鉄血のオルフェンズ〜天使と悪魔の軌跡〜   作:あらたかける

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登場人物
アレン・ドット 15歳 火星に生まれ、両親と農地開拓を生業に生活していた。5年前、モビルアーマーによって両親を失ったことで恨みを持つようになる。その後、アグニカ・カイエルの率いるレギオン(後のギャラルホルン)に加わる。

リナ・ソナウラ 14歳 アレンの幼馴染で、彼を支える存在。ガンダムフレームのメカニック

エリス・ヨータス 17歳 アレンのライバルであり、親友。交戦的な性格であり、戦いが好き。

テリー隊長 36歳 アレンたちの隊の隊長。ガンダムに乗る。

カリード・エルワス 25歳 5番隊の一員。ガンダムに乗る。


登場機体

ガンダムフェネクス エリスの乗る機体。37機目のガンダムフレーム

ガンダムハルファス アレンの乗る機体。38機目のガンダムフレーム

ハニエル 南米第7エリアで観測された中型のモビルアーマー。4枚の大きな羽と強力なビーム砲を持つ。

モビルアーマー 厄祭戦の始まりである、無人の大型殺戮兵器。自身の意思で人間を殺す

プルーマ モビルアーマーに付属する無人攻撃オプション。


Ep.2悪魔

翌朝、冷たく澄んだ空気が基地を包み込み、青空が広がっていた。太陽はまだ低く、地平線に近い光が柔らかく地面を照らしている。アレンは『ガンダムハルファス』のコックピットに身を沈め、目の前の操作パネルに表示される各種システムのデータをチェックしていた。推進剤の残量、武装の状態、阿頼耶識システムの接続状態など、一つ一つを丹念に確認しながら、彼の心は次第に高鳴っていた。周囲では他のパイロットたちもそれぞれの機体の準備に追われ、整備士たちの声や機材の音が微かに聞こえてくる。

 

しかし、その音が緊張を煽るというよりも、アレンには心地よいリズムのように感じられていた。恐怖ではなく、期待感――今日の模擬戦は、ガンダムハルファスの真価を試す絶好の機会だった。

 

「今日は僕とエリスで、ガンダムの試運転を兼ねた模擬戦をやる。久しぶりの戦闘訓練だ…」

 

ふとアレンがつぶやいた瞬間、無線からエリスの声が飛び込んできた。

 

「やるからには俺が勝つぜ!」

 

エリスの声には自信が満ち溢れていた。アレンはそれを聞いて自然と笑みを浮かべ、内心で競争心が沸き上がっていく。彼らはただの模擬戦ではなく、互いの力を試し合うための本気の勝負を望んでいた。

 

「僕だって負けないよ!」

 

アレンの胸の奥にある緊張が、好奇心と興奮に変わっていく。幼い頃からモビルスーツに憧れ、いま自分の操縦する『ガンダム』がどれほどの力を持つのか、それを試すことができる瞬間が訪れたのだ。無線にリナの声が入ってきた。

 

「いい?くれぐれもやりすぎないでよ。後で修理するのは私たちなんだからね!」

 

リナの声には責任感がこもっていたが、どこか微笑ましさも感じられる。リナはメカニックのおじさんたちと共に敬礼をする。アレンは彼女の忠告に敬礼で返し、深く息を吸い込んで覚悟を決めた。

 

「アレン・ドット、ガンダムハルファス、出る!」

 

マイクに向かって声を発すると、ハルファスのシステムが活性化し、コックピットの中が緊張感で満たされる。まるで機体そのものが彼の声に応えて動き出すかのようだった。次に、エリスの声が無線から響いた。

 

「エリス・ヨータス、ガンダムフェネクス、出る!」

 

フェネクスも力強い推進音を響かせながら、アレンのハルファスの隣で整然と浮かび上がり、二機は青空へと向かって同時に飛び立った。青空の下、赤い流線型のフェネクスが輝き、アレンのハルファスも漆黒の翼を広げて空を舞う。

 

アレンは目の前に広がる景色に息を呑んだ。スラスターの推進力が全身を包み、重力から解き放たれた感覚が彼の体に広がる。コックピット内の映像システムが周囲の風景を映し出し、データが次々に流れていく。その光景は、彼にとって初めての空を駆けるガンダムの操作感を鮮烈に焼き付けた。

 

「これが、僕のガンダム……!」アレンは心の中の興奮を抑えきれず、つい声を漏らしてしまった。眼前に広がる青空の中、エリスのフェネクスが優雅に旋回する様子が目に映る。彼らの戦いの舞台は、遥か彼方に見える荒廃した廃坑だった。

