バカとデートと精霊達   作:トッキ―

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バカテス編に入る前にヒロインである八舞姉妹との出会いを書いていきます。


第一話

 季節は春。芦原島の空には雲ひとつなく太陽が外で作業をしている人に容赦なく照り付ける。風は優しく頬を撫で、静かに通り抜けていく。

 

「今日も暑いなぁ~……」

 

 休日の昼頃、商店街へ買い物に行っていた出木遥斗は大量の食料が入っているエコバックをぶら下げ、春だというのに都会の夏並の気温を記録した芦原島を歩いていた。もう全身が汗だくである。

 いつもは立たせている緑色の髪も汗の重みでぺたんとしていて、穏やかさを感じる目の周りや、ほっそりとした頬には汗が休みなく流れている。体つきは細いがそれらはすべて筋肉であり、力も強い。

 

「もっとこう……強い風が吹かないかな……」

 

 天気予報で季節外れの熱中症には充分気をつけてくださいと注意された今日について一人愚痴っていると、急に周りが暗くなった。今日は晴天で雲ひとつないはずなのに、太陽の光が当たらないのはおかしい。

 そう思って見上げてみると、空一面が雲に覆われていた。だがそれだけではなかった。雲の流れが速いのだ。不思議な雲の動きを眺めていると、

 

「うおっ!」

 

 とてつもない突風が遥斗に襲い掛かる。急な事に反応できず、バックに入っていた食料がいくつか飛んでしまった。

 これ以上失ってはいけないとバックを胸に抱え込み、飛ばされまいと足で踏ん張ってその場に留まろうとする。荒れ狂う突風の中でなんとか開くことが出来た目が捉えたのは、宙に浮いている二人の女の子だった。

 一人は水銀色の瞳をしている女の子で橙色の長い髪を結い上げている。身体には全体が紫に近い色で構成されている特徴的な服装を纏っている。なによりも特徴的なのが、右手右足についている錠だ。まるで脱獄囚を連想させる。顔立ちは間違いなく美少女に値する。

 もう一人は同じ色の髪を三つ編み状にしている女の子で気怠そうな半眼をつくっている。服装もところどころで違っていて、ほとんど同じ造りをしているが、錠だけが逆側の左手左足についている。

 何よりも驚いたのがこの二人、姿形がとても似ているのである。

 髪型や服装で判別できるがそれも些細な違いで、それこそお互いの服装やら髪型やらを変えられた時にはそれも難しくなってしまうほどにそっくりなのである。

 遥斗が唖然とその光景を見ていると、二人の少女がゆっくりと遥斗の目の前に降り立つ。すると先程の突風が止み、静かな沈黙が辺りを支配する。正確には二人の周りだけが治まり、周囲の木々はいまだに強い風に吹かれている。間違いない。この強い風は二人が巻き起こしたものだ。

 

「くくく、やるではないか夕弦。さすがは我が半身と言っておこう。だが、この戦いは我の勝利で幕を下ろそう」

「反論。五十戦目を制するのは、那倶矢ではなく夕弦です」

 

 邪悪な笑みを浮かべて芝居がかった言葉遣いをする方が那倶矢で、気怠げな表情をしている方が夕弦というらしい。

 

「ほざきおるわ。いい加減、真なる八舞に相応しいのは我だと認めたらどうだ?」

「否定。生き残るのは夕弦です。耶倶矢に八舞の名は相応しくありません」

 

 双方は遥斗の存在に気がついていないようで、わからない言葉を織り交ぜて二人にとってはとても大事な話をしているに違いない。

 

「無駄なあがきよ。我の魔眼には見えているのだ。次の一撃――シュトウルム・ランツェに刺し貫かれし貴様の姿がな!」

「指摘。那倶矢の魔眼は当たった試しがありません」

「う、うるさい! 当たったことあるし! バカにすんなし!」

 

 なんだろう、大事な話だと思ってたのに単なる姉妹喧嘩に見えてきた。

 

「ほ、ほらあれだ。次の日の天気予報とか当てたことあるし!」

「嘲笑。下駄と変わらない魔眼(笑)の効果に失笑を禁じ得ません」

 

 夕弦が口元に手を当ててフスーと息を漏らしている。半眼なのも手伝ってか、如何にもバカにしてますよ、といった表情になっている。(笑)まで口で言うとは、これほどバカにされた経験が自分にはあっただろうか。

 

「黙らんか! 我を怒らせたこと、後悔させてくれるわ!」

 

 よっぽど屈辱だったらしい耶倶矢が激昂し、両手を広げる。それを合図に嵐が一層強くなった。そしてすぐに構えを取り、夕弦もそれに応じる。

 

「漆黒に沈め! はぁぁッ!」

「突進。えいやー」

 

 覇気の籠もった声と緊張感を感じない声の主が猛スピードで激突しようと地面を蹴った。ここにいるだけでもすごい嵐なのに、そんなのが衝突した日には周辺の木の葉はおろか、砂浜が消し飛びかねない。もちろん自分の身の安全も大事だ。

