鉄血のオルフェンズ〜天使と悪魔の軌跡〜   作:あらたかける

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登場人物
アレン・ドット 15歳 火星に生まれ、両親と農地開拓を生業に生活していた。5年前、モビルアーマーによって両親を失ったことで恨みを持つようになる。その後、アグニカ・カイエルの率いるレギオン(後のギャラルホルン)に加わる。

アグニカ・カイエル 年齢不詳 レギオンを率い、ガンダムフレーム計画を進行する指導者。自らも開発したガンダムバエルに乗り、モビルアーマーと戦う。

リナ・ソナウラ 14歳 アレンの幼馴染で、彼を支える存在。

エリス・ヨータス 17歳 アレンのライバルであり、親友。

テリー隊長 36歳 アレンたちの隊の隊長。ガンダムに乗る。

カリード・エルワス 25歳 5番隊の一員。ガンダムに乗る。
登場機体
ガンダムバエル アグニカの乗る機体。1機目のガンダムフレーム

ガンダムフェネクス エリスの乗る機体。37機目のガンダムフレーム

ガンダムハルファス アレンの乗る機体。38機目のガンダムフレーム

モビルアーマー 厄祭戦の始まりである、無人の大型殺戮兵器。
        自身の意思で人間を殺す

プルーマ モビルアーマーに付属する無人攻撃オプション。



Ep.1天使と

厄祭戦の火花が散る火星。この地は、長年にわたる権力争いによって傷つき、遂に暴力の波に飲み込まれた。各国は自国の領土を守るため、または他国を侵略するため、熾烈な戦闘を繰り広げていた。国々の間で勃発した戦争は、瞬く間に火星内の抗争にとどまらず、他の星系へと広がりを見せる。人々は、戦争の渦に巻き込まれながら、無情な現実に直面することとなった。

 

だが、この戦争の真の恐怖は、無人の大型殺戮兵器「モビルアーマー」が投入されることによって、一気に顕在化する。これらのモビルアーマーは天使の名を冠し、戦場での恐怖をさらに増幅させた。冷徹なプログラムに従って動く彼らは、敵対する者を容赦なく排除し、戦闘の様相を一変させた。人間の意思を介さない無情な戦闘が繰り広げられ、兵士たちは絶望的な状況に追い込まれる。各国の指導者たちは、その収拾がつかない状況に戦争を放棄するしかなかった。

 

 

 

火星、アルトラーク領 第2地区

 

アレンの思考は混乱の渦中にあった。耳元で響く母の叫び声も、今はかすかにしか聞こえない。視界がかすみ、意識はどこか遠くへ飛んでいた。全身が異常なほど熱く、体が自分のものではないように感じる。そんな中、再び強烈な熱気が押し寄せ、彼の意識が急激に現実に引き戻された。

 

目を開けると、目の前には広がる赤々と燃え盛る火の海。空気は焦げた匂いと煙で満ちており、呼吸さえも辛い。咳き込みながら、アレンは何とか立ち上がろうとする。火の手は家中に回り込み、彼がいた家はもう焼け落ちる寸前だった。遅れたら命が危ない。アレンは咄嗟に外へ飛び出した。

 

外に出ると、目に飛び込んできたのはさらに恐ろしい光景だった。家だけでなく、街全体が炎に包まれている。至るところで爆発が起こり、瓦礫が空中を舞っている。かつては穏やかだった街並みが、今ではまるで戦場のようだ。遠くからは絶望的な叫び声や泣き声が聞こえ、周囲の混乱がひしひしとアレンに迫ってくる。

 

「何が…一体…?」

 

言葉にすることすらままならない。何が起こったのか、なぜこんな事態になっているのか、理解が追いつかない。

 

その時だった。突如として耳をつんざくような爆音が響き渡った。アレンは衝撃に思わず耳を塞ぐ。何が起きたのか確認しようと顔を上げると、視界の中に巨大な黒い影が映り込んだ。

 

「プルーマ⁉︎」

 

