理由は活動報告にありますので、詳しくはそちらで。
それと、今回の話を投稿する前に前話の時系列を見直し、修正しました。なにかあれば報告をお願いします。
それでは、どうぞ!
「精霊を救う……? それってどういう……」
「そのままの意味よ。精霊はその強大すぎる力故に、人間界にはいられない」
いきなりなにかを救うという大仰な事を言われて頭がショートしかける。まさかリアルでそんなことを言われるとは思ってなかっただからだ。
「もう勘付いてはいると思うが、十香も精霊だ」
「十香はこの世界に絶望していたわ。隣界から出てくるたびに自分が狙われる。それのせいで、人間が信じられなくなってしまった」
「この世界に来るたびに命を狙われるって……」
不意にそのときの光景を想像してしまった。人間界に来たら攻撃され、拒絶されて、それが繰り返されて……そんなことをされたら人間を信じられなくなっても無理はない。
「ちなみに十香を狙っていたやつって……?」
「アンチ・スピリット・チーム。略してAST。精霊を殺すための組織よ」
遥斗は純粋な悪寒と怒りを覚えた。耶倶矢と夕弦が同じ目にあっていたらと思うと背筋が凍り、同じ存在である十香がいままでASTに襲われていたと聞いて自然と拳を握りしめていた。表情に出ていたのか琴里が溜め息を漏らし、落ち着きなさいと遥斗を宥めた。
「あなたの気持ちもわからなくはないわ。現に私達はそれで動いているんですもの。でもASTだって、一般人を空間震から守るために戦っているのよ。それだけは理解してちょうだい」
中学生ぐらいにしか見えない目の前の少女に何も事情を知らない遥斗は、実はこの子年上なんじゃないかという錯覚を覚えた。現状を素早く受け止めて順応する様は、まさに大人そのものだった。
でも、それが出来るほど遥斗は大人にはなれず、感情に流されるままに勢いよく立ち上がった。
「精霊って言ったって人間と同じじゃないか! なんでそんなことを平然と出来るんだよ!」
「精霊は世間では災厄の存在。この事実だけは忘れないで」
告げられた冷徹な事実で遥斗は脱力し、力なく腰を下ろした。その様子を近くで見ていた士道はいたたまれない表情を浮かべ、琴里はなにを思っているのか目を閉じて腕を組んでいた。
居心地の悪い空気を払拭するかのように、遠くから女子三人の声が聞こえてきた。どうやら風呂から上がったようだ。遥斗達のところにやってくる間にも、仲良く談笑する三人の美少女の声が耳を通り抜けていく。
「うむ。いいお湯だったな、二人とも!」
「くくく。普段は孤独か、絆を深く築きし盟友としか入らないのだが、お主も今日からその一人だ。光栄に思うがいい」
「歓喜。楽しいお風呂でしたね」
自分の頭を拭きながらこちらにやってくるとただならぬ空気を感じたのか、三人そろって小首を傾げた。その中から代表して十香が無垢な口調で訪ねてきた。
「どうしたのだ琴里? なにかあったのか?」
「なんでもないわ十香。夜も遅いから、このあとはどうするのか遥斗に聞いていたの」
そうなのか、と十香がこちらに視線を送ってきたので、遥斗は笑みをつくって頷いた。すると十香は満面の笑顔となって耶倶矢と夕弦の方に向き直り、その手を握ってはぶんぶんと音がしそうなほどに振りだした。
「これはもしかしたら、お願いを聞いてくれるかもしれぬな!」
「お願い?」
遥斗が聞き返すと十香は二人から手を離して横に退き、前に出てきた耶倶矢と夕弦が少し照れくさそうに頬を掻きながら口を開いた。
「あのね遥斗。あたし達、こんなに楽しくなったの初めてで、その……なんというか……」
「請願。もっと十香とお話していたいのです」
同じ精霊と出会ったのはこれが初めてだから、今の時間を大事にしていたい。気のせいかもしれないが、そんな気持ちが二人とを繋ぐパスから流れてきている気がした。
ただ、このお願いは遥斗の力ではどうすることも出来ないため、家主の士道に視線を送る。すると士道はそれを望んでいたかのように笑みを浮かべ、首を縦に動かす。
「いいんじゃないか。その方が十香も喜ぶ。いいよな、琴里」
「ええ、もちろん。今夜はガールズトークに華を咲かせましょう」
快く了承してくれた士道と琴里に心の中で感謝しつつ、喜びを露わにしている三人の少女に視線を送る。十香のことは詳しく知らないが、耶倶矢と夕弦と同じ精霊である以上、士道と琴里以外に話せる人というのがいないのかもしれない。それが今日になって同性の友達が出来たんだ。はしゃぐのも無理はない。それは耶倶矢と夕弦にも言える。もちろん遥斗にも。
「それじゃあ、三人分の布団出さないとな」
「あ、俺も手伝う」
