バカとデートと精霊達   作:トッキ―

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長い期間が空いてしまいましたが第四話です

それではどうぞ!


第四話

「は? ふざけてるの、あんた」

「唖然。小学生の運動会じゃあるまいし」

 

 耶倶矢はありえないといった表情で鋭く睨み、夕弦は呆れた表情で嘆息していた。それもそうだ。どちらが真の八舞にふさわしいかどうかはっきりさせる勝負で、どちらもふさわしいと言われれば、呆れるのも無理はない。

 

「ふざけてなんかいない。俺は至って真面目だ。二日間共に過ごしてきて思った。お前らはやっぱり、二人揃って八舞なんだ。どちらかが欠けていいわけがない」

 

 首を横に振りながら伝えた遥斗だったが、二人の表情はいまだ険しいままだった。そこで遥斗は、あることを二人に話そうと思った。仲が良い故にすれ違ったお互いの想いを。

 

「夕弦。俺はな、耶倶矢にある相談を持ち掛けられたんだ」

 

 左向かいに座っている耶倶矢の表情がそれ以上言うなと訴えていたが、遥斗は止まらない。緊張に包まれた空間の薄い空気を取り込み、はっきり告げる。

 

「どうかこの勝負。夕弦を選んではくれないか、てな」

 

 言った瞬間、耶倶矢は俯いてしまい、夕弦は驚愕のあまり半眼の目を大きく見開いていた。だが構わず遥斗は続ける。

 

「それだけじゃない。その相談は夕弦からも持ち掛けられた。耶倶矢を選んでくれと」

 

 今度は立場が変わり、耶倶矢が目を見開き、夕弦が目を伏せる。同じ境遇に会うと同じ反応をする。この二人は本当に姉妹なんだなと微笑ましくも思ったがそれは胸の片隅へ追いやる。今はそんなのんきなことを考えている暇はない。

 

「お互いを想っている姉妹から一人を選んで、どちらが八舞に相応しいかを決める? 冗談じゃない。そんなこと出来るわけないだろ。ましてや赤の他人である俺によ。だがこれだけは言える。八舞には、お前ら二人でしかなれない」

「……」

「……」

 

 耶倶矢と夕弦は俯いてしまい、しばらく無言の時間が続く。居心地の悪い状態で何分経っただろうか。状態をそのままに、耶倶矢が口を開いた。

 

「……夕弦。どういうこと? 私に、八舞になってほしい……だって?」

「復唱。耶倶矢の方こそ、夕弦を選んでほしいとは、どういうことですか……?」

「ふざけないで!(ふざけないでください!)」

 

 お互いが身を震わせ、同じタイミングで声を張り上げると、空気の入れ替えという理由で開けていたベランダの戸から二人が出ていってしまう。リビングから出たところで二人は霊装に身を包み、夏の空を駆けた。空は暗雲に覆われ、暴風が再び芦原島を襲う。

 

「颶風騎士<ラファエル>――【穿つ者】(エル・レエム)!」

「呼応。颶風騎士<ラファエル>――【縛める者】(エル・ナハシュ)」

 

 二人が空中で向かい合う形をとると、お互いの容姿に変化が現れた。耶倶矢の右肩に翼が生え、そこを起点に右腕を金属のような光沢をもったガンドレットが構築され、手には巨大な槍が握られていた。対する夕弦にも左肩に同じような翼が生え、左腕を鎧が包む。手の中には先端に刃が付いた紐のようなものが握られている。遥斗にはあれがなんなのかわからなかったが、武器だということだけは理解出来た。

 

「まさかあいつら、お互いを……!」

 

 遥斗は慌ててベランダへと向かい、視線を上に向けようとしたが、外に出た瞬間に突風が遥斗を襲い、それは叶わなかった。腕で顔を覆ってその場に耐えるのが精一杯だ。

 

「前から思ってたのよ! あんたは自分一人で抱えこんで処理しようとして!」

「反論。その言葉、熨斗とリボンで過剰舗装して耶倶矢に送り返します……!」

「今までの勝負であたしが上手く負けるのにどれだけ苦労したと思ってんの!」

「反論。それは夕弦も同じです」

 

 風に乗せて聞こえてくるのは二人の言い争っている声となにかがぶつかる音。おそらく二人がどこからか出現させた武器によるものだ。

 どうすればいい? 必死に考えを巡らせるも、遥斗にはなにもいい案が見つからない。二人のもとに行くにも遥斗には空を飛べる能力など持ち合わせていない。声だけでもいい。二人に声が届けば……。

 

「っ! そうだ!」

 

 遥斗は急いで部屋にあるウォークマンを取りにいった。机の上にあるそれを手に取り、端子に繋がっているイヤホンを外し、代わりにあるものを繋ぐ。それをベランダへと持っていき、音楽を選択して再生する。もちろん、那倶矢と夕弦に聞こえるように最大音量で。遥斗は予想外の音量に耳を塞ぎたくなるが、それを堪えて二人に向かってウォークマンを握った手を最大限伸ばす。

 