アレンの目の前には、無慈悲な殺戮兵器「プルーマ」が進行していた。黒い鋼鉄の体に、赤いモノアイが妖しく光り、その姿は恐怖そのものだった。無人のこの兵器は、何の感情もなくただ破壊を続け、街中を蹂躙していた。家が潰れ、道路が崩れ、人々が踏み潰されていく――その無情な光景を、アレンは呆然と見つめるしかなかった。

 

「アレン!早く逃げて!」

 

再び母の声が、耳に飛び込んでくる。アレンは我に返り、声の方向へと振り向く。目に飛び込んできたのは、瓦礫に押し潰され、動けなくなった母の姿だった。彼女の下半身は完全に瓦礫に埋もれており、顔には痛みと絶望が浮かんでいる。

 

「母さん!」

 

アレンは必死に駆け寄ろうとするが、その瞬間、またしても巨大な爆発音が彼の周りに響いた。地面が激しく揺れ、アレンは足を滑らせて地面に倒れ込む。全身がずしりと重く、まるで力が抜けてしまったかのようだ。

 

「くっ…!このままじゃ…」

 

アレンはもがきながら、何とか立ち上がろうとするが、目の前に巨大な影が迫ってきた。プルーマがすぐそこまで来ていたのだ。赤く光るそのモノアイが、まるで彼を死神のように見つめている。アレンは息を飲んだ。逃げなければ、だが足は動かない。恐怖が全身を貫き、体が硬直してしまう。

 

――死ぬ。

 

そう覚悟した瞬間だった。上空から眩い光が降り注ぎ、その光の中から白い羽を持つモビルスーツが高速で降下してきた。まるで天使のように、そのモビルスーツは優雅に空を舞い、金色に輝く剣を手にしていた。

 

「何だ…あれは?」

 

アレンの視界がその光景に釘付けになる。白い羽を広げたその機体は、まるで戦場に舞い降りた救世主のようだった。そして次の瞬間、そのモビルスーツはプルーマに向かって一直線に突撃し、金色の剣を一閃させた。剣がプルーマを一撃で貫き、黒い無人兵器が爆発と共に粉々に吹き飛んだ。

 

「天使…?」

 

アレンはその輝かしい光景を前に、思わず口からその言葉を漏らした。白い羽を広げ、堂々と立つその姿は、まさに天使と呼ぶにふさわしい。しかし、その天使は何者なのか――その答えを知ることなく、アレンは意識を失い、地面に崩れ落ちた。

 

5年後… 地球圏 南米 第7エリア

 

 

「早く起きろ!アレン!朝礼だぞ!」

エリスの大声がアレンの耳を打つ。

「やべっ、急がないと…」

寝ぼけ眼を擦りながら、アレンは慌てて支度を始めた。あれから5年経ったが、あの日の記憶は今も鮮明に残っている。すべてを失い、絶望していた自分を救ってくれたのはアグニカだった。彼は、アレンをレギオンに迎え入れてくれた。そして、あの時見たモビルスーツ――天使のように見えたそれは、「バエル」という名前だと知った。皮肉なことに、その名はかつて悪魔とされた存在の名前だという。天使のような姿でありながら、悪魔の名を持つなんて…本当の悪魔は、あのモビルアーマーたちだろうに。

 

朝礼が始まり、隊長のテリーが報告を始めた。

「南米第7エリアに着いてから3日が経った。先週からこのエリアでプルーマの目撃情報が多発している。おそらくモビルアーマーが潜伏している可能性がある。全員、気を引き締めて行動するように」

 

レギオンは5つの部隊に分かれており、アレンが所属する第5部隊は、プルーマの目撃情報をもとに、この南米第7エリアでモビルアーマーの探索を行っている。

 

エリスが小声でアレンに話しかけてきた。

「なあ、アレン。この基地に新しいガンダムフレームが運び込まれてるって聞いたか?」

 

「ということは…」

アレンは不意に身を乗り出した。

 

「ああ、誰かが乗るってことだろうな」

エリスの声は少し興奮気味だった。

 

乗るとしたら、おそらく僕かエリスのどちらかだ。僕たちは通常のモビルスーツで戦場に出て、先輩たちの戦いをサポートしているが、二人ともプルーマを多く倒した実績がある。

 

