バカとデートと精霊達   作:トッキ―

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今回は素早く書けたので投稿します。
現実逃避って恐ろしいですね……。

それでは本編をどうぞ!


第五話

 耶倶矢と夕弦の姉妹喧嘩を沈めた日から一週間近くが経った。

 あれから二人は暴風を巻き起こすことなく、遥斗の住むマンションで生活を共にしている。あるときは買い物に行き、あるときは芦原島唯一の公園に行ったり、あるときは何もせずに家でくつろいだり。やっていることはデートとさほど変わらないが、そんなことを気にせずに遥斗はこの時間を大事に過ごしていた。耶倶矢と夕弦の笑顔を見ていると、まるで家族と過ごしているかのような錯覚を覚える。いや、訂正しよう。家族と一緒に過ごしている。

 

「協議。今日はどうしましょう?」

「買い物はこの前行ったし、島の回れるところは回ったしな~」

 

 遥斗が今日の予定に頭を悩ませていると、ピンポーンとチャイム音が鳴った。どうやらお客が来たらしい。

 

「ん? 誰だろう。俺が出るから、二人は待っててくれ」

「くくく。お主はここにおるがいい。颶風の神子たる我が直々に出迎えてくれよう」

「配慮。ここは夕弦に任せて、二人は座っていてください」

「いやいや。俺が行くって」

「我が行くと言うておろう」

「否定。夕弦が――」

 

 三人一斉に立ち上がり、競い合うように玄関へと向かっていく。遥斗が靴を履き、玄関の扉を開けようとすると、後ろにいる耶倶矢と夕弦がもつれ合ったのか倒れこみ、それに遥斗が巻き込まれて前のめりに倒れてしまう。そして玄関のドアが最大まで開かれたとき――

 

「……あれ?」

「驚愕。ここは……」

 

 三人の目に映っているのはマンション前に広がる住宅街ではなく、SF映画に出てきそうな機械に覆われた部屋だった。部屋の隅には監視用と思われるカメラが遥斗達を捉え、レンズを緑色に染めた。

 

『ようこそ。空中艦<フラクシナス>へ』

 

 突如部屋に響き渡る声に遥斗は敏感に反応する。耶倶矢と夕弦も遥斗を背後に守るように立ち、表情にも緊張感に満ちた警戒色を示していた。

 

『そんなに警戒しなくてもいいわよ。取って食うわけでもあるまいし』

「……警戒するなという方が難しいんじゃないか?」

『賢明ね。まあ、話は直接するとしましょう。そっちに案内員を送るから、その人についていきなさい』

 

 そう言い残してブツッという音と共に声は聞こえなくなった。ほっと息を吐くと、耶倶矢と夕弦が警戒と不安が入り混じった表情で遥斗の方を向いた。

 

「……どうするの、遥斗?」

「……今はおとなしくしていた方がいいだろうな」

「判断。それが懸命だと思います」

 

 今後の方針を話し合っていると壁の一部が左右に開き、そこから薄い茶色の制服を着た女性がやってきた。はっきりと見えるほど目に隈が出来ており、胸元のポケットからは縫い目が目立つ不気味なクマのぬいぐるみが顔を出していた。遥斗達を見つけると、ふらふらと近づいていく。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「心配ないよ……生まれつきこうだからね」

 

 ファーストコンタクトがこんな風になるほど、今にも倒れてしまいそうな雰囲気の女性に導かれ、部屋を出て廊下を歩いていく。

 

「紹介が遅れたね……。私は村雨令音。ここの解析班をさせてもらってるよ」

「あ、すいません。俺は出木遥斗といいます」

「ハロだね……。よろしく頼むよ」

「いや、あだ名で呼ぶならハロじゃなくてハルかと……」

「ん? ああ、すまないね、ハロ」

「……もういいです」

「そうかい……。それとそこの二人のことは知ってるよ。ベルセルク」

 

 ため息を吐く遥斗の隣を歩いている耶倶矢と夕弦はなにを言われたのか理解できずにキョトンとしているが、その間に目的の部屋にたどり着いた。パシュっと扉が開くと、そこは先程の部屋より広い空間となっていた。中央にはモニターがあり、理解できないデータやらなにやらが書かれていた。