立ち上がった士道に続いてついていき、布団出しの手伝いを申し出る。耶倶矢と夕弦も申し出てくれたが、こういうのは男に任せておきなさいと琴里が引き留めて仲睦まじく談笑を始めた。黄色い声を背中に受けながら階段を登っていき、布団を士道の部屋へ運び終えると、突然士道が声を掛けてきた。
「なあ遥斗」
「ん?」
「お前は琴里の話を聞いて、どう思った?」
「どう思ったって……」
あのときの感情が再び遥斗の胸の中に渦巻いていくのを感じ、表情に出さないように努める。あのときの発言に嘘偽りはないので、今の気持ちを素直に口にする。
「……耶倶矢と夕弦、十香のような精霊がただ殺される運命にあるなんて、俺は認めない。救える可能性があるのなら、俺は救いたい」
「なら、俺と気持ちは一緒だな」
不意に士道が手を差し出してくる。それに一瞬だけ視線を送り、再び視線を士道の顔に向ける。
「俺からもお願いだ。俺と――俺と<ラタトスク>と一緒に、精霊を救ってくれないか?」
真剣な眼差しを向けてお願いしてくる士道に遥斗は一瞬ポカンとしてしまうが、すぐに笑いが込み上げてきて、こらえきれずに声を上げてしまう。士道は今頃になって恥ずかしくなってきたのか、もう片方の手で頬をポリポリと掻いた。その間に遥斗は差し出された手を力強く握った。
「そんな必死にお願いされたら、断れるものも断れなくなるだろ」
今度は顔を上げた士道がポカンとしてしまう。しかしそれも一瞬で、嬉しさを帯びた笑みで握手している手を強く握り返してくる。それだけで、士道と今後仲良く出来ると断定できた。
「布団も敷き終わったし、みんなのところ行こうぜ」
「だな」
雑談しながら階段を降り、リビングのドアを開けると、仲良く話をしている四人の姿が目に映った。こうして見てみるとそれぞれ違う魅力を持っており、思わず見惚れてしまう。
「どうやら、話はまとまったようね」
ぼうっとしていたせいで琴里の声に肩を震わせる。しかもその口ぶりは……。
「……まるでこっちの話を聞いていたみたいなセリフだな」
「実際聞いていたもの。士道の耳についてるインカムから、ね」
琴里の発言に士道があっと声を漏らし、右耳をいじり始めた。出てきたのは赤に黒のラインが入った小さな機械だった。見たことはないが、どこか遥斗の持っている白いイヤホンの先に似ている。
「あ~、家に帰ってから外すの忘れてたわ」
「士道の通ってる学校ってどこなんだ?」
「ん? ここから近い来禅高校だ」
「学校か。どのような場所なのか気になるな」
「請願。夕弦たちにも聞かせてもらえますか」
「ああ。いいとも」
学校の話を持ち出したからか耶倶矢と夕弦が食いつき、士道の方をまじまじと見つめて話を聞いている。そういえば姉妹喧嘩のときにどちらかが言っていたような気がする。学校に行ってみたいと。
「ああ士道。言い忘れてたんだけど」
「ん?」
「来禅高校、他の学校との合併が決まったわ」
「こんな時期にか? どことだ?」
「文月学園って名前、聞いたことあるんじゃないかしら?」
言われて思い出す。テレビで何度も出ている学園名だということを。
文月学園は他の学校にはない特殊なシステムを導入した進学校である。しかも学校自体が試験校として扱われているため、学費がとても安いとテレビを見ていて何度も思ったものだ。
「でもなんで来禅なんだ?」
「理由は二つあるわ。一つは人数の確保。今年の入学生が少なかったせいか、人数の多い来禅に目をつけたのでしょうね。そしてもう一つが、そこの学園長が元<ラタトスク>の解析班だったそうなの」
告げられた事実に琴里以外の全員が驚く。そんな人が学園長をやっていることもそうだが、令音さんが二代目解析班だったことが一番の驚きだった。
「だから私が直々に交渉しに行ったの。人員は確保してあげるから、今後<ラタトスク>に協力しなさいって。そしたら唸りながら了承してくれたわ」
「ちょっと待てよ。そっちで交渉が成立したからって、来禅がオーケーしなかったら……」
「そっちは問題ないわ。来禅の校長に『断ったらあなたが隠している秘密を全部奥さんにバラした後、保護観察処分<ディープラブ>の箕輪を愛人として送りつけるわよ』って言ったら快く頷いてくれたわ」
「それ完全に脅迫じゃねぇか!」
「交渉の『こ』の字もねぇ! それと箕輪さんはやめて差し上げろ!」
士道と共に全力で突っ込む。あんたら教育機関になんつうことしてんだ! と。そのときの交渉現場を想像してしまい、泣き顔で土下座している来禅高校の校長が浮かぶ。それと箕輪さんってどんな人なの? 脅迫材料に使われるほど恐ろしい人なの? と、恐怖を感じざるを得なかった。
校長先生に関してはもう、同情するほかなかった。精霊三人も苦笑いを浮かべている。
「冗談よ。学長同士の話し合いでお互いが納得した上での合併よ」