「この間の戦いで、カリードさんがモビルアーマーを倒して七星十字勲章を受け取ったからな。次は俺だぜ」

エリスは満足げに笑った。彼の目には戦う意志が宿っている。

 

「エリス、君はセブンスターズを目指しているのかい?」

アレンは不思議そうに尋ねた。

 

一瞬、エリスは黙った後、少し気まずそうに口を開いた。

「…まあ、そんなとこだな」

 

その曖昧な返事に、アレンは微かに首を傾げたが、それ以上深くは聞かなかった。

 

テリー隊長が部屋の隅で待機しているエリスとアレンを呼び止めた。彼の声は落ち着いているが、どこか緊張感が漂っている。

 

「エリス、アレン。後で隊長室に来るように」

 

二人は同時に敬礼し、声を揃えて返答した。「はい!」その声には期待と少しの不安が混ざっていた。

 

しばらくして、二人は隊長室の扉を開けた。中にはテリー隊長が待っており、資料を手にした姿が見えた。彼の厳しい表情からは、何か重要な話があることが伝わってきた。

 

「お前らはもう知っているかもしれないが、今回から新たに2機のガンダムフレームの運用を開始することになった」

 

「2機⁉︎」エリスが驚きの声を上げる。その目は興奮に輝き、心の中で様々な想像が膨らんでいるようだった。

 

アレンも反射的に言葉を漏らす。「ということは、僕たちに…?」

 

テリー隊長は無言で頷いた。「そういうことだ。お前らには、次の作戦で中心的な役割を担ってもらう」

 

その言葉にアレンの心臓が高鳴る。自分たちにその重責が課されるのか。彼は思わず理由を尋ねた。「なぜ僕たちが?」

 

「今回の新機体は地上戦を主とするモビルスーツだ。我々の現在の戦力は、大気圏用のモビルスーツが13機、地上戦用が18機。カリードと私のガンダムも共に大気圏用に分類される。そこで、地上戦に特化したお前たちに主力として動いてもらうというわけだ」

 

「なるほど…」アレンが納得するように頷く一方で、エリスはその言葉に興奮を隠せない。彼の目はまるで新たな冒険の始まりを待ち望んでいるかのようだった。

 

「任せてください!モビルアーマーなんて、俺がぶっ倒してやりますよ!」エリスの言葉に自信が溢れている。

 

その言葉を聞いたアレンは思わず言葉を詰まらせ、テリー隊長も一瞬の沈黙を保った。だが、次の瞬間、隊長の声が鋭く響いた。

 

「エリス、お前は戦争孤児じゃないから知らないだろうが、モビルアーマーを――舐めるなよ」

 

その言葉は厳しく、冷たい風が隊長室に流れ込んだように感じた。エリスの勢いが急に止まり、隊長の目には、まるでモビルアーマーとの恐ろしい過去を想起させるような光が宿っていた。エリスはその視線を受けて、表情を硬くし、声を低めて返事をした。「っ…はい」

 

隊長室を出た後、エリスが小声で口を開いた。「モビルアーマーってそんなに強いのか…」

 

アレンは考え込みながら答えた。「カリードさんが戦った時、僕たちは後方で見てなかったもんね。でも…火星の人口の3分の1を殺した相手だ。簡単に勝てる相手じゃないよ」

 

その言葉を口にするたびに、アレンの心は過去に引き戻される。あの日、火の海となった街で生き残ったのは、彼と幼馴染のリナだけだった。レギオンに助けられてからは、離れ離れになり、それ以来会うことはなかった…。

 

エリスが不敵に笑い、拳を握りしめた。「とりあえず、鍛えなきゃな」

 

「そうだね」とアレンも苦笑いしながら頷いた。

 

 

 

その夜、静まり返った基地の中で、エリスが突然声をかけてきた。

 

「なあ、アレン。俺たちのガンダム、見に行こうぜ!」

 

アレンは驚いて振り返り、目を大きく開いた。「今から行ったら流石にまずくない?」彼は心配そうに言った。

 

エリスは自信満々に笑い、手を振ってみせた。「大丈夫だって、こっそり行けば見つからねえよ!しかも助っ人もいるしな。」

 