 

「改めてようこそ。空中艦<フラクシナス>へ」

 

 そこの一番高い位置にある席から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。先程機械音に混じって流れてきた声と似ているのである。

 赤い髪を黒いリボンで結ったツインテールの女の子で背は遥斗の肩ぐらいの小柄。だけどその容姿とは裏腹に態度は大人びていて、見た目と性格が釣り合っていない印象を感じた。

 

「あたしは五河琴里。ここ<ラタトスク>の司令官よ」

「お、俺は出木遥斗。よろしく頼む」

 

 琴里と名乗った少女は司令席から飛び降りるとまっすぐこちらにやってきて、先導していた令音の隣に並び立つ。琴里は口に咥えていた棒付きキャンディーを右手に持ち、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「突然ごめんなさいね。家から出たらSF映画のような場所に連れてきてしまって」

「いや、ええ、まあ……」

 

 この場合どうやって返事すればいいのかわからず遥斗は曖昧な態度をとってしまうが、相手は気にする様子もなく淡々と話し続ける。

 

「詳しい話をする前に、まずは二人の詳しい検査をさせてもらいたいんだけど……」

「検査?」

「警戒。なにをするつもりですか?」

「手荒な真似はしないわ。ちょっと霊力がどうなってるのかを見るだけ。精霊二人のね」

『っ!』

 

 耶倶矢と夕弦はもちろん、遥斗も驚きを隠せなかった。二人が精霊だということをなぜこの人達は知っているのか。耶倶矢と夕弦の反応からして、遥斗以外には口外していないようだ。だとしたら、個人で調べていることになる。

 

「二人とも。検査に行ってきて」

「っ! どうして!?」

「要求。説明を求めます」

「この人達は二人のことをよく知ってる。だから、二人が霊装を纏えなくなった理由も知ってるかもしれない」

 

 遥斗はこの一週間であることが気になっていた。それは耶倶矢と夕弦、二人が着ていた拘束服のような霊装を出すことが出来なくなったのだ。二人が和解し、遥斗にキスをしたあの日から。それは耶倶矢と夕弦も気にしていたことで、一日一回は霊装を出そうとしていたのを遥斗は知っている。

 そのことを口にすると、耶倶矢と夕弦はしぶしぶといった感じで二人の女性に案内されて検査に向かった。あとで二人にはお詫びをしないとな、と考え、遥斗は琴里と向き合った。

 

「……さて、どうして耶倶矢と夕弦が精霊だってわかったのか。教えてもらっていいか?」

「焦らないで。まずはあなたに紹介したい人がいるの。話はそれからでも遅くはないわ。むしろ、そっちの方が説明しやすいから」

「……?」

 

 遥斗が首をかしげていると、琴里は令音に何かを伝え、携帯を使って誰かを呼び出した。少ししてその人物はやってきた。

 年齢は遥斗と同じくらいの中肉中背で、青い髪と優しそうな雰囲気が特徴の少年だ。戸惑っているのはあちらも同じようで、なにがなんだかわかっていない様子である。

 

「なあ琴里。俺に紹介したい人ってのはその人か?」

「そうよ士道。彼こそが、士道と同じ霊力封印の力を持つ出木遥斗よ。しかもすでに二人分の霊力を封印しているわ」

「霊力? 封印?」

 

 琴里が遥斗の紹介をすると目の前の士道と呼ばれた少年は驚いた表情をつくり、遥斗に至ってはもう話についていけていない。

 

「俺と同じ……あ、自己紹介が遅れたな。俺は五河士道。そこにいる琴里の兄だ」

「おう、よろしく。俺は出木遥斗だ。さっそくなんだが士道。霊力とか封印とかってのは何なんだ?」

 

 遥斗が先程の会話の中で気になったことを士道に聞いてみると、士道はあーと言いながら頬を掻き、説明のために口を開く。

 

「えーとだな……遥斗はその、その精霊二人とキスしたんだよな?」

「え? あ、ああ……」

 