みんなの反応に対してため息ひとつ漏らして告げた真実に、全員がほっと息を吐き出す。そんなことが本当にあったらたまったもんじゃないと、遥斗は内心ビクビクしていたのだ。
「それで合併に伴い、文月学園形式の振り分け試験を受けてもらうことになるわ」
「フリワケシケン? とは、いったいなんなのだ?」
十香が頭に疑問符を浮かべ、可愛らしく首をかしげている。遥斗が言葉から整理して説明しようとすると、先に士道が口を開いた。
「えーとな十香。試験というのは勉強したことをどこまで覚えているかを試すことで、振り分けってのは、ええっと……」
「もしかして、試験の結果でクラスが分かれるんじゃないか?」
「察しがいいわね遥斗。まさにその通りよ」
琴里からさらに詳しい説明が施される。文月学園はA~Fクラスまで存在し、成績が良ければA。悪ければFといった感じで振り分けられる。
上に行けば行くほど設備が良くなるらしく、最上級にはリクライニングシートにエアコン、ノートパソコンが付くらしい。
「それに、Aクラスはお菓子が食べ放題らしいわ」
「おお、それはすごいな!」
お菓子というワードに十香が敏感に反応した。今日一日で、十香が食欲旺盛な子だということが痛いほど理解出来たのは、遥斗と耶倶矢と夕弦の陰ながらの収穫だった。
「これは勉強とやらを頑張るしかないな、シドー!」
「お、おう……」
ずいっと身を乗り出して迫ってくる十香に押されながら返事する士道。それを見た耶倶矢と夕弦もなぜかビシッと派手なポーズをとっている。
「ふふふ、そのような場所は王者にふさわしいと相場が決まっている。つまり、そこは八舞にふさわしい場所!」
「注釈。夕弦と耶倶矢も、Aクラスに行きたいです」
それはもう、遥斗に向かって直球で『学校に行きたいです』と言っているようなもので……まだ働いていない遥斗は困った顔をしてボリボリと頭を掻いた。
「いくら試験校で学費が安いからって、そんなに持ってないぞ?」
「心配ないわ。遥斗たちの分は<ラタトスク>で負担してあげる。士道と十香、他の来禅生徒は急な日程で合併と試験をするからって理由で編入費はタダよ」
<ラタトスク>ってどんな組織なんだろう。三人分の入学費用なんてとても払える額じゃないだろうに。それを全額負担してくれるこの人たちはいったい……。そんなことを考えている遥斗の思考を読んだのか、琴里が遥斗の方を向いて不敵な笑みを浮かべる。
「私たち<ラタトスク>は精霊を全力でサポートする秘密組織。金銭の出所は気にしたら負けよ」
「そんなこと言われたらなおさら気になるんだが……」
「細かいことは気にしないことね」
これ以上聞いても無駄そうだなとため息を吐く遥斗はふともう一つ気になることを見つけた。
「急な日程での試験って言ってたけど、試験日はいつなんだ?」
「あら、言ってなかったかしら? 一週間後よ」
「「一週間!?」」
思ったことは士道も同じなのだろう。遥斗と返答が被った。続いて士道が言葉を投げかける。
「おま、一週間ってすぐそこじゃねぇか! そんなすぐになんて――」
「俺なんて中学で止まってるってのに……」
「でも、他の三人はそうは思っていないようよ?」
琴里が向ける視線を辿ってみれば、元気に拳を天井に掲げる十香とそれに同調するようにお互いの手を繋ぎ合わせてかっこいいポーズをとっている耶倶矢と夕弦がいた。
「よーしシドー! 一緒にAクラスにいくのだー!」
「我ら八舞が力を合わせれば、いけぬ高みなどない! ゆくぞ遥斗! 我らと共に!」
「同調。夕弦と耶倶矢に、不可能なんてありません。わからないところは、優しく教えてあげます」
「ちょ、待て十香! 落ち着いて話を聞いてくれー!」
「離せ、離してくれー!」
悲しきかな。封印したとはいえ精霊の彼女らに力で勝てるわけもなく、男として情けない状態で引きずられていった士道と遥斗を見届けてリビングにひとりとなった琴里は、携帯端末を取り出してボタンを押す。
「……とりあえず交渉は成立。その報告をしなきゃ」
携帯を耳に当て、相手の応答を待つ。三コール目で回線がつながり、こちらを窺うような声が電話越しに聞こえてきた。
「五河琴里です。精霊三人と例の二人、説得に成功しました」
『そうかい。それはご苦労なこった』
「それに伴い、あなたにお願いがあるのですが……」
『……生徒の確保っていう借りがあるしね。言ってみな』
以前<ラタトスク>のクルーが仲介人として立ち合った来禅と文月の合併談義のモニタリング風景を思い出し、思わず唇を歪ませる。これでまた対策が増えた、と。
「今から言う名前の生徒を、<観察処分者>としてください」
すべては、人類のために。
すべては、精霊を救うために……。