「助っ人…?」アレンは眉をひそめ、エリスの言葉に疑問を抱く。

 

数分後、二人はモビルスーツ格納庫に到着した。夜の静けさを破るように、エリスが声をかける。「着いたぜ。おーい!」

 

扉がゆっくりと開き、暗闇の中から機械音が響いた。その瞬間、聞き覚えのある声が響く。「はーい」

 

その声に導かれ、扉の向こうから現れたのは、懐かしい顔だった。

 

「リナ…?」アレンは目を見開き、心臓が高鳴るのを感じた。

 

エリスも驚いた様子で振り返る。「え?」

 

「リナだよな!僕だ、アレンだ!久しぶり!」アレンは思わず声を上げ、嬉しさが抑えきれない。

 

リナは微笑んで力強く頷いた。「アレン!やっぱり第5部隊だったのね!」その笑顔には、どれほどの喜びが詰まっているのかが伝わってくる。

 

エリスはその様子を信じられないという表情で見つめた。「え??お前ら、知り合いなのか⁉︎」

 

アレンは感慨深げに答えた。「5年ぶりだな。」

 

リナは嬉しそうに笑いながら話し始めた。「アレンと別れた後、私はメカニックになって色んな隊で働いてたの。今回やっと第5部隊に配属されて、アレンがここにいるって聞いてたから…」

 

その言葉とともに、リナの目には涙が浮かんだ。「会えてよかった…」

 

アレンもその姿を見て優しく声をかけた。「僕も…本当に嬉しいよ。でも、なんでエリスと?」

 

エリスが得意気に胸を張った。「そりゃもちろん俺が強くてかっこい…」

 

その言葉を遮るように、リナが話した。「今回のガンダムフレームのメカニックだからよ。」

 

エリスとアレンは声を揃えた。「ええ⁉︎」

 

リナが照明をつけると、薄暗い格納庫に突如として浮かび上がった2機のモビルスーツは、まるで静かに眠る巨獣のようだった。彼らの姿は圧倒的で、全ての空気が張り詰めた瞬間だった。

 

最初に目に飛び込んできたのは、赤い光沢を放つ一本角のモビルスーツだった。装甲は漆のように艶やかで、滑らかな曲線を描いている。その全身は、まるで燃え立つ炎を纏ったかのように鋭く、堂々とした姿が威圧感を放っていた。特に特徴的なのは、頭部にそびえる一本の角であり、それはまるで猛獣の牙を思わせる鋭さと力強さを秘めていた。両肩には大きなスラスターが装備され、機動力を感じさせる設計である。脚部の装甲も厚く、力強い踏み込みを容易に想像させる。モビルスーツ全体にわたる血のような赤色は、まさに戦場で燃え盛る戦士そのものだった。

 

「これが『ガンダムフェネクス』。エリスくんのガンダムよ」とリナが声を弾ませて言う。

 

エリスはその姿に圧倒され、無意識に拳を握り締めた。「すげえ…」と呟く声は震えていた。

 

次に視界に入ったのは、黒い装甲に包まれたもう一機のモビルスーツだった。その姿は、夜の闇を体現したかのような漆黒のボディに、鋭いラインが全体を走っている。特に目を引くのは、その背中に装備された二本の巨大な剣である。黒い刃は鈍く光を反射し、見る者に圧倒的な破壊力を予感させた。剣はただの武器ではなく、このガンダムに力強さと威厳を与えている。肩幅の広いシルエットは安定感とパワーを示し、頭部の二つの角はまるで悪魔の角のように鋭く突き出ていた。ボディには細かいディテールが施され、無駄のないデザインがその戦闘能力を暗示していた。

 

リナが続ける。「そして、こっちがアレンのガンダム『ハルファス』。力強さと精密さを兼ね備えた、この剣を使って戦うのよ。」

 

アレンはその黒い巨体に目を奪われ、しばらく言葉を失っていた。視線は自然と二本の剣に向かい、何かを決意したかのように心が引き締まる。

 

 

 

「ガンダム…」

 

 

 

彼の口から絞り出されたその言葉は、これから始まる激闘を予感させる重い響きを持っていた。

 




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