 確かに遥斗は二人の精霊――耶倶矢と夕弦とキスをしている。あのときのことは忘れようとしても忘れられないだろう。そのときの状況を思い出して自然と顔が熱くなっていく。

 

「そのときになんかこう……暖かいものが自分の中に流れてくる感覚とかなかったか?」

「あ……」

「その反応は、思い当たる節があるようね」

 

 琴里の言うとおり、遥斗には確かに心当たりがあった。自分の中になにかが流れてくる感覚。あのときの感覚はなんなのかも、遥斗が気にしているひとつだった。

 

「いままでの話を聞いてて、考えつくのはなにかしら?」

「……俺の中に二人の霊力が? それで封印するための手段というのがキス……?」

 

 遥斗が途切れ途切れに答えを言っていくと、琴里は正解と言って右手に持っていた棒付きキャンディーを再び口に含んだ。そして腕組みの姿勢をとる。

 

「検査してもらっている二人の精霊の霊力は、遥斗の中にあるわ。封印者の遥斗と二人の間にはパスが通っている状態よ。霊力を失った二人はほとんど人間とたいして変わらない」

「ちょっと待て。どうして俺にそんな能力が……?」

「そこまではわからないわ。士道に関してもそうよ」

 

 もうなにがなんだかわからなくなってきた遥斗は頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった。急に遥斗にそんな能力があると言われてもすぐに受け止めることは出来ない。その様子を見ていた士道が遥斗に助け舟を出す。

 

「なあ琴里。俺のときもそうだったが、いきなりいろいろ言うのは……」

「……そうね。ごめんなさい」

「いや、いいんだ……とりあえず、耶倶矢と夕弦に起きている現象と、俺が感じた不思議な感覚の正体がわかったから」

 

 これで残る疑問はひとつ。どうして琴里は遥斗をここに呼び出したのか、ということだけだ。

 

「そうよ士道。なんなら今日は遥斗と八舞姉妹を家に招待しましょう。男同士で話しやすい事もあるだろうし」

「……それもいいかもしれないな。どうだ遥斗。お前さえよかったら」

「それじゃあお言葉に甘えるとしようかな。耶倶矢と夕弦の意見も聞いてみてから、だけどな」

 

 遥斗は士道に感謝しつつ、今回の話を頭の中でまとめ始めた。

 自分は士道と同じ、キスをすることで精霊の霊力を封印できる。

 その方法で耶倶矢と夕弦の霊力は封印され、その霊力は現在自分の中にある。

 まとめてはみたものの、さらに頭を悩ませてしまう遥斗であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 耶倶矢と夕弦の検査が終わって場所は五河家。士道に招かれ、お邪魔しまーすと入っていくと、奥のドアからトタトタと女の子が走ってきた。その姿を見た瞬間、遥斗は息を詰まらせた。

 電気に反射して輝く夜色の髪、水晶のように透き通った瞳。その美しさとは真逆の無邪気な笑顔。その少女は士道の姿を見つけると笑顔を輝かせ、元気いっぱいの声を発した。

 

「おかえりだシドー! む? 後ろにいるのは誰だ?」

 

 キョトンとした表情をつくっている少女に対して、士道はああと言ってこちらに半身になる。

 

「こっちは出木遥斗。それでこっちは――」

「くくく。我は八舞耶倶矢。風を統べる颶風の神子よ」

「挨拶。八舞夕弦といいます。以後お見知りおきを」

「……だ。ほら、十香も」

「うむ! 夜刀神十香だ! よろしく頼むぞ!」

「おう。よろしくな、十香」

「ここで立ち話もなんだ、上がってくれ」

 

 十香と士道を先頭に靴を脱いで家へと入っていく。遅れまいと後に続こうとするが、突然左右の腕に痛みが走る。表情を歪めながら確かめると、左は耶倶矢が、右は夕弦が腕の皮膚をつねっていた。

 

「……十香のことじろじろ見すぎ」

「注意。いやらしいです」

「……気をつけるよ」

 