 

その時、テリー隊長の声が通信回線に入り、彼らに語りかけた。

 

「模擬戦の舞台は廃坑だ。周囲に住民はいない。思う存分、楽しんでくれ!」

 

彼の言葉は明らかに冗談混じりだったが、その裏には信頼も感じられた。彼らがどれほどの力を発揮するかを見届けたい、そんな期待感が隊長の声に滲んでいた。

 

それを聞いたカリードが心配そうに声を挟む。

 

「隊長、それ大丈夫なんですか?模擬戦ですけど…」

 

テリー隊長は笑顔を崩さず、冗談半分に返した。

 

「もし、この戦いの音を聞きつけてモビルアーマーが出てきたらなあ。それこそ面白い展開になるんだがな!」

 

カリードは一瞬驚いたが、すぐに冗談だと理解し、表情を和らげた。

 

「ご冗談を……。」

 

しかし、その軽口のおかげで、周囲のパイロットたちも少しずつ緊張を解きほぐされ、笑いがこぼれ始めた。模擬戦を待つ彼らの心は期待に満ち、楽しみに変わりつつあった。

 

「準備はいいか?」テリー隊長が元気よく呼びかけ、2人を鼓舞した。「今日はお前たちが主役だ!全力で戦ってくれ!」

 

アレンはコックピット内で再び操作パネルを確認しながら、「大丈夫、今日は新しい力を見せるんだ」と自分に言い聞かせた。2人の声が響く。

 

「模擬戦、いくぞ!」

 

その瞬間、アレンは全身に緊張感を走らせながら、ハルファスを前進させた。廃坑の内部は薄暗く、地面は荒れ果てた岩肌がむき出しになっている。

アレンのハルファスは、脚部スラスターをフル稼働させながら、廃坑内の狭い通路を滑るように疾走していた。無数の岩屑や壁の崩壊した部分を見事に避け、まるでその場に長く慣れ親しんでいたかのように精密な操作で進んでいく。一方、エリスのフェネクスは、まるで暴風のごとく、壁にぶつかることも構わず、猛進を続けていた。無茶とも言えるその動きは、フェネクスの機動力を見せつけるかのようだった。

 

「アレン!!」通信回線を通して響くエリスの声は興奮に満ち、挑発的だった。アレンは短く息を吐き、進行速度をさらに上げた。

 

遂に、ふたりは廃坑の大きな空洞に出た。天井が高く、暗闇が広がるその場所は、巨大なモビルスーツ同士が戦うに相応しい舞台だった。

 

エリスは即座に行動を開始した。フェネクスの巨斧を振り上げ、一気にアレンに向かって振り下ろす。風を切る音が響き渡り、鋭い一撃が迫る。しかし、アレンは冷静にスラスターを使って後方に飛び、巨斧の攻撃を間一髪で回避。距離を取りながら、腰部に装備された100ミリ砲を素早く撃ち放ち、フェネクスを牽制する。

 

砲弾がエリスの機体を狙うが、フェネクスはその動きに動じず、巨斧を盾のように構え、受け止めた。砲弾が斧の刃で弾ける音が響く中、エリスはさらに左手で脚部に装備したダガーを引き抜いた。その動きは迅速で、隙を狙った反撃の準備が整っていた。

 

「さあ、どうするアレン?」エリスは不敵に笑いながら、フェネクスの動きを加速させる。ダガーがハルファスのアンテナを掠め、アレンは一瞬の危機を感じる。しかし、その一瞬の隙を突くように、アレンは即座に剣を抜き、フェネクスの肩アーマーへと斬りかかる。剣が鋭くフェネクスの装甲を引き裂き、火花が飛び散った。

 

「そんなもんか!エリス!!」アレンは叫び、スラスターを逆噴射させ、フェネクスの背後に回り込もうと試みる。機体は急加速し、砂埃が舞い上がる中、ハルファスはエリスの背後に回り込む。

 

だが、エリスはその動きを予測していたかのように、即座にスラスターを全開にし、上昇。フェネクスは一気に廃坑の外へと飛び出し、地上へと移動する。モビルスーツ同士の空間戦から地上戦へともつれ込む形となった。

 

地上に出た瞬間、テリー隊長が管制室でモニターを見つめながら呆れた声を漏らす。「おいおい、もう範囲外か……全く、無茶しやがって」

 