「っ! これは……」

「静聴。さっきの曲です」

 

 姉妹喧嘩をしていた二人の耳に届いたらしく、武器の交わる音がピタッと止まる。代わりに遥斗の手元――小型のスピーカーが取り付けられたウォークマンから、さっきまで三人で聴いていた曲が流れる。二人に訴えかけるなら今だと、遥斗は説得を試みる。

 

「やめろよ! なにが楽しくてお互いを消し合わなきゃならないんだ!」

 

 曲の音量を少し下げ、二人に問いかける。耶倶矢と夕弦は遥斗の声におとなしく耳を傾けている。これを好機と見た遥斗は止まることなく語り続ける。

 

「お前らは考えたのか! 二人が共存できる方法を! 耶倶矢と夕弦が隣り合って過ごせる未来を!」

「そんなのあるわけないじゃない!」

「否定。耶倶矢と夕弦には、どちらか片方が生き残る未来しかありません」

「方法がないなんて決めつけるな! 二人で思いつかなかったのなら、俺も一緒に考えてやる! 耶倶矢と夕弦が一緒にいられる方法を、俺達三人で過ごせる方法を!」

 

 感情的になっていくがもう止められない。遥斗は胸の内に留めていた言葉を、いままで自分を励ましてくれた曲と共に二人にぶつける。

 

「言ってみろ! お前らの望みを! 願いを! 今思ってる素直な気持ちを、お互いにぶつけてみろぉぉ!」

 

 渾身の力を込めて叫んだ最後の言葉を言い終わり、激しく眩暈がして遥斗はその場にへたり込み、激しくなった呼吸を落ち着かせようと胸元をぐっと抑える。自分に出来ることは精一杯やった。あとは二人の問題だ。

 一方、遥斗の心からの叫びを聞いていた二人は唖然とし、お互いが構えていた武器をその場で力なく下ろした。

 

「……お互いの望みを言ってみろってさ。夕弦はなにかある?」

「回答。夕弦は学校に行ってみたいです。友達をつくって、みんなで楽しいことしたいです」

「いいわね、それ。あたしは喫茶店に行ってみたいかも。とってもおしゃれなとこ」

「共感。いいですね。お茶するのもいいですが、制服も着てみたいです」

「いいじゃん。夕弦が着たらお客さんの視線独り占めだよ」

「否定。そんなことはありません。耶倶矢の方が似合うに決まっています」

「そんなのありえないし。夕弦の方が似合うし」

「……」

「……」

 

 二人の間に沈黙が流れる。それを破ったのは耶倶矢だった。

 

「ごめん夕弦。嘘ついてた。わたし、死にたくない……。もっと夕弦と、一緒にいたい……!」

「応答。夕弦も、消えたくありません……。耶倶矢と、生きていたいです」

 

 ついに耶倶矢と夕弦が本心を口にした。長く感じた沈黙はやがて二人の嗚咽へと変わり、涙を流しながら二人は抱き合った。まるで、お互いの存在を確かめ合うように。

 しばらくその状態でいた二人は同じ方向を向き、遥斗が待っているマンションへと向かった。仲睦まじく手を繋ぎながら。

 ベランダに腰掛け、壁に寄りかかった状態で二人の存在を確認した遥斗は、疲労を感じさせる表情をしながら二人を迎えた。

 

「おかえり、二人とも」

「感謝するぞ、遥斗。お主のおかげで、夕弦とこうして一緒にいられる」

「多謝。遥斗には感謝してもしきれません」

「ったく。そんなに仲がいいのに、どうしてあんな派手な姉妹喧嘩をしてたんだか……」

 

 向かい合うようにして降りてきた耶倶矢と夕弦を見上げながら、遥斗は安堵の息を吐く。遥斗の目には、今も仲良く手を繋いでいる理想の姉妹の姿が映っている。そんな光景を見せられて、自然とそんな愚痴がこぼれていた。那倶矢と夕弦は顔を見合わせ、ふふっと微笑み合いながら会話を続ける。

 

「くくく。我と夕弦の間には、神も引き裂くことの出来ない強い絆で結ばれているのだ」

「同調。喧嘩するほど仲がいい、です」

 

 お互いを見て笑い合う耶倶矢と夕弦を遥斗は微笑ましく眺める。だが、心の中は複雑だった。

 遥斗には兄や弟、姉や妹がいない。一人っ子だ。父と母、そして遥斗と三人家族だった。しかし、その父と母も交通事故により他界。遥斗は本当の一人になってしまった。だから、目の前に広がるこの光景がとても羨ましかったのかもしれない。

 

「……遥斗、またあのときの表情してる」

「え?」

「思考。やはり、仏壇に置いてあるあの写真のことですか?」

 

 どうやらお見通しのようだ。そう思った遥斗は観念したように全部話した。両親のこと、自分が一人っ子だということ。だからこそ、二人が羨ましいということを。

 

「……なんかごめんね。しんみりさせちゃって」

「二人は悪くないよ。むしろ、余計な心配をかけさせたみたいで、こちらこそごめん」

「提案。それなら、遥斗も私達の兄妹になるというのはどうでしょう?」

 