 実際問題、十香に見惚れていたのは否定できないので素直に謝る。不機嫌な表情を浮かべる耶倶矢と夕弦を宥めながら部屋へと入っていく。そこはリビングとなっており、カウンターキッチンも設置されていた。そこでは士道がせっせと夕食の準備をしていた。

 

「士道。俺も何か手伝おうか?」

「ん? いやいいよ。遥斗はゆっくりしてな。十香、なんかリクエストあるか?」

「いいのか? なら、今日はハンバーグがいいぞ!」

「はいよ。ちょっと待ってな……まいったな、ひき肉が足りない。いまから買いに行くのもな……」

 

 元気なリクエストを受け取った士道が冷蔵庫の中身を確かめるが、材料がなかったのか小さく苦悶の声を上げていた。それが聞こえた遥斗はカウンター越しに尋ねた。

 

「士道。豆腐はあるか?」

「あるけど……どうするんだ?」

「まあ見てなって。ちょっとお邪魔するよ」

 

 士道にハンバーグの材料と豆腐を用意してもらい、勝手ながら調理を始める。

 野菜をみじん切りにし、ボウルの中に刻んだ野菜とひき肉、それと水を切った豆腐を入れてこねる。形を整えて空気抜きをし、油を熱したフライパンに置く。途中から士道も手伝ったので、作業は迅速に進んでいった。

 

「……よし、こんなもんかな」

「遥斗ってよく料理するのか?」

「まあ、人並みにな。冷める前に食べちゃおうぜ」

 

 程よく焦げ目のついた豆腐ハンバーグを人数分の皿に盛りつける。士道も遥斗がハンバーグを焼いている間に味噌汁やサラダをつくって皿に盛りつけている。それに気づいた女性陣はリビングのテーブルの上を片付けてスペースを開ける。キッチンの方だと四人しか座れないためだ。

 テーブルに隙間なく並べ、五人は手を合わせて料理に手を伸ばした。

 

「んー。今日もおいしいなシドー!」

「よかったな十香。だけどそれ、俺が作ったんじゃないんだ」

 

 士道の告白に十香が箸を咥えたまま目をぱちくりさせている。すると隣に座っている耶倶矢が自慢げに口を開いた。

 

「ふふふ。この焼き具合……これは遥斗が作成したものだ」

「啓蒙。夕弦達があの味を忘れるわけがありません」

「そうなのか? ハルトも料理が得意なのだな! すごく美味しいぞ!」

「はは。ありがと、十香」

 

 十香のような女の子に素直に褒められると照れてしまい、遥斗は顔を背けて頬を掻く。その様子を見ていた琴里がニヤニヤ笑みを浮かべていた。

 

「やるじゃない遥斗。たった一日で胃袋を鷲掴みにするなんて」

「それ表現的にアウトだな……褒めてくれてるのは嬉しいけど」

 

 その後もみんな談笑しながら食事を進めていき、全員が食べ終わったところで協力して食器を片付けた後、琴里が十香と八舞姉妹に風呂に入るよう勧めたため、現在リビングには士道と遥斗、琴里の三人となっている。士道と琴里はダイニングテーブルの椅子に並んで座り、遥斗は真向かいにひとりで座っている。

 

「なあ琴里。お前は良かったのか?」

「なにが?」

「いや、琴里も女の子なんだから、あの三人と一緒に入ってくればよかったのにと思って」

「……その女の子に対する気づかい、あの二人がデレたのも納得だわ。士道も見習いなさい」

「わるかったな。気が利かなくて」

「それで、話ってのは?」

 

 目の前の兄妹のやりとりを羨ましく思いながら、手っ取り早く本題に入ろうとする。琴里への配慮もそうだが、遥斗は遥斗で士道と話がしたいのだ。久しぶりに男友達と話せる機会が出来たのだから。

 

「単刀直入に言うわ」

 

 琴里は両肘をテーブルにつけて手を重ね、その上に顎を乗せて問うてきた。

 

「出木遥斗。士道と私達<ラタトスク>と協力して、精霊を救ってちょうだい」

 

 この一言が、遥斗の運命を大きく変えることとなる。

 




いつになったらバカテスに入れるんだろう……ちょっと不安になってきた
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