 遥斗は息を深く吸い込み、肺に溜まった酸素をすべて吐き出す勢いで思い切り叫んだ。

 

「ちょっと待てーーい!!」

「「!?」」

 

 今にも衝突しそうだった二人の動きが止まり、驚いた顔をしてキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

「な、なに今の……ごほん。まるで絶対地獄から響く亡者共の嘆きにも似たような……」

「報告。耶倶矢、あれを見てください」

 

 耶倶矢は夕弦が指差す方向にいる遥斗を見た瞬間に顔を歪め、怪訝そうな顔を浴びせてくる。二人の鋭い双眸が遥斗に突き刺さるが、それを真っ向から受け止める。

 

「人間……だと? 我らが戦場に足を踏み入れるとは、貴様何者だ?」

「驚嘆。驚きを隠せません」

「お前らこそ何者だよ。島の天気を嵐に変えるわ宙に浮いてるわ。いろいろ言いたいことはあるけど、まずはそこからだ」

 

 聞いてはみたが遥斗には確信があった。なぜなら、自分が立っているその場所――耶倶矢と夕弦が立っているところに近い位置には、まるで台風の目のように風の影響が出ていないのだから。

 耶倶矢と夕弦はお互いに顔を見合わせてから遥斗に向き直る。最初に口を開いたのは耶倶矢だった。

 

「ふふふ……我が名は八舞耶倶矢。八舞の血を受け継ぐ者」

「紹介。八舞夕弦と申します。前者に同じくです」

「我らだけ名乗るのも不自然であろう……貴様、名をなんと申す」

「お、俺は遥斗。出木遥斗だ」

 

 那倶矢の雰囲気に少し後ずさりながらも遥斗は自分の名前を名乗る。俯き加減にふむと唸った那倶矢が再び遥斗に視線を送ってくる。

 

「では遥斗よ。ひとつ問おう。我らの神聖な決闘に横槍を入れるとは、どういう了見だ?」

「け、決闘?」

「補足。耶倶矢と夕弦は、どちらが真の八舞に相応しいかのを競っていたのです」

「左様。我らの命運を定める神聖なる決闘に水を差すなど、どう責任を取ってくれるのだ?」

「え、いや……」

 

 決闘などと知らなかった遥斗にとってはそんな無責任なと思うところだが、耶倶矢の目は本気である。それにどう返そうかとしどろもどろになっていると、その様子を見てか夕弦が気怠るそうな表情のまま口を開く。

 

「指摘。耶倶矢、それでは脅迫です」

「うるさい! せっかく上手くいきそうだったのに……」

「確認。何か言いましたか」

「な、何でもないし!」

 

 どうやら口では耶倶矢は夕弦に勝てないらしい。夕弦から顔を背けたのを見てから、心の中で夕弦に感謝をする。

 

「とにかく、このままでは気が収まらんわ! どうしてやろうか……ああそうか、これなら」

「質問。どうかしましたか、耶倶矢」

 

 耶倶矢は夕弦の身体を頭の頂点から足のつま先まで眺めては一人頷いていた。まるで、品定めでもするかのように。

 

「夕弦よ。我と貴様は様々な勝負をしてきた。それも、もうどこで競えばいいのかわからなくなるほどにな」

 

 これも大仰な身振りをしながら那倶矢が話を続ける。今までの四十九戦の種目がどんなものか気になったが、ここで口をはさむとまたややこしくなりそうなので自粛する。

 

「だが、まだ一つ勝敗のついていないものがあるではないか。そう、それは……魅力だ!」

 

 少しの間をあけて夕弦に告げた言葉が魅力ときた。いったいどうやって対決するというのだろうか。耶倶矢がチラッと遥斗の方を見てきたときに背中に寒気のようなものを感じたのはなぜだろうと考える。そんな遥斗に構わず耶倶矢が続ける。

 

「真の精霊、八舞には力や頭脳だけではなく、森羅万象を嫉妬させるほどの魅力が必要だとは思わないか?」

「思案。……」

 

 夕弦が俯き加減に考えを巡らせている。それを一瞥した耶倶矢が遥斗の方を向き、ビシッと指を向ける。

 

「そこでだ、遥斗。貴様を裁定役に任ずる」

「は? いやちょっと待て。姉妹の喧嘩のようなものになんで首を突っ込まなきゃ……おい! 夕弦からも何か言ってくれ!」

「回答。確かにそれでは競ったことがありませんでした」

「そうだろう。今まで我らの闘争に割って入れたものなど皆無――第三者に裁定を委ねることなど出来るはずもなかったのだからな。勝負方法は、先に遥斗を落とした方の勝ちだ!」

「承諾。その勝負、受けて立ちます」

「うおいっ!」

 

 夕弦に助けを求めたが、耶倶矢の提案を呑んでしまった。もはやこの周りに遥斗の味方はいない。

 こうして、遥斗と謎の二人との、真の八舞を決める共同生活が始まった。

 

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