互いに距離を取り、荒れ果てた地上で対峙する二人。エリスは巨斧を力強く構え、一方アレンも剣を高く掲げ、視線がぶつかり合う。緊張感が漂う中、周囲の空気すら張り詰めているかのように感じられる。そして、同時にスラスターが火を噴き、二機は一直線に突撃を開始した。

 

ドゴォォオン!ーーー

 

激しい衝突がその場を揺るがした。エリスの巨斧がアレンの剣に激しくぶつかり、金属のひび割れるような音が響き渡る。衝撃波が広がり、砂埃が空中に舞い上がる。エリスの巨斧はその重みでアレンの剣を押し返そうとするが、アレンは踏ん張り全身の力を込めてそれに対抗する。

 

「くっ……!」アレンは短く呻きながらも、体勢を崩さずに反撃の隙を探していた。

 

その瞬間、近くの山岳から轟音が響き渡る。「なんだ?!」アレンは驚き、周囲を警戒する

 

ブーブー

 

響く警報の音に、アレンは即座に反応した。赤いランプがコックピット内を不気味に照らし、警告音が鼓動のように高鳴っていた。何か異常が起こっていることは明らかだった。

 

「….!」アレンは息を呑む。

 

無線からエリスの焦った声が飛び込んでくる。「どうしたんだ?!」

 

2人の間に緊迫した空気が一気に流れ込む。アレンはすぐにモニターに目を向け、センサーのデータを確認するが、原因を探る間もなく無線が再び割り込んだ。

 

管制室

 

管制室は薄暗く、数人の隊員たちが慌ただしくモニターの前に集まっていた。画面に映るのは、北の山岳地帯を背にして接近する無数のプルーマ。青白い光の点が山の斜面を滑るように移動し、その数が増えていくのを見て、隊員たちは一気に表情を強張らせた。

 

「隊長!プルーマです!」一人の隊員が緊張した声で叫んだ。

 

テリー隊長は即座にモニターに駆け寄り、無数の青い光が迫る映像を凝視した。「なに?!何体だ?」

 

「それが…10…20…いや…50です!」隊員は驚きに声を震わせながら続けた。「北の山岳地帯からこちらに向かっています!」

 

テリー隊長は画面を見つめたまま、冷静さを失わずに指示を出す。「聞こえるか!模擬戦は中止だ!今すぐ交戦の準備をしろ!繰り返す、模擬戦は中止だ!」

 

その言葉はアレンの無線にも届き、アレンは息を呑んだ。「エリス…あれって……」

 

エリスも無線越しに、険しい表情でアレンに答えた。「うん、間違いない……」

 

そして次の瞬間、不気味な金属音が響き渡り、山岳地帯の上空に大きな影が現れた。厚い雲を切り裂きながら、巨大なモビルアーマーがゆっくりと姿を見せた。四枚の巨大なウィングが広がり、鋭いビーム砲が中央に構えられている。その機体はまるで天使のように優雅だが、同時に恐ろしい威圧感を放っていた。

 

「モビルアーマーだ……」アレンは言葉を失い、冷や汗が滲む。

 

管制室

 

管制室のモニターには、巨大なモビルアーマーが徐々に近づく様子が映し出されていた。その姿は、モビルスーツと比較しても圧倒的に大きく、武装も桁違いだった。

 

「個体識別名出ました!…ハニエルです!!」隊員の一人が、恐怖を感じながらもその名を叫んだ。

 

テリー隊長は眉をひそめ、冷静さを保ちながら無線で指示を飛ばした。「アレン、エリス!今から援護部隊を送る!それまでプルーマを排除しつつ、ハニエルを引きつけろ!」

 

「やってやるぜ!」エリスは叫び、フェネクスを一気に動かし、プルーマの群れに突進していった。彼の赤い機体が凄まじいスピードでプルーマを薙ぎ倒し、その後ろを追うようにして、アレンもハルファスを操縦する。

 

しかし、アレンの胸の奥には不安が渦巻いていた。ハニエルの存在、その巨大な姿を前にして、ただのモビルスーツでは太刀打ちできないのではないかという恐れが彼の心を支配し始める。

 

「待て、エリス…!一人で突っ込むな!」アレンは無線で叫んだが、エリスはすでに先陣を切っていた。

 

フェネクスは猛然とハニエルに向かい、一直線に飛び込む。ハニエルのビーム砲が放たれ、その威力は凄まじく、自らのプルーマ部隊をも巻き込んで吹き飛ばす。エリスはフェネクスを巧みに操り、そのビームをかろうじて回避し、ハニエルの懐に滑り込む。

 

「フェネクス…本気出すぜ…」

 