 夕弦の突然の提案に遥斗と耶倶矢はポカンとした表情になるが、耶倶矢はすぐに立ち直り、たちまち笑顔を輝かせた。

 

「いいじゃん、それ! ナイスだよ夕弦!」

「したら俺が兄で、耶倶矢と夕弦は妹ってことになるのか」

「否定。それはありません。遥斗は私の弟。耶倶矢は妹です」

「違うでしょ二人とも! あたしが姉になるんだから!」

「「それこそありえないだろ(ありえません)」」

「二人して酷いし!」

 

 そんな会話が面白くて、おかしくて。三人は同時に吹き出し、心から笑った。誰かとこんなに笑い合ったのはいつ以来だろうかと、遥斗は自分の胸の中が穏やかになっていくのを感じた。

 

「……ねえ遥斗。目を閉じて」

「請願。私からもお願いします」

「? いいけど……」

 

 おとなしく指示に従い、目を閉じる。すると――

 

「……?」

 

 遥斗の唇の左右に、柔らかい感触が訪れた。

 なにがあったのかわからずにうっすらと目を開けると、耶倶矢と夕弦の整った顔立ちがすぐ近くにあった。二人とも目を閉じて頬を紅潮させていたことから、遥斗は今なにをされているのかを理解した。

 キス。学校に行っていない遥斗には訪れないと思っていた、恋愛に欠かせないイベント。

 それを今、身をもって体験している。

 驚愕によって目を見開き、二人を引き剥がそうとしたのと同時、耶倶矢と夕弦が先に遥斗との距離を開けた。突然のことに驚いている自分とそれから解放されてほっとしている自分。そして少し残念に思っている自分がいて頭を混乱させていると、頬をほんのり朱に染めている耶倶矢が口を開いた。

 

「なによその反応。あたしと夕弦みたいな超絶美少女のファーストキスに対して」

「謝罪。迷惑でしたか?」

「いや、そんなことは……てか、急にキスしてきて驚くなって方が――」

 

 無理だろうと言おうとして、言葉を詰まらせた。耶倶矢と夕弦が突然光りだし、次の瞬間二人は裸になっていた。それに気づいた二人はそろって胸元を覆い隠し、顔を真っ赤に染めて遥斗に問いかけた。

 

「ちょっと遥斗! あんた何したの!?」

「落涙。もうお嫁にいけません」

「ちょっと待て! 俺にもさっぱり……いったいどうなってんだーー!」

 

 二人と口づけした瞬間に感じた、暖かい何かが自分の中に流れてくる感覚。

 それも含めて、遥斗の周りに起きた現象に困惑の悲鳴をあげざるを得なかった。

 

------------------------------------------

 

 ここは芦原島の上空。島の全体を見渡せる位置に浮かぶ一隻の戦艦があった。

 <フラクシナス>と呼ばれている戦艦の中で、クルーの一人である眼鏡をかけたぽっちゃり体型の男性が声を上げた。

 

「っ! 霊波反応、途絶えました!」

 

 その声に他のクルーも反応した。ある者は動かしていた手を止め、ある者は逆に忙しなくキーボードを叩いている。

 

「途絶えた? 消失(ロスト)したのかしら?」

「そ、それが……」

「観測機の映像を映します!」

 

 正面のモニターを見つめながら司令席と思われる場所に座っている赤い髪の少女が、咥えた棒付きキャンディーを口の中で転がしながら男性に問うと、先程忙しなくキーボードを叩いていた黒髪の女性が艦内中央のモニターに映像を映す。そこに映っていたのは、瓜二つの少女達が、一人の少年に対して同時にキスをしているところだった。しかし、問題はその後だった。

 

「……これは」

 

 少年から距離を離した少女二人の身体が淡く輝き、一瞬にして一糸纏わぬ姿となった。少女達は胸元を押さえて顔を赤くし、少年はなにが起きたかわからず困惑していた。

 

「これは驚いたわね。士道の他にも霊力の封印が出来る人がいたなんて……」

「……どうするんだい、琴里」

 

 目の下にとても濃い隈をつくった女性がそう聞くと、琴里と呼ばれたツインテールの少女はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「決まってるじゃない。各員、戦闘用意! 準備ができ次第コンタクトを取るわよ!」

『了解!』

 

 琴里が咥えていたキャンディーを持って前方に突き出しながら、艦橋内に響き渡るほどの声量で号令をかける。すると定位置に座っていたクルー達は一斉に立ち上がり、準備のために艦橋を飛び出していった。

 一人艦橋に残された琴里は再度キャンディーを咥えると、不敵な笑みを浮かべて呟いた。

 

「――さあ、私達のデートを始めましょう」

 




 だいぶ期間が空いてしまいました。申し訳ありません。今後もこんな感じとなってしまいます。
 これで八舞姉妹との出会いは終わりです。予定では次でラタトスクとの邂逅。それが終わり次第、物語をバカテスとクロスさせようと思っています。それまで待っていてくれれば幸いです。
 それでは、またいつか。
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