハヤトくんは後ろに倒れるワカモを支えながらも、しっかりと彼女の身体を抱き留めていた。その抱擁の強さに比例するように、ワカモの顔も徐々に真っ赤に染まっていく。
「ふぁわっ!?!?あ、ああああああああああああなた様ッ!?!?!?!?い、いいいいいいいい一体何を!?!?!?!?」
「────ごめん、ごめんな、ワカモ………俺、お前がそんなに傷ついてるなんて知らなくて……」
「………っ」
ハヤトくんのハグを黙って受けているワカモは、先ほどの鬼神の如き彼女とは全くの別人と思えるほどに大人しくなっていた。
顔も真っ赤で、涙に濡れた瞳と仄かに赤くなった目尻を隠そうともせず、ただ彼の肩に寄りかかっていた。
「言い訳になっちゃうけど……ここ最近、ほんっっっとうに忙しくてな?色々やらなきゃいけない事が積み重なっちゃって……お前たちのいる矯正局に行く時間もなくて……だから、お前との約束を蔑ろにしたかったわけじゃないんだ」
「───────」
「でも……確かに嘘つきは俺だったな。お前との約束を破っておきながら、のうのうとお前を嘘つき呼ばわりしちまって……」
「そ、そんなッ!私もあの時は売り言葉に買い言葉でして……!私もあなた様とのお約束を破っていますし……!決して本気で言ったわけでは……!!」
「いや、それでも俺が先に約束を破ってしまったことには変わりないから……」
彼はゆっくりとハグを解いて、両膝立ちになり、両手をゆっくり挙げる。それはまるで相手に降伏するような仕草だが、私には
「お前の気が済むまで、お前が傷ついたと思う分だけ……お前は
「なっ!?」
「ハヤト!?」
彼らの会話に入り込まず静観を決め込んでいたユウカたちだったが、流石に物騒な単語が出てきたことで思わず会話に混じってしまったようだ。
私も大人として、先生としては血を流すようなことは絶許なのだが────彼の瞳を見ると、本当にここで止めてもいいものかと思ってしまう。否、止めたって言うことを聞かないだろうね。
………男の子って、こういうところでは意地っ張りなんだから。
「………なら、1つだけよろしいでしょうか?」
「もちろん。何だって言ってくれ」
「────もう一度、もう一度だけ抱きしめて欲しいのです……」
そう言って彼の返答も待たずに胸の中に収まるワカモは、やはり1人の女の子だった。
彼に会いたくて、話したくて、構って欲しくて、ちょっとしたことでも不機嫌になってしまう────淡く純粋な恋心を抱いている
「どうだ?これでいいのか?」
「はいっ、はいッ……!とっても……暖かいです……」
「………そっか」
ハヤトくんは静かに目を瞑り、赤子をあやすようにワカモの艶やかな黒髪を撫でる姿はとても神秘的で。
─────多分、周りの目がエライことになっていなかったら感動できていたんじゃないかなぁ〜……
─────
───
─
「ワカモ、次はちゃんと行く。だからどうか、話題を考えながら待っていてくれないか?」
「はい♪このワカモ、あなた様をずっとお待ちし続けます♪」
「というか、俺が何も言わんくても大人しくしててくれ」
「分かりました!あなた様がそうお望みならば……!」
結局、この騒乱は痴話喧嘩として片付けられそうになっていた今日この頃、ハヤトくんがワカモの手首に手錠を掛けて担当者への引渡しを行なっている最中だ。
いくら両者の誤解が解けたからといっても、ワカモの罪……というか刑期がなくなったわけではない。なんなら脱走もプラスして刑期が延びるかもしれない。それを理解しているのか、ハヤトくんもほんの少し辛そうだ。
「それじゃあ後はよろしく頼むよ」
『はっ!承りました!!』
引き継ぎ先は警備局といった部署から来た生徒たちだ。ざっと10人ほどの人数で、どれだけワカモが警戒されているか分かる。
そして、彼女たちの僅かに声を上擦りながらもしっかりと敬礼するその姿と輝かせる瞳は、彼に憧憬の念を抱いていることが深く伺えさせた。
………あの子たちの純粋で輝かしい瞳は救いだよ。ほんと、ハヤトくんが後ろを見ることがなくて良かったと思う。私の周囲の子なんて……なんかすごい目だよ、みんな。特にウサ耳の4人はワカモのことを射殺さんといった風に睨みつけてるし……
そんな最悪の空気の中でも時間は進み、とうとうハヤトくんが握っていたワカモの手錠に繋がる分厚い縄を、警備局に引き渡すところを見届けて─────
───────ブチッッッッッ
「………………ぶちっ?」
あまりに不自然な音が鼓膜を揺らした為、繰り返すように呟いてしまった。ハヤトくんを見れば目を点にしながら縄を見ており、彼の対面にいた筈の警備局の子たちは彼の目の前で
………そして、ここで肝心なのは
「────ごめんなさい、ハヤト様。私、あなた様以外の人間には指一本触られること自体がイヤなんですの」
横倒しになったトラックの上から声が────ワカモの声が聞こえた。
ワカモは私たちの────否、ハヤトくんが彼女を視認したことを確認すると、まるで見せつけるように手首に掛かっていた手錠を引きちぎった。
………なるほど、さっきのは手錠に繋がっていた縄が切れた音だったのか。
「わ、ワカモちゃん……?えっ、なんで……?大人しく待っててくれるんじゃ……」
「えぇ、大人しく待ちます。
「……………」
ハヤトくんは何も言わずに────
「……本当は矯正局に戻るのもアリでしたわ。
「ですが」と続ける彼女の瞳は────まさしく欲情しきった獣のような獰猛さが見え隠れしていた。
「─────私、もっと
そう彼に告げてから瞬間移動したように消えたワカモ。
彼女の最後の台詞を聞いた後、再び天空を見上げるハヤトくん。
ここだけ重力が何倍も重くなったかのように感じるほどの周囲のプレッシャー。
………どうしよう、どうしよっか。
「─────はぁ〜……ま、仕方ないか。彼女らしいっていえば彼女らしいし……」
ただ、彼の横顔がこの場に似合わぬほどに爽快で、何処か憂いがなくなったような……そんな表情だった。
「……さて、貴女が先生か?」
穢れを知らない真っ白なロングコートを靡かせながら私の元に歩みを進める彼は、さながら絵本に出てくる貴公子そのもの。遍く全てを照らす太陽のような金の髪が揺らめき、海のように蒼い瞳は私の姿を捉えて離さない。
歩くだけで魅入られ、話すだけでその声を一身に拝聴しようと身体が反応するのを感じながら、彼の動作を見守った。
「俺は連邦生徒会副会長の役職に就いている神宮寺ハヤトと申します。……一応、代理でこのキヴォトスの管理を任せられてます。最初からお見苦しいいざこざを見せてしまいましたが……これからどうぞよろしくお願いしますね、先生」
身につけていた手袋を外し、握手を求めながらニカっと笑うその姿はまるで歳相応の少年で、先ほどの貴公子然たる雰囲気から一変した。
……でも、私としては今のハヤトくんの方が接しやすいのもまた事実で。
「うん、よろしく」
……初日ということもあってか、不安に思わないと言えば嘘になるような日ではあったけど、彼の笑顔を見たらそんな不安も一気に吹き飛んだ……そんな気がした。
※ハヤトは生徒と相対する時は超絶デバフがかかります。
まぁ、それでも武力がなきゃこの世界のトップなんて務められねぇって……