エリスの鼓動が高まり、呼吸が荒くなる。阿頼耶識システムと彼の神経が深く結びつき、その興奮はさらに増していく。

 

「いいじゃねえか…」

 

フェネクスの瞳がオレンジに輝き始め、その光は残像を描くように機体を包み込む。スラスターの出力が増大し、瞬く間にハニエルへと接近。巨斧を振り上げ、一気に攻撃を仕掛ける。

 

「ハァハァ…このまま堕とすぅ!!」

 

フェネクスはエリスの指示に応じ、全スラスターを最大出力にして一気に加速した。眼前に迫るのは、四枚の巨大な羽を広げたモビルアーマー、ハニエル。ビーム砲が瞬時に点灯し、その無機質な光が周囲を照らす。まるで無慈悲な天使のように、ハニエルのビーム砲はフェネクスを射抜こうと狙いを定めていた。

 

「行くぞ…フェネクス!」

 

エリスの声と共に、フェネクスが一気に軌道を変える。ビーム砲が唸りを上げ、光の束が発射される。その瞬間、空間が揺れ、放たれたビームは一直線に進んでいく。だが、フェネクスはすでにその軌道を読み切り、わずかに機体を傾けてその死の光線を回避した。ビームは後方のプルーマを次々と飲み込み、瞬く間に消し去る。

 

「そんなもんか…!」

 

エリスは満面の笑みを浮かべ、フェネクスをさらに加速させた。ハニエルの巨大なシルエットが目前に迫る。モビルアーマーはその冷徹な制御システムによって反撃の態勢を取るが、エリスはその隙間を見逃さない。

 

「今だ…!」

 

フェネクスの巨斧が振り上げられ、オレンジに輝く瞳がさらに光を強める。スラスターの炎が残像を残し、エリスはハニエルの懐に入り込む。その機体の巨大さに圧倒されながらも、恐怖を感じる余裕などなかった。眼前に広がる羽を見据え、巨斧を振り下ろす。

 

「堕ちろ…ハニエルッ!」

 

巨斧がハニエルの巨大な羽を一閃し、破片が飛び散る。鋭い金属音が響き、羽が一枚、切り裂かれて空中に舞い上がった。

 

ハニエルの高周波音が一瞬静まり、ふと動きを止めた。その鋭いセンサーが何かを感知したかのように、鈍重な機体を持ち上げ、三枚の巨大な翼が揺れる。そして、無機質な動作で上空を見上げる。次の瞬間――

 

 

 

 

キュオォォオオン――

 

 

圧倒的な羽ばたきが空気を切り裂き、猛烈な風圧が周囲を襲った。フェネクスの機体はその衝撃で大きく押し返され、エリスはコクピット内で咄嗟にレバーを引き、必死に姿勢を立て直そうとする。

 

「ぐわっ!」エリスは呻き、体がシートに叩きつけられる。視界が揺れ、体感する重力が一瞬倍増したかのようだった。

 

その時、エリスの目に信じられないものが映り込んだ。遥か上空から、漆黒のモビルスーツが降下してくる。高空を切り裂きながら、黒い機体が目にも止まらぬ速さで突撃していた。その眼光は、まるで悪意を宿すかのようにピンクに煌めいていた。

 

「何だ、あれ…?」エリスが呟く暇もなく、その黒い機体は音速を超える速度で一直線にハニエルへと突進する。

 

 

 

ズドオオォォォオオン――

 

 

 

轟音が大地を揺るがす。砂塵が舞い上がり、一瞬で視界が白んだ。巨大な爆発音と共に、ハニエルの巨体が重力に引かれるように地面に叩きつけられた。エリスのフェネクスも、その衝撃で振り回され、かろうじて機体を立て直す。

 

視界がクリアになった瞬間、エリスの目に映ったのは信じ難い光景だった。砂煙の向こうから姿を現したのは、漆黒の機体――ハルファス。その黒い剣がハニエルの中央に深々と突き刺さっていた。ピンクの眼光が不気味に輝き、その光は砂塵の暗闇の中で悪魔のように禍々しく照り返していた。

 

「エリス!大丈夫か!」荒い息遣いと共に、アレンの興奮した声が通信機越しに響く。

 

しかし、エリスはその声に応える余裕もなく、ただその姿を見上げていた。凶悪なまでに美しいハルファスのシルエットが、まるで死をもたらす存在そのもののように目の前に立ち塞がっていた。

エリスは、恐怖と畏敬が入り混じった声で呟いた。

 

 

 

 

「悪魔……」

 

 

 

 

